オーディオテクニカのレコードプレーヤーは、いろいろな材質で作られています。 プラッターひとつとってもアルミ合金とアクリル、エンジニアリング・プラスティックスとして知られるポリオキシメチレン(POM)を採用した製品がありますし、キャビネットもウッド、プラスチック、アクリルなどが用いられています。 今回は、キャビネット素材の「ウッド」について、オーディオライターの炭山アキラさんに解説していただきました。
多岐にわたるウッドの種類
一口にウッドといってもその組成はさまざまで、バルサや桐のように爪で引っかいたら傷だらけになる軽く柔らかい素材から、鉄刀木(タガヤサン)のように水に沈むほど重く、切削に苦労するほど堅い素材まであります。
また、木を切り出して板として製材しただけの「単板」と、細長い単板を継ぎ合わせた「集成材」、薄い板を木目が縦横交互になるように張り合わせた「ベニヤ」、細かな木くずを集めてバインダー(接着剤)で固めた「パーチクルボード」、紙を作るような要領で木を繊維状にしてバインダーで固めた「ファイバーボード」などなど、木材としての成り立ちにも数多くの方式があります。
そんな中で、オーディオテクニカのプレーヤーに用いられているウッドはMDF(中密度繊維板)と呼ばれるもので、前述の分類ではファイバーボードの仲間に入ります。
単板や集成材は板が反ったり割れたりしやすく、長く使われる商品としては少々扱いにくいものです。 また、ベニヤも大半の素材は東南アジアから切り出された木材が使用されますが、ロットによって比重や堅さが一定せず、やはりある程度以上の均質さを求める工業製品には扱いにくいものです。
その点MDFは非常に均質な板を確保しやすく、こういう量産を目指した製品群には使いやすい素材なのですね。 また、私も自作スピーカーでよくMDFを使いますが、カンカン鳴くことが少なく、落ち着いた音を得やすい素材という風に感じています。
キャビネットの材質はレコードの音質に関係する
「あれ、プレーヤーってカートリッジがレコードの音溝から音楽信号を読み取って、それをアンプに送るのが役目だよね。 キャビネットの材質で音が変わるの?」と考えられた人は、いい視点をお持ちになっています。
レコード再生は、髪の毛よりも細い音溝を、ダイヤモンドの針先が引っかいて音楽信号を拾っているわけですが、その振動エネルギーは想像よりも遥かに大きいものです。 皆さんも、レコードに針を落としたら、スピーカーから音を出さずにしばらく近くで耳を澄ませてみて下さい。 思ったよりもずっとはっきり音楽が聞こえてきて驚かれることでしょう。 それを、俗に「針鳴き」といいます。
それは、針先のエネルギーがアームを伝ってキャビネットを振動させているのです。 その音は、好むと好まざるとにかかわらず、再生音へ乗っていきます。 それでキャビネットの材質は音質へ重大な影響を与える、というわけです。
私自身は、安物のプレーヤーから今も使い続けているそこそこしっかりしたプレーヤーへ買い替えた時、音質の違いもさることながら、レコードから聴こえていたはずのジリジリパチパチいうノイズが、ほとんど聴こえてこなくなったことに感激しました。 キャビネットの材質が良くなり、絶対的な物量も大幅に強化されたせいで、針鳴きが激減したのでしょうね。 高級プレーヤーが概して巨大なキャビネットを有しているのは、こういうことのためだと考えられます。
グレナディラとローズウッド
オーディオテクニカのプレーヤーにMDFが使われているのは、やはりその鳴きが少なく落ち着いた響きを高く買っているからでしょうね。 しかし、MDFは無仕上げだと段ボールそっくりの冴えない見た目ですから、そのままでは少々商品性に難があります。
それで、AT-LPW30 BKでは「ブラックウッド」、AT-LPW50BT RWでは「ローズウッド」という素材を用いて仕上げられています。 突き板と呼ばれる紙のような薄いシート状に製材した板をMDFの上へ張り付け、その上から汚れや傷を防止するため、クリア塗装を施してあるのですね。
ブラックウッドというのは一般にはアフリカ原産の「グレナディラ」と呼ばれる木材の通称です。 この材は主にクラリネットなどの木管楽器を作るのに用いられています。 非常に堅く、響きの良い材質です。
ローズウッドは日本名を「紫檀」といい、遥かな昔から日本でも家具や調度品に使われてきましたし、グレナディラと同じように木管楽器や、またギターなどの弦楽器にも用いられる材質です。
しかし、グレナディラもローズウッドも、希少生物を保護するためのワシントン条約で伐採や移動、売買が禁じられつつあり、だんだん入手が難しくなってきています。
突き板は単なる飾りじゃない
ところで、そんな紙みたいな薄い木を使ってお化粧しても、音には差は出ないだろうとお思いじゃないですか?ところが、そうでもないんですよ。 私自身、MDFで全く同じスピーカー・キャビネットをいくつも作り、いろんな仕上げで音の違いを聴き比べたことがあるのですが、突き板の材質でも音は明らかに変わり、タモなどの堅い素材はピントがピシリと整った音、サクラ材ではやや明るく抜けの良い音になったものです。
さまざまな仕上げとデザインが選り取り見取りなオーディオテクニカのプレーヤーたちですが、ウッドの素材ではインテリアとのマッチングだけでなく、音質チューニングにも使われていることが分かりました。 ウッドって本当に奥が深い、面白い世界ですね。
Words:Akira Sumiyama