ある晩バーでテキーラ・サンライズを飲んでいると、行ったこともないのにメキシコの情景が脳内に広がった。
特徴的なつば広帽子のソンブレロ。髭をたくわえた男性。コロコロとした丸みのある音色が特徴のマリンバ。胸に構えたギター。そして音楽に合わせて、演奏者も観客もみんな楽しく踊る。
なんだか音楽が気になったので、調べてみることにした。
どうやらメキシコには、非常に幅広いジャンルとパフォーマンスの音楽が存在するようだ。
陽気で明るい曲のイメージしか無かったので、これには驚いた。他にはどんな曲があるのだろうか。
今回は筆者が調べて聴いたメキシコ音楽について紹介していこう。

メキシコ音楽のあゆみ

マリアッチ

メキシコの伝統音楽が本格的に発展し始めたのは、19世紀頃からだ。
メキシコは16世紀頃から約300年近くスペインの植民地だった。そういった時代背景があり、メキシコ音楽はスペインをはじめとしたヨーロッパの影響を大きく受けている。また当時のメキシコ音楽の多くは、国防や侵略者に対するアンチテーゼ、愛国的なテーマがあった。
一方、メキシコの先住民であるネイティブ・メキシカンたちは、ドラム、フルート、ラトル、コンチェなどを用いて音楽やダンスを作り、楽しんでいたという。
このような民族音楽やローカル音楽は、現在でもメキシコ音楽の一部として使われている。

メキシコの代表的な伝統音楽たち

メキシコ音楽の中でも代表的な伝統音楽を、かいつまんで解説していこうと思う。

・マリアッチ

メキシコ第2の都市である、ハリスコ州グアダラハラで18世紀頃に生まれたといわれるマリアッチ。その起源は、開拓時代の16世紀まで遡る。
ギタロン、ビウエラ、ギター、バイオリン、トランペットを基本編成としたメキシコの伝統的な楽団形式をマリアッチと呼び、この楽団が演奏する音楽もマリアッチと呼ばれる。

邦題で「麗しくも愛しのメキシコ」。自国への愛が詰まっており、メロディーもカントリーな印象を受ける。

・ランチェーラ(カンシオン・ランチェーラ)

メキシコ革命と同時期の20世紀初頭が起源といわれている。
1930年代から1950年代のメキシコ映画の黄金時代には、メキシコだけに留まらず、ランチェーラは世界中に認知されることとなった。

情熱的に歌い上げるのが印象的。ラテン音楽の影響を感じる。ワルツやフラメンコの音楽を彷彿とさせる。

・ソン

ソンはキューバが起源のラテン音楽だが、メキシコのソンはキューバのソンとは全く異なるものだ。
​​主にストリングスで構成される大きなアンサンブルで演奏される。
地域によってはマリンバアンサンブルになったり、管楽器アンサンブルになったりする。

「これぞメキシコ!」と言いたくなるような、非常に陽気でリズミカルなのが印象的。ダンサブルな一曲。

・コリード

メキシコ革命前後の20世紀初頭に現れ、当時は出来事やニュースを大衆に伝える歌として広まった。
14世紀末から15世紀にかけてスペインで生まれたロマンセ*1という詩の形式が、コンキスタドール*2によって新大陸にもたらされ、独自に発展していったものだ。
アコーディオンがワルツやポルカのリズムで主旋律を奏でて、2人のボーカルがハーモナイズすることが多い。

*1 スペイン語による詩の形式。同名の「ロマンセ」という韻律で書かれるもの。散文で書かれたロマンセもある。ロマンセは詩であると同時に歌でもある。
*2 15世紀から17世紀にかけてのスペインのアメリカ大陸征服者
本来はスペイン語で「征服者」の意だが、特に16世紀初頭に南北アメリカ大陸を征服したスペイン人冒険者たちのことを指す。

・クラシック

メキシコのクラシック音楽の起源は16世紀半ばである。スペインの植民地時代に教会音楽が演奏されたことに遡る。
その後、19世紀後半にヨーロッパ留学を終えたメキシコの作曲家や演奏家たちによって、国内でのクラシック音楽の普及が促進された。

デンジャラスで野生的な迫力が非常に印象的。

メキシコ音楽の魅力を垣間見た

調べていく中でも、メキシコのクラシックには大変驚いた。
もともと歌や踊りを好み、リズム感にも優れているメキシコの人たち。
西洋のクラシックという異文化と出会い、長い時間をかけ、自国の音楽文化と自然に融合させた。そうしてメキシコだからこそできる、新しい魅力を持ったクラシック音楽を生み出したのだろう。
クラシックは美しく気品があり、壮大というイメージが強い。
今回例として挙げた、レブエルタス『マヤ族の夜』より第4曲「魔術の夜」。
こんなにエスニックな雰囲気を漂わせたクラシックを聴くのは初めてだ。
異文化が融合する面白さを改めて感じることができた。

Words:K.3U

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