オーディオテクニカのマイクロホンはほぼすべてが手作りで、かつ国内製造されていることをご存じだろうか。詳しくは後述するが、2013年に誕生した究極とも言える音の “素直さ” をもつ、4つの振動板(=ダイアフラム)を搭載させたフラッグシップモデル『AT5040』が実現できたのは、その製造体制を貫き、大切にしているものを守り続けてきたからに他ならないだろう。

今回ご登場いただいたのは、10代から日本の民俗音楽をフィールドワークをし、現在は世界でジャンルレスに活動をする、太鼓、笛、胡弓奏者の吉井盛悟さん(右)と、奄美出身/在住の唄者であり現在、EarthVoiceという音楽プロジェクトを吉井さんと共にする平田まりなさん(左)。そこに同席、案内をしたのは、『AT5040』の開発責任者である沖田潮人(写真中央)。

東京・町田市にあるオーディオテクニカ本社のすぐそばに位置している、マイクロホンの製造工場見学からスタートした取材は、マイクロホンと和楽器に共通してあるクラフトマンシップを見出すところから、西洋の音楽と日本の音楽における根本的な違い、和楽器の課題とテクノロジーと寄り添うことによる可能性の話題にまで至った。

話を聞いていったのは、WATARIGARASUのディレクター兼編集者の大隅祐輔。

マイクロホン工場見学、とてつもなく薄い金蒸着の振動板

マイクロホン工場見学、とてつもなく薄い金蒸着の振動板
マイクロホン工場見学、とてつもなく薄い金蒸着の振動板

沖田:ここがマイクロホン製造のメインの場所です。オーディオテクニカが展開しているマイクロホンはサイズや指向性違いで300種類ほどあり、ここでは常時、約80種類が同時進行かつ手作業で作られています。これがマイクロホン内部におさまっているユニットのパーツで、この音を受ける金蒸着の振動板*の製作もここで進められているんです。ぜひ触ってみてください。

*振動板:空気振動を捉える大切な音の入り口。音を受けて振動する部分。厚さはダイナミックを含めると数μ(ミクロン)〜数十μ程度。振動板によって音質が大きく変わる。



吉井:へぇ~~! 手汗が出てきてしまいそうなほど薄いんですね。

沖田:重さはほぼ感じないですからね。その膜を太鼓のようにピンと張って、テンションを調整していくんです。

平田:これを手作業で……大変そう……。

沖田:非常に扱いにくいものなので、機械で自動的に張れるような作業ではありません。元々は今触っていらっしゃるツルツルしたもので、そこに模様をつけるんですね。そうすることで表面積が増え、拾える情報量も増やすことができます。マイクロホンによって振動板の形やサイズは変わり、コンデンサー型*マイクロホンとダイナミック型*でも膜が違うんです。しかも、そういったパーツをただ組み立てるのではなく、温度や湿度をかけたり、通気と呼ばれる空気が流れる量を調整したりと、完成まで様々な工程があります。

*コンデンサー型:コンデンサー(電気を蓄える)の原理を応用したマイクロホン。 振動板とバックプレート(固定極)の間にあらかじめ電気を蓄えておき、音を受けて振動板が動くことにより、変化する電荷の量と電圧変化を音声信号として取り出している。ダイナミックレンジが広く高感度で、細かな描写や表現まで収音することができる。

*ダイナミック型:コイルと磁石による電磁誘導作用を応用したもの。振動板に取り付けられたコイルが磁石の周り(磁界)で動くことで、振動を電気信号に変えている。ムービングコイル方式とリボン方式があるが、ムービングコイル方式が一般的。壊れにくく力強い音質。

オーディオテクニカの振動板は高分子フィルムに金蒸着を施したもので作られている。代替として使える素材もあるそうだが、ずっと素材は変わっていない。
オーディオテクニカの振動板は高分子フィルムに金蒸着を施したもので作られている。代替として使える素材もあるそうだが、ずっと素材は変わっていない。

