レコードをいい音で聴くために重要なこと、それはレコード盤をきれいな状態に保つこと。 日常的に行いたいクリーニングから重篤な汚れを落とすお手入れの方法まで、オーディオライターの炭山アキラさんに解説していただきました。

レコードはクリーニングで本領発揮

レコードというものは、V字型に刻まれた音溝からダイヤモンドの針先を使って繊細極まる音楽信号を拾っていきます。 そこにごく微細なものでも埃や汚れ、ましてカビなどが存在していたら、音楽信号はもうガタガタに劣化してしまいます。

レコードの全盛期を知る人の中には、「レコードはパチパチジリジリと雑音がするもの」という印象をお持ちの人が少なくないことでしょう。 しかし、それはレコードの真の実力では全くありません。 レコード盤そのものとカートリッジの針先をしっかり掃除していなかったから、そのような音になっていたのです。

とはいえ、それを往年のレコード・ユーザーの責任と一刀両断するのは、少々お門違いという気もします。 ごく少数の例外を除き、あの頃は今ほどレコード磨きのグッズが満足にそろっていなかった、という事情もあるのです。

一方、この現代はレコードを文字通り新品同様に、いやあるいは新品以上に光り輝かせ、音質を向上させるというか本来の実力を発揮させる、とても有望なクリーナーやクリーニング術が存在します。 段階を追って解説していきましょうか。

日常的に行いたいクリーニング

まずレコードのクリーニングには、日常的な埃払いと重篤な汚れを落とす洗浄があります。 日常的なクリーニングは以前も紹介しましたが、レコードへ付着した埃や繊維などを、クリーニングブラシで拭います。

オーディオテクニカには乾式と湿式のブラシがあります。 前者はAT6012Xa、後者はAT6012aとAT6018aですが、体感的に湿式の方がグンと汚れ落ちが良くなることを確認しています。 また、AT6018aには除電効果もあり、これがまたレコードの音質を大きく高めてくれます。

お掃除方法についてはこちら

どんなに注意していても手の脂は若干なりともレコードに付着してしまうもので、日常的にクリーナーを使っていても徐々に汚れは溜まっていきます。 あるいは中古で購入したレコードの盤面には指紋やカビ汚れが残っている場合があります。

カビやホコリが…
カビやホコリが…

そんな重篤な汚れを落とす方法ですが、こちらはごく簡易な方法から何十万円もするマシンを用いる手段まで、それはもういろいろあります。 ここでは最もお手軽な「手磨き」について解説しましょうか。

重篤な汚れを落とすには

世の中には、レコードクリーニング液やクリーニングクロスと呼ばれるものが、いろいろ販売されています。 オーディオショップやレコード店で売られているものなら、品質に問題はないでしょう。 それらを使って、レコード盤を磨く方法をご伝授します。

まず、机の上に作業用のゴムマットを敷きます。 レコードよりも大きなサイズのものがいいでしょう。 その上をきれいに清拭し、レコードを載せます。 そうしたら、盤面へクリーニング液を落としていきます。 量はお好みで加減して構いませんが、片面の音溝部分がしっかりと濡れるくらいは使ってやりたいものです。

盤面へクリーニング液を片面の音溝部分がしっかりと濡れるくらい落としていきます

この時、中心のレーベル面にできるだけ液をかけないように気をつけましょう。 レーベルは紙製のものが多く、水が主成分のクリーニング液でふやけてしまうことがあります。 また、古いレコードにはレーベル面の印刷を水性顔料で行っているものがあり、そこへ液を落とすと印刷が溶けて流れてしまいます。 くれぐれもご注意を。

盤面にクリーニング液を落としたら、クリーニングクロスを適当に折り畳み、手の指に挟んで盤を磨いていきます。 音溝へ沿うよう、円周状に拭いていきましょう。 正逆回転ともに磨くのもお薦めです。

