オーディオテクニカのレコードプレーヤーは、いろいろな材質で作られています。 アクリルはガラスのように透明で美しく、それでいて加工がしやすい素材です。 今回はキャビネット素材のアクリルについて、オーディオライターの炭山アキラさんに解説していただきました。

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アクリルの歴史と特性

アクリルという素材は合成樹脂の一種で、1934年頃に開発され、一般使用されるようになったそうです。 原材料は石油で、レコードに用いられる塩化ビニールをはじめ、石油化学の発展によって合成樹脂の開発が花開くのは第二次世界大戦後ですが、アクリルは大戦前から存在したことになります。

比重が比較的重く、非常に堅くてボンボン鳴りにくく、ガラスに匹敵するほど透明度が高く、それでいて熱可塑性だからさまざまな形に加工しやすい。 こんな物性を持つアクリルは、開発から90年近くを経た近年にあっても、非常に多くの場所で活用されています。

音楽の世界で目を惹くのは、アクリルで外枠を作り上げた「クリスタル・ピアノ」でしょう。 何人かの人気アーティストがPVやライブで用いているところを、ご覧になった人も多いのではないですか。

ただ、前述の通りアクリルは重くて鳴きにくいため、木製の一般的なピアノに比べて重くて持ち運びしにくく、響きも幾らか少なめだとか。 もっとも、マイクを使うポップス系の音楽なら、ほとんど問題はないそうです。

重く美しい、アクリルのターンテーブル

その「美しさ」を活用しつつ、ピアノでは若干の難点ともなってしまった「重くて丈夫で鳴きにくい」という特性を存分に生かし、構築されたオーディオ機器があります。 残念ながら限定モデルで生産完了になってしまいましたが、オーディオテクニカの創業60周年記念レコードプレーヤー『AT-LP2022』です。

こういうちょっとビックリするような美しさを有し、しかも他に類例が(全くないわけではありませんが)決して多くない製品は、「デザイン重視で音質は二の次なんじゃないの?」などと、時に邪推を生むことになりかねませんが、ことこのプレーヤーに関する限り、決してそんなことはありません。

オーディオテクニカの創業60周年記念レコードプレーヤー『AT-LP2022』

レコードプレーヤーで、キャビネットが重いことはとても大切です。 重いキャビネットは回転するプラッターをしっかりと支える礎となるからです。 巨大な金属ダイカストや、石板製のキャビネットを持つプレーヤーも存在するくらいです。

また、プラッターが重いこともレコードの再生音質に良き影響を与えます。 プラッターはモーターで駆動されていますが、世の中のモーターは、よほど例外的に凝った機構を持つものを除き、回転トルクにムラがあります。 これを「コギング」といい、プラッターを滑らかに回す妨げとして、どうやって可能な限り排除するかを競うのが、レコードプレーヤー開発の歴史にとって大きな一側面でもありました。

プラッターが重いと、モーターが少々コギングしても、回転の慣性力でその大半を吸収することが可能になります。 あまり重すぎると、今度は軸の潤滑に悪影響が出たりするので、何事も過剰は禁物ですが、適度に重いプラッターはレコード再生の音質を高めてくれる、といって過言ではないのです。

アクリルの「鳴きにくさ」もレコードの再生音質に大きな影響を与えます

また、アクリルの「鳴きにくさ」もレコードの再生音質に大きな影響を与えます。 AT-LPW30 BKやAT-LPW50BT RWのキャビネットはウッド(MDF)製で、拳で軽く叩いてみてもコツコツと締まった音しかしませんが、AT-LP2022のアクリル製キャビネットはさらに響きが少なく、ほとんど鳴きはゼロといって差し支えないほどです。

以前に少し解説しましたが、キャビネットのごく微細な鳴きもレコードの音質に反映しますから、アクリル製のキャビネットは「レコードの再生音に色付けすることが非常に少ない」と考えてよいでしょう。

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一般的なアルミ製のプラッターは、上にゴムやフエルトなどのターンテーブルシートを載せてやらないと、アルミの鳴きが再生音に乗ってキンシャンしてしまう傾向があります。 ところが、アクリル製のプラッターはそのまま使ってもほとんど音に悪影響を及ぼしません。 やはり鳴きの少ない素材というのは、レコード再生に好ましい影響を与えてくれるということですね。

Words:Akira Sumiyama

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