カバー曲とは、過去にリリースされたオリジナルの楽曲を、同じ歌詞、同じ曲の構成のまま別のアーティストが演奏、歌唱、編曲をして録音された楽曲のこと。 歌い手や演奏が変わることでオリジナルとは違った解釈が生まれ、聴き手にその曲の新たな一面を届けてくれます。 ここではジャンルや年代を超えて日々さまざまな音楽と向き合うオーディオ評論家の小原由夫さんに、曲の背景やミュージシャン間のリスペクトの様子など、カバー曲の魅力を解説していただきます。

ロバータ・フラックの「Feel Like Makin’ Love」

1974年にロバータ・フラック(Roberta Flack)が全米No.1ヒットを打ち立てた「Feel Like Makin’ Love」は、彼女の代表曲であるばかりでなく、多くの女性ヴォーカリストにカバーされた超人気曲だ。

しかし作詞・作曲はロバータではなく、ましてや女性でもなく、男性ソウル・シンガー、ユージン・マクダニエルズ(Eugene McDaniels)によるもの。 彼自身、75年のリーダーアルバムに収録しているが、オリジナルとはイメージがだいぶ異なり、やはりロバータの持ち歌という印象が強い。 ちなみに邦題は「愛のためいき」。

ロバータ・フラックの「Feel Like Makin' Love」

「Feel Like Makin’ Love」の大ヒットは、1973年リリースにて同年のグラミー賞最優秀レコード賞など3部門を独占したアルバム『Killing Me Softly with His Song(邦題:やさしく歌って)』でスターダムにのし上がったロバータのショービズ界でのポジションをさらに確固たるものにした。 そこはかとない色艶が感じられるしっとりとした歌唱は、甘く、気怠い雰囲気も有している。 また、伴奏との一体感もあり、全体のムードはまさにアーバン・メロウ、アダルトな雰囲気が横溢している。

アルバムへの収録は75年の同名タイトル作で、Atlantic Records(アトランティック・レコード)からリリースされている。 また、80年にはロバータとピーボ・ブライソン(Peabo Bryson)の共演ライブ盤『Live & More』にも収録されており、歌い始めに万雷の拍手が起こっていることからも、いかに人気曲であったかがわかる。

ボブ・ジェームスの「Feel Like Makin’ Love」

ボブ・ジェームスの「Feel Like Makin' Love」

マリーナ・ショウ(Marlena Shaw)やジョージ・ベンソン(George Benson )など、ビッグネームのカバー演奏が多数あり、日本国内でも中本マリ、細川綾子といったジャズシンガーがアルバムに収録しているが、ここでは敢えてインストゥルメンタルのカバーを選んだ。 ロバータのオリジナル録音にも参加していたキーボーディストのボブ・ジェームス(Bob James)の演奏だ。 74年にCTIレコードからリリースされたファースト・リーダー作『One(邦題:はげ山の一夜)』だ。 奇しくも演奏メンバーはロバータの収録時とまったく一緒。

オリジナルの演奏が持っていたアーバン・メロウな雰囲気を残しつつ、ストリングス・オーケストラが加わることでよりゴージャスになった印象を受ける(ちなみに邦題のタイトルにもなっている「はげ山の一夜」は、ムソルグスキー作曲による交響詩。 ボブは本盤でそのジャズ・アレンジに挑戦している)。

こちらのアルバムの約半世紀後に、ボブは再びカバー演奏に臨んだ。 今度はジャズ・ピアノ・トリオでの演奏だ。 タイトルは、オリジナルのそれをもじって『Feel Like Makin’ LIVE!』ときた。

約半世紀後に、再びボブはジャズ・ピアノ・トリオでのカバー演奏に臨む。 タイトルは、オリジナルをもじって『Feel Like Makin' LIVE!』

これはスタジオでのライブ一発録りを意識した演奏だから。 ナチュラルな楽器の質感は、スタジオの自然なリヴァーブ感も相まって生々しいリアリティを実感させる。 ピアノ、ベース、ドラムの三者の距離感がステレオイメージの中にホログラムのように浮かび上がる素晴らしい録音だ。 キーボードの音色も、前述の『One』での音色を再現しているようで、なかなか楽しい。

Words:Yoshio Obara

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