日常の気遣い次第で寿命が大きく変わるコンポーネントは、何といってもスピーカーです。特に、台所用のスポンジと似た見た目を持つ「発泡ウレタン」をエッジ素材に用いたウーファーは、管理がずさんだと何年もしないうちにボロボロ、などということになりかねません。

ならばどうすればよいのか。ウレタンエッジのスピーカーで最も大切なのは、「こまめに使ってやる」ということです。皆さんも、あまり使わない革靴を久しぶりに引っ張り出したら、靴底がボロボロになっていたという体験がおありではないですか。あれは加水分解といって、発泡ウレタンによく起こる症状なのですが、これは靴でもスピーカーでも、使って動かしてやることである程度防止できるものです。


また、直射日光や強い湿気などに晒すのも良くありません。もっとも、これはウレタンエッジに限らず、スピーカー一般にいえることですけれどね。特に紙パルプ系の振動板を持つスピーカーは、部屋の湿度で音が結構大幅に変わるし、最悪の場合カビの発生にもつながりかねませんから、注意して下さい。

スピーカーキャビネットを拭くだけで音が変わる理由

これは亡くなられた実験派オーディオ評論の大御所、江川三郎さんが提唱なさっていたことですが、スピーカーのキャビネットをきれいに拭き上げると、再生音が向上するものです。これは「大切に使おう」とか、「見た目がいいと音も良く聴こえるね」などといった象徴的な意味合いではなく、実際の効果がある高音質対策です。しかも、それが同時にスピーカーのメンテナンスにもなるのですから、試してみて損はありません。

それでは、どんな働きで音が良く聴こえるようになるのでしょう。スピーカーはユニットから音が放射されますが、キャビネットに音が反射し、またユニットの振動を受けてキャビネット自体も震え、音を放射しています。それらの音が放射されるキャビネットの表面をきれいにしてやることで、音のきめがそろってザラつきが減るのではないか。これは私の体験に基づく推測ですが、そう間違っていないのではないかと考えています。


レコードプレーヤーも、スピーカーと同じく「できるだけこまめに使ってやること」が大切です。これは個人的な体験談ですが、長年愛用しているプレーヤーは結構な高級品で、もう30年以上も修理しながら使い続けています。ところが、そのプレーヤーは33回転と45回転しか回らないものだから、SPレコードをかけるために78回転が回るサブのプレーヤーを用意していました。

先日のこと、仕事でSP盤をかける必要があって、試聴用のレコードを選ぶため、10年ぶりくらいにサブ・プレーヤーを箱から出したら、何たることかプラッターの軸が固着してビクともしなくなっています。ダイレクトドライブのプレーヤーですから、モーターそのものが動かなくなってしまったと考えてよいでしょう。

このプレーヤーがわが家へやってきたのは、15年くらい前でしたか。それより遥か前から使い続けているメイン・プレーヤーは今も問題なく動き、全然使わなかったこちらが故障してしまったことになります。「やっぱり使ってやらないとダメだなぁ」と痛感した1件でした。

カートリッジもこまめに使うことが大切

カートリッジもやはり、長い間使っていないと振動系が動きにくくなり、本来の音質を発揮することができなくなっています。こちらはとにかくレコードをかけ続ければ、ある程度元に戻ることもありますが、特にダンパーのゴムなどは経年で固くなりますから、徐々に元の音から外れてきてしまうことは避けられません。

しかし、こちらもマメに使ってやっていれば、劣化をある程度抑えることが可能になります。清水の舞台から飛び降りるつもりで買った高級カートリッジを、「ここ一番のために」とほとんど使わずにいたら、いつしか本来の性能が発揮できなくなっていた、という悲劇は決して珍しいことではありません。むしろガンガン使ってやった方が長持ちする、という事態まであり得るのです。

レコードプレーヤーのダストカバー、使うべき?外すべき?

ところで皆さんは、レコードプレーヤーのダストカバーをお使いになっていますか。理想的なことをいうなら、一般的なダストカバーは大きなプラスチックの升ですから、共振源となってレコードの再生音を濁すと考えられます。それで、熱心なオーディオマニアは使わない人が多いようですね。

しかし、わが家ではダストカバーは必需品です。リスニングルームを兼ねたリビングルームに犬が同居しており、どんなに掃除しても1年中部屋には毛が舞っていますから、レコードの保護を考えると外すことは考えられません。


わが家で愛用しているオーディオテクニカのプレーヤー『AT-LP8X』のダストカバーは、材質はごく普通ながらやや厚手のプラスチック製です。そこで、ダストカバーで覆って聴いた場合と外した場合を聴き比べたところ、前者の方がごく僅かに音が曇るかなと思わないでもない、といったくらいの違いでした。これなら犬の毛や埃、カビの胞子などが盤面へ降り積もるリスクと引き換えにして十分実用的と判断し、ダストカバーを使い続けています。

アンプ類も、結局は「マメに使ってやること」が結論になりそうです。定期的に電気を溜めてやらないと回路の中のコンデンサーは傷むし、ボリュームやセレクターも動かしてやった方が、接点の汚れが溜まりにくいものですからね。

手軽にできる接点クリーニングで音質を改善

そして、アンプやプレーヤー、スピーカーのすべてにいえることですが、端子類を定期的に磨きましょう。つなぎっ放しにしているプラグとジャックも、僅かなすき間から汚れは侵入し、音を損なっていくのです。

端子のクリーニングには、オーディオアクセサリーとして膨大な種類の接点復活剤、トリートメント剤が販売されています。私も愛用している製品がありますが、それらがなければ接点は磨けないのかといえば、そんなことはありません。無水アルコールを綿棒につけて磨けば、汚れは落ちるものです。ただし、消毒用アルコールではなく、必ず無水アルコールを使って下さい。綿棒も通常サイズでは入らない端子がありますから、赤ちゃん用の細いものなどを用意しておくことを薦めます。


アルコールと綿棒で済むなら、なぜ高価なオーディオグッズとして接点クリーニングキットが販売されているのか。それは、接点を磨くだけの作用ではない有効成分が含まれているからです。

どんな端子でも、接点部分はしっかり面で導通しているのではなく、微視的に見るといくつかの点で接触しているだけ、ということが普通です。多くの接点トリートメント剤は接点部分に導電性の油や樹脂、あるいは貴金属やカーボン、ダイヤモンドなどの微粒子と油をコロイド結合した液剤などで薄い膜を生成し、導通面積を増やすという考えで作られています。その導電被膜が材質の違いによる音質傾向を持つため、数多くの製品が世に出ているのですが、どの製品もただアルコールで拭くよりも大きく音質を向上させることができます。

掃除・メンテナンスのタイミングと頻度の目安

「接点クリーニングが大切とよくいわれるけれど、どれくらいのインターバルでやればいいの?」とお思いの人もおられると思います。こればかりは環境次第と申し上げるしかありません。例えば、愛煙家の人やリスニングルームと台所が近くて炒め物の油が浮遊しがちな環境では、できるだけこまめに磨いてあげた方がいいでしょう。放熱の大きな真空管アンプやA級アンプなども、汚れがこびりつきやすいので、あまり間を置かずに磨くことを薦めます。

具体的なインターバルはというと、使う液剤にもよると思うのですが、親しい業界関係者で「毎月一度は全部磨きます」という人もいますし、私のようにうっかり半年も磨き忘れる者もいます。半年ぶりに接点を磨き直すと、それはもう劇的に音質が向上しますから、できれば3カ月置き、どんなに引っ張っても年に一度は磨きたいものです。きっと音質の向上ぶりにビックリされると思いますよ。

Words:Akira Sumiyama

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