盤面にクリーニング液を落としたら、クリーニングクロスを適当に折り畳み、手の指に挟んで盤を磨いていきます

盤面を磨き終わったら、もう1枚乾いたクロスを出し、それで液を拭き取っていきます。 ここでクロスを使い惜しみしてはいけません。 しっかりと水分を落とし切るまで拭き上げることが大切です。

拭き上げたら、そのまましばらく乾かしてあげましょう。 どんなに念入りに拭き取ってもいくらかの湿気は残り、それが繊細極まるカートリッジへ悪影響を及ぼすことがあるのです。

針先のクリーニングも忘れずに

そうやってレコードを磨き上げたら、今度はカートリッジの針先を磨いてあげましょう。 オーディオテクニカにも接触式のスタイラスクリーナーAT617aがありますが、こちらが前述の「日常」、そしてクリーニング液AT607aを使った掃除が「重篤」という風に区別してよいでしょう。

AT617aはただ針先を粘着面へ接触させて針先へ積もったホコリや繊維を取るというものですが、AT607aは薬剤を使って針先へこびりついた汚れを取り去るものです。

AT607aは蓋に刷毛が装着されていて、それで針先へ薬剤を塗りつけ、重篤な汚れを溶かして落とすという使い方ですが、私は刷毛で綿棒の先へ薬剤を塗りつけ、それで針先を磨くようにしています。 綿棒の繊維へ針先をひっかけ、少し大きな力をかけたらカンチレバーが破損してしまいかねませんから、作業は細心の注意を払う必要がありますが、これでずいぶん汚れ落ちも良くなるものですから、励行しています。

スタイラスクリーナーについてはこちら

綺麗になったレコードを聴いてみよう

こうして盤面と針先を十分にクリーニングし、改めて聴くレコードの音には、皆さんきっと驚かれると思います。 「えっ、これがあのレコード!?」という体験ができること間違いなしでしょう。 なぜこれほど自信満々にいっているのかというと何のことはない、私自身がそうだったからです。

高校生の頃から少しずつレコードを買い始め、当時聴いていたレコードはそれこそジリジリ、パチパチとノイジーで耳障りなものでした。 そして私自身、レコードはそういうものだと信じ込んでいたのです。

しっかりとしたレコードクリーニングの使用前と使用後は、もう世界がまるで違ってしまった

21世紀に入ってしばらくの頃でした。 雑誌の取材であるレコード磨きの達人と出会い、これまで述べたようなレコードの磨き方を伝授してもらったのです。

自宅へ戻り、早速愛聴盤で試してみて、改めて盤へ針を落とした時、「俺は一体これまで何を聴いてきたんだ!」と天を仰ぎました。 それほどまでに、しっかりとしたレコードクリーニングの使用前と使用後は、もう世界がまるで違ってしまったのです。

さらに、あの頃よりも今の方が、私のレコード磨きの腕前は大きく向上し、ずっと盤をきれいにすることができるようになっています。 つまり、皆さんも磨けば磨くほど腕前は向上し、レコードの音が良くなっていくのです。

もう一つ、こうやって針先とレコードをしっかり磨いておけば、レコードも針先も劇的に長持ちするようになります。 顕微鏡サイズの埃や砂などが盤面へ付着したまま針を落とすと、それが磨き砂の役割を果たして盤面や針先を痛めつけてしまうのだと考えられます。

私たちは仕事柄、プレーヤーやカートリッジなどの試聴で1枚のレコードの特定箇所を1日に何回も、時によっては何十回も聴くことがありますが、それでレコードがダメになったりすることはありません。 これもしっかりクリーニングを励行しているからです。

レコードは未来の世代へ受け継いでいくべき文化遺産です。 でも死蔵するのではなく、大いに楽しみつつ健全な音溝を将来へ残していこうではありませんか。

クリーナーはdiskunion レコクリンとOYAG レコードクリーナー、クリーニングクロスはarte RC-Cを使用しました。
クリーナーはdiskunion レコクリンとOYAG レコードクリーナー、クリーニングクロスはarte RC-Cを使用しました。

Words:Akira Sumiyama

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