平田:こういった背景を見ておくといいですね。マイクロホンを大切にしなければならないという気持ちが芽生えてきます。

吉井:僕たちの楽器はアナログで、例えば太鼓だったら職人がカンナで中を削り、内部を波のようにしたり、亀甲柄のようにしたりと、色んな形にすることで音の実験・検証をしていて、オーディオテクニカのマイクロホン製造も感覚的には同じというか。デジタル領域のものと思われがちですが、非常にアナログであることがよくわかりました。

沖田:ただ、オーディオテクニカもやはりメーカーなので、数値で追い込む必要はもちろんあります。すべてにおいて測定を行い製品を完成させるので、背景は職人的でありながら、やはり本質は製造業なんです。

吉井:和楽器もそういったデータが欲しいと前々から思っていたんですよ。和楽器は動物や自然物を素材にしてできているので、完璧に同じものを作ることができない。素材が揃わないと定量化ができないため、演奏者側がノウハウを抱えてしまうんです。この太鼓だったらあと5年待った方がいいなとか、形が整っていい音が出るという段階が委ねられている部分が多いと言えます。

無響室見学、測定・検証されてこなかった和楽器

無響室見学、測定・検証されてこなかった和楽器

沖田:この場所は測定を行う無響室。その名の通り、外部からの音を完全にシャットアウトさせた0dB SPL(=音圧をデシベルで表した単位)の空間です。マイクロホンを測定する際、反射波が入ってきてしまうと正しい測定ができないので、吸音材で空間を囲み、音の反射も抑えています。それと、相当低いレベルのノイズを測ることもあるので、測定に影響がある耳では感じられないような車のわずかな振動をなくすために「浮き遮音構造」によって防振されてもいる。あと、ここが特殊なのは地面がないこと。普通は地面の反射から音を受けるので、そこに特に違和感を覚えるんです。

無響室見学、測定・検証されてこなかった和楽器

平田:自分が出す音がどこまで届いているのかな、と想像しながら歌を歌ったり、演奏をしている身としてはね……すごい違和感ですよ……。

沖田:「サー」っていう音が聴こえてきませんか? それは自分の血液が流れる音だったりするんですよ。

この空間で和太鼓を叩いたら、かなりデッドな音になるんでしょうね……。

沖田:おそらくつまらない音になる気がしますね。大切な余韻が残らないので。


吉井:でも逆に言うと、太鼓自体の余韻が残るわけですよね?

沖田:確かにそうかもしれないですね。

吉井:太鼓って外で叩く、つまり反射があまりない環境下で叩く想定で作られているから、もしかしたら無響室と近いのかもしれない。

沖田:どんな音になるのか、私も興味があります。オーケストラになると、音の響きを3次元で再現し、どういうふうにバイオリンが鳴るかという検証を行っていたりするんですが、和楽器は私も見たことがない。

これは風雑音を測るための装置。
これは風雑音を測るための装置。

吉井:先ほどの話に繋がるんですが、日本文化はロジックを積み重ねて答えを出すというより、レンマというか、感覚的に全体を一気に捉える風潮を重要視するところがあるんですよね。音楽を口伝によって伝えることはその一つですし。だから、測定・検証というものをこれまで好んでこなかった。

沖田:西洋の音楽は複数の楽器で同時に音を発する重音や調律、言い換えればロジックによる美しさが重要視されるけれども、私の印象では和楽器の場合、そこからはみ出たノイズや歪みが大事になってくる。

吉井:おっしゃる通りですね。アジアと西洋では考え方が全然違くて、僕たちは楽音を重ねる音楽表現ではなく「噪音」とも言われるノイズ的な非整数次の倍音を入れ込み、単音、短旋律の中にオーケストレーションをつくり、宇宙を創造できる。その倍音をコントロールしながら、いい意味での雑味を出すことで感情にどう作用するのかといった分析はしているのですが。


沖田:西洋の音楽とのもうひとつの大きな違いとして、和楽器の音には切り取りづらい複雑な時間変化がありますよね。測定は一瞬を切り取って数値化するので、時間変化があると定量化が難しくなってくる。

