Always Listeningの、音や音楽からみる社会。今月の1本は、メタバースと音楽業界。仮想世界と音楽は、相性がいい?

メタバースでのバーチャルコンサートとは

仮想世界「メタバース(metaverse)」の登場は、結構古い。アメリカのSF作家Neal Stephensonが1982年に発表した小説『Snow Crash』で「登場人物が悲惨な全体主義の現実から逃れるための仮想の場所」を指す言葉として用いられたのが最初だ。メタバース内では、ゲームやショッピング、仕事など、現実世界のようにさまざまなことができる。

この“さまざまなこと”のなかで、パンデミックを機に加速した一つに「バーチャルコンサート」がある。2019年、人気ゲーム「Fortnite」と米国のEDMアーティスト兼DJのMarshmelloによるコラボレーションアイデアとして「バーチャルコンサート」を実施したことが皮切りとなった。

バーチャルコンサートではミュージシャンがバーチャルヒューマン(アバター)として登場し、ライブパフォーマンスを行う。バーチャルヒューマンはもちろんそのアーティストの好みでいかようにもできる。早くにバーチャルパフォーマンスを実施したうちの一人、ラッパーのTravis Scottの場合は、上半身裸で、巨大なヒューマンだった。バーチャルコンサートでも現実のライブと同様にグッズ販売も行われる。

ちなみにTravis Scott、ゲームFortniteとのコラボレーションで実施したバーチャルパフォーマンスでは、約20億円の収益をあげたと報告されている。同アーティストの2019年「Astroworld Tour」全工程での収益が53.5億だったことから、いかに収益化に優れているかがわかる。

なんといっても、オフラインとは集客が桁違いだ。The Weekndが2020年8月にTikTokでおこなったバーチャルコンサートには、合計200万人以上の視聴者が集まっていたという。翌年11月には、Justin Bieberが参入し、カリフォルニア州を拠点とするバーチャルエンターテインメント会社「Wave」と提携し30分間のメタバースコンサートを実施。本人のアバターがアルバム『Justice』を歌うという試みをおこなった。

オーディエンスはコンサート中にチャットメッセージを送ったり(ジャスティン本人がリアルタイムで確認できる)、感情を表す絵文字のようなものでリアクションをしたり、またライブにいる自分自身を確認するなどのインタラクティブなやり取りを行ったという。

類人猿のバーチャルバンドの、バーチャルパフォーマンス?

2022年に入ってもメタバースでの音楽パフォーマンスに関する話題は尽きない。そして引き続き、なかなかのカオスっぷりだ。たとえば今年3月、Universal Music Groupのレーベル「10:22PM」は「4つの仮想的な類人猿によって結成されたバーチャルバンドKingship」を率いるために、約36万1,000ドル(約4,600万円)のNFTを購入。もはや、バンドメンバーがバーチャル。しかも類人猿…! 最終的に同バンドは音楽制作をし、メタバースでバーチャルパフォーマンスを行う予定だというから気になる。

欧米だけでなく、4月にはインドで初となる「メタバースコンサート」も開催された。「音楽NFTをポップカルチャーの最前線に押し上げること」を目指すインドのNFTマーケットプレイスJupiter Metaは、メタバースコンサートの実施が成功だったと発表。コンサート中に観客は、拍手をしたり、手を上げたり、絵文字を送信したりするなどのアクションで参戦していた。

仮想現実でのバーチャルコンサートのアイデアやパフォーマンスがずば抜けている、楽しい——これもまた、これからの時代のアーティストが人気を博す一つの鍵になることは間違いないだろう。

Eyecatch Graphic: Midori Hongo
Words: Hiroko Aoyama (HEAPS)

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