新しい物事を学ぶことは、自己肯定に繋がることからウェルネス/ウェルビーイングにもプラスに働きかけるといわれる。
大人の学びたいことランキングの常連といえば、第二言語だ(昔から英語が幅を利かせているが、最近は韓国語をはじめとしたアジア諸国の言語も人気を伸ばしている)。 この新たな言語の学びにおいて、過去に「音楽をやっていた」経験が大きな一助になるという。
すべての学びに関わる音楽
音楽を学んだ経験は、母国語以外の言語を学ぶ際にプラスに働くことが、最近の研究で明確になった。 ニューヨーク州立大学バッファロー校による研究が「ピアノやバイオリンなどの楽器の演奏や歌、楽譜を読むなどの音楽を学んだ経験は、第二言語を学ぶのに効果的である」と発表。 これは子どもに限らず、大人も含まれる。
第二言語のなかでも、音の抑揚によって意味を伝える声調言語に特に有効だという。 身近なものでいうと中国語やベトナム語、タイ語といったあたりか。 音楽経験がこの声調言語にどう役立つのか。 これは想像に難くないが、音楽の経験がある人は比較的ピッチパターンの変化をより正確に真似することができるという。 英語学習系動画でも「映画やドラマのセリフや、歌の歌詞をそっくり真似することで英語力が伸びる!」とはよくいわれたもので、音楽をやっておくとこの “真似をする力” がそもそも高い(高くなる)ということだ。
実験は、英語と中国語話者、音楽経験者と非経験者を127人集めて実施された。 英語、中国語それぞれの言語で96の短い文章を作成、話し言葉の音節とピッチに基づいたピッチパターンと、そのピッチパターンをベースにした短いメロディをつくり、参加者はそのいずれも発声で再現する。 結果、音楽経験者はピッチパターンとメロディのいずれにおいても、より正確に音節や音感を合わせた。 また、中国語話者は英語話者に比べて、ピッチパターン内の変化やピッチパターンの間の変化をより正確に模倣した。 抑揚やアクセントの取り方で、感情、ニュアンス、意味が変わってくる声調言語における「ピッチの真似の正確性」は、話す力においてはイコール言語習得能力といっていいだろう。 またこれは言語習得が音楽に活きる、音楽経験が言語習得に活きる、いずれもの可能性を示唆している。
音楽学習そのものが認知機能の発達に効果的だとされ、児童への音楽教育プログラム改変を急速に進める国も、オーストラリアをはじめ増えてきている。 10〜13歳の子どもを対象に注意力と記憶力に関するテストを行ったところ、音楽を習っている子どもは習っていない子どもに比べ、すべてのテストにおいてスコアが上回った(Pontificia Universidad Católica de Chile*調べ)。 音楽そのものを学ぶだけでなく、すべての学習に関わる力を養う音楽をどのように学ぶのか、という方向性での見直しとなる。 音楽の英才教育的に「寝る前に(古典)音楽を流しておく・・・」といったことが、音楽を学ぶ以外にも役立つ可能性があるとすると…音楽家にならずとも、割と大正解な教育だったり?
*南米で最も有名なカトリック系総合私立大学
学ぶこと自体もやっぱりいい
音楽を学ぶこと自体が心身にポジティブな効果をもたらすという研究報告も。 ネイチャー・サイエンティフィック・リポーツ誌に掲載された研究によれば「大人の初心者のピアニストに対し、11週間にわたりウィリアム・ギロックの「堂々としたサラバンド」やブライアン・ケリーの「ジプシー・ソング」などの曲のレッスンを実施したところ、参加者の抑うつ、不安、ストレスのスコアが減少。 また、音楽に限らない作業においても、視聴覚処理の正確さの向上が見られたとしている。
やる気さえあれば生涯続けられる「学び」という行為。 米国の全米ウェルネス協会が提示するウェルネスの要素にも「知性」というワードは含まれている。
ウェルネスの根幹にあの頃の音楽経験が少なからず活きると知って「バンドやっててよかった」と思えることも、自己肯定に繋がったり…。
Words:HEAPS