と立ち話はこのくらいにして、そろそろ下界に行きましょうか(笑)。

対談、“何もしない”設計のマイクロホン

対談、“何もしない”設計のマイクロホン

無響室で吉井さんが話してくださった「倍音によって宇宙を創造していく」ということ、それを表現し、広く放つためのインターフェースであるマイクロホンの重要性についてお聞きできたらと思います。工場での沖田さんのお話にあったように、マイクロホンには様々なタイプ、レンジがありますよね。エントリーモデルからハイエンドまで数えていけば実に多様で、それぞれに特徴があると思います。 “表現” という点で言うと、やはりそのなかでもできる限りハイクオリティとされているものがベストなのか否か。

吉井:ハイクオリティの “ハイ” が何を指すのかによると思うんですよね。笛を例として挙げると、息音が入った時とそうでない場合があって、後者だと西洋音楽における楽音に近づき、音としては立つんですね。ただ、先ほど沖田さんがおっしゃっていた「ノイズや歪み」に繋がりますが、息による雑音が入ることがすごく重要で、フルートとは全然違う音色になる。

吉井さん曰く「日本の伝統的な楽器は「ありもの」で作られている。笛はその辺で生えている竹を細工したものですし。長く使われているものは特にどんどんシンプルになっていて、個人のエゴが入り込む余地がなくなる。それが興味深い」。
吉井さん曰く「日本の伝統的な楽器は「ありもの」で作られている。笛はその辺で生えている竹を細工したものですし。長く使われているものは特にどんどんシンプルになっていて、個人のエゴが入り込む余地がなくなる。それが興味深い」。

吉井:そういうふうに吹くと、息音がブワッと一気に立ち上がり、次第に安定していくわけです。でも、毎回ライブの現場で悩むんですね。PAにイコライザーを使って高音部をカットしてもらい、雑味を消し音色が安定して楽音になったところを使う方がいいのか、その逆にするべきか。

西洋の楽器のようなある程度コントロールできるものと違って、和楽器の場合は特に演奏する環境やマイクロホンをはじめとする機材からの影響があり、必ずしもハイクオリティなものが正解とは限らないのではないか、と。

沖田:マイクロホンが表現する音色に関しては好みがあり、ハイクオリティを一概に定義することは難しいんですが、ダイナミックレンジ*とS/N比*は嘘をつかないので、情報量の多さは確保しておいた方がいいと思いますね。

*ダイナミックレンジ:小さな音から大きな音まで、そのマイクロホンが捉えることのできる音量の幅をデシベル(dB)で表したもの。最大入力音圧レベルと自己雑音レベルの比。数値が高いほうが優れている。

*S/N比:信号(シグナル:S)と雑音(ノイズ:N)の比率。信号対雑音比とも呼ばれる。基準となる信号を入力した時の出力レベルと、無音状態でマイクロホンが発生する雑音レベルの比率をdB(デシベル)で表したもの。数値が高いほど信号に対する雑音の影響が少ない。

中央が『AT5040』の内部。その左隣が、同じく長方形の振動板が採用されているスティック型の『AT5045』。
中央が『AT5040』の内部。その左隣が、同じく長方形の振動板が採用されているスティック型の『AT5045』。

そのダイナミックレンジとS/N比を高めるために重要なのが、冒頭のお話で出た振動板なわけですよね? 今回、沖田さんにはフラッグシップモデルに当たり、かつてなかった4つの振動板をもつ『AT5040』や『AT5045』などのマイクロホンをお持ちいただきましたが、仕組みを改めて教えてもらえたらと思います。


沖田:工場で見た通り、マイクロホンユニットには振動板があって、その後ろにあるバックプレートとの間に電界を与える大体50ミクロンくらいの隙間が空いているんですね。そこで振動板が音を受けると動き、出力のための信号電圧が作られる。ただ、そのままだとインピーダンスが高い状態(=簡単に言い換えると電流が流れにくくなる)ので、インピーダンスを低くするための電子回路が下部についています。

基本的にオーディオテクニカのマイクロホンは音を作ったり、イコライザーをかけたりといったことをしていません。それは、そのための回路が加われば加わるほど、そちらに電流が使われてしまうため、トレードオフされてしまうから。なので、なるべくダイナミックレンジを広くするために、 “余計なことは何もしない” 設計になっているのが特徴です。無駄なものを一切なくす。そうすることで、性能もコストパフォーマンスも上がるんです。


中身がこんなにシンプルで美しいものだとは思っていなかったです。

沖田:ありがとうございます。でも意図的にデザインしているわけではなく、この形は必然的に生まれたもの。外側に関しても音響が第一なので、限りなくシンプルになっています。
松竹梅はあるものの、オーディオテクニカのマイクロホンはローエンドからハイエンドまで「似た音がする」と言われるんですね。そこは素直さ、自然さを共通して大事にしているからなんじゃないかと思っています。

と考えると、オーディオテクニカのマイクロホンは全般的に和楽器と相性がいいのかもしれませんね。誇張させないというか。先ほどの吉井さんのお話だと、いかに素直かが重要なように感じます。

吉井:そうですね。胡弓であれば駒(=弦の振動を伝えるブリッジ)の素材を変えることで多少、特定の倍音をミュートして出音の音色の調整は演奏者側で調整できます。そうすることであくまで楽音としては扱いやすくやすくはなるんですが、音自体が変に誇張されず、素直で自然であることは僕たちにとってとても大事。


吉井さん所有の胡弓の弦を支える駒。左から拓殖、紅木、水牛の角、鼈甲(折れた三味線のバチから削り出したもの)。これを交換するだけでも音は変化する。
吉井さん所有の胡弓の弦を支える駒。左から拓殖、紅木、水牛の角、鼈甲(折れた三味線のバチから削り出したもの)。これを交換するだけでも音は変化する。

アナログというか、伝統があるが故の強みではあるものの、調整は本来的ではないということですよね。

残ってきたソウルを絶やさないために、テクノロジーと寄り添う

沖田:吉井さんは室内で演奏されることの方が多いんですか?

吉井:色々な現場があるので両方ですね。鼓童に所属していた20代の頃は室内が多かったんですが。

沖田:室内外で演奏の仕方も変わってくるものなのでしょうか?

吉井:演奏もですが、準備の仕方も変わります。外だと空調がないから、時間帯や気候も気になりますしね。昼間から太鼓を外に出しておくと、夜には皮がベロベロになってしまったりするので……。

沖田:マイクロホンも温度と湿度変化に対する要求がかなりシビアで……。なので用途にもよりますが、下はー10℃、上は60℃までは変わらないように作られています。マイクロホンは人工的なものなので、それが可能になるのですが、楽器の場合、そうはいかない。

吉井:ただ、楽器は呼吸するよさがあるから、それは言い換えれば長持ちするっていうことでもある。まりなが使っている楽器はひいじいちゃんの代から使っていたりするしね。

平田:そうですね。なので、もう100年近く使っているんですよ。


平田さん曰く「三線の皮は本当は錦蛇のものが使われるんですが、これは絹張り。沖縄は本革じゃないと許されなかったりするけれども、奄美の場合は伝統がそこまで固定化されていないんです」。
平田さん曰く「三線の皮は本当は錦蛇のものが使われるんですが、これは絹張り。沖縄は本革じゃないと許されなかったりするけれども、奄美の場合は伝統がそこまで固定化されていないんです」。

吉井:自分が生きている時間、さらにいうと現役でやっている時間って数十年だし、自分優先に考えていたら楽器自体、またその素材を都合によって進化させることは自然かもしれない、例えば僕の友人で、インドのサロードという民族楽器をやっている人がいるんだけど、「まだ動物の皮張ってるの?」「時代がもう違うよ」って言われて。動物愛護の観点で見れば、そういう意見が出るのは確かだと思いますが。

沖田:時代が変わる瞬間に今いますよね。

吉井:でも僕は頑なに変えないんです。なるべく生き物の命をいただきながら活動をしていきたい。人間が活動する限り、どうしたって残酷さ、残忍さを含んでいるので。


平田さん所有のヤギの皮が使われている太鼓。鋲打ちされている太鼓の原型なのだと言う。
平田さん所有のヤギの皮が使われている太鼓。鋲打ちされている太鼓の原型なのだと言う。

吉井さんも平田さんもマルチプレイヤーとして活動されていますが、楽器や歌はどのように会得をしていったんでしょう?

吉井:まりなは特にそうだと思うけど、地元でずっとやっていたんですよ。

平田:私は島で祖母から唄を習い、三味線は他の師匠に教えて頂きました。

吉井:僕は地元に古い音楽芸能がなかったので青年期から地方芸能を習いに色々なところに出向き音楽を習いました。まりなも僕も、マルチプレイヤーになっていくのは郷土の芸能って何でもできないといけなくて、例えばお祭りの時、「誰々さんが着替えにいっちゃってるからあとやっといて」みたいな(笑)。でも、小さい頃から聞いているからできちゃう。

郷土芸能、民俗芸能の面白さは仲間のお互いの音を熟知しているから相互に交代可能だし、演奏中に主導権が変わっていくことだったりする。音楽が踊りに合わせたり、音楽による合図で踊りが変わったりもする。古典芸能としてちゃんと舞台上で職業芸人が芸をするとなると専門特化されていくんですが、僕たちのような雑多なものから生まれている音楽はそのあたりがファジー。


口伝によって受け継がれていく良さも悪さもあると思うんですが、西洋的に形式やルールが優先されていると、どんどん狭き門になっていってしまう。今、「雑多なもの」とおっしゃいましたが、どんどん受け入れていくような姿勢がないと広がり、残っていかないとも思うんです。

吉井:どんな音楽が面白いのかっていうのもあると思うんですよ。例えば、YMOが沖縄のグルーブを解析して電子音楽として再構築してきた。そういった分析も必要なんだけれども、一方で現地のいい音楽が分析で成り立つかと言ったらそうとも言えなくて。さっきの「雑多さ」の話の延長ですが、色々と状況によって音楽の役割が変わっていっちゃうとか、お酒を飲んでいたらテンポが上がっちゃうとかもあるし、すべてを分析できるとは一概には言えない。

秩父の屋台囃子の方の話を聞いたら、夕方にこの坂を通るお囃子が一番いいんだ、と。朝一からやっているから、みんなくたびれているんだけれども、後半に向けて気合いを入れ直す時間帯も相まっていて。つまり、数字的な「分析」と人間味としての「雑多さ」のバランスが大切だと思うんです。

沖田さんは今のお話を聞いて、何か思うことはありますか? 一貫されてきた伝承方法や受け入れ方に対してなど。

沖田:マイクロホンは歴史的に見れば100年あるかないかくらいの短さなので、伝統的な楽器とその伝承とを照らし合わせることは難しいんですが、音波は空気の圧力変動による物理現象なので、ずっと変わっていないわけです。マイクロホンは計測器に近いところがあって、ありのままを電気信号に変える道具。目標とするスペックは明確に数値化できますし、物理現象に対する理解が前提として必要ではあるけれども、継承という意味では一貫してブレていない。

吉井:西洋楽器と一緒にやる際、PAをしてもらうと、圧倒的に向こうが有利だって思うんですよ。ベースドラムだったら、最初小さくてこもった音がみるみるうちにかっこいい音に変わり、会場中に響きわたっていく。それは、ドラム自体がPAと一緒に歴史を過ごしてきたからだと思うんですね。その歴史が日本の伝統的な音楽にはない。なので、感覚的で曖昧になってしまっている音楽感性を変えていくべきだと僕は思うんですね。そうしないと、地域音楽を核に引き継がれてきた地球由来の源泉的な音楽のソウルがやがて失われてしまう。

こちらも平田さん所有の竪琴。里国隆という伝説的な盲目の芸人が使用していたことでも知られ、平田さんのおばあさんは里国隆と一緒に巡業をしていた歌い手なのだそう。
こちらも平田さん所有の竪琴。里国隆という伝説的な盲目の芸人が使用していたことでも知られ、平田さんのおばあさんは里国隆と一緒に巡業をしていた歌い手なのだそう。

継承と発展のためにも現代のテクノロジーと寄り添い、データを残していく必要がある。

吉井:蓄音機が生まれ、マイクロホンが生まれ、と進歩によって音楽の形態は変わっていきましたよね。音楽を記録したり、それまで集団で合奏していたものが個人で聞けたりという大事件が起きた。そういう歴史と和楽器は直接は繋がっていないんです。個人ではあるんですけどね。でも、業界自体の認識が変わっていかない。

沖田:と考えると、海外のレコーディングエンジニアが和楽器の演奏を録ると、これまでとは違うものになりそうですよね。

吉井:そうなんですよ。僕の場合、海外のエンジニアの方がやりやすかったりするんですね。それは和楽器に対する先入観がないから。どんな音なのか、何が鳴っているのかと、彼らはつぶさに注意し、本当に興味をもってやってくれる。

そういう意味でもマイクロホンのもつ素直さが大切になってくる気がします。より様々な検証ができるようになってくるというか。

吉井:先ほど沖田さんがおっしゃっていた幅広いダイナミックレンジがあれば、きちんと倍音が収められますしね。

沖田:音は本当に微細な物理現象なんです。それをしっかりと拾い出すためには繊細さがとても重要。

吉井:科学技術が急成長し、人間も行き着くところまで行き、地球が限界まで来ていると言われている今、どんな音を選ぶべきか。なるべく地球にとって負担がない音ってなんだろうと考えた時に、僕たちが扱う楽器は自然から作られたものですし、人間が自然の一部だった頃を意識するような素直な音を放っていきたいんですよね。音楽は色んなことに気づいてもらうきっかけにもなり得るはず。

今日は時代の変革期の音づくりのヒントを工場見学でたくさん頂いた気がします。良い音を追いかける人の営みとして先端技術と伝統的な音楽が同一線上にあるとつくづく思いましたね。


吉井盛悟

Shogo Yoshii

神奈川県横浜市出身の太鼓笛・胡弓奏者であり、日本音楽の作曲・演出家。学生時代より世界の民族音楽に興味を持ち、日本の土着芸能のフィールドワークに励む。2003年から10年間、佐渡に渡り「太鼓芸能集団 鼓童」に参加。鼓童在籍中は演奏及び公演の演出や作曲を担当した。鼓童から独立した後はダンス音楽やクラシック音楽との共演などジャンルを越えた活動も幅広く行う。現在まで世界38ヶ国、1200公演以上の公演を果たしている。
HP

平田まりな

Marina Hirata

奄美市名瀬出身、在住。6歳より唄者である祖母、松山美枝子に島唄を習い始める。奄美及び全国各地の民謡大会で数々の賞を受賞。奄美、関東圏を中心とし、また国外でも島の文化を広める活動をしつつ、舞台女優や歌手としてなど多方面への活動に挑むことで島文化の主観的、客観的な魅力についての感性を磨く。島唄を掘り下げて見えてくる総合的な島の美しさとその島の心を伝えるべく、島内での活動を第一に子どもたちへの島文化の継承に励む。
HP

Earth Voice


日本を代表する奄美の唄者平田まりなと、世界で活躍する日本音楽作曲家の吉井盛悟の未来派音楽プロジェクト。既にある豊かさを愛で、その価値をシェアし「地球と人との共振のツール」としての音楽を未来に繋げていくことを目指しています。
HP

Photos:Shintaro Yoshimatsu
Words & Edit:Yusuke Osumi(WATARIGARASU)

SNS SHARE