女性だけでジャズをする。 パワフルで、華やかで、しなやかであたたかい。
全てのメンバーが女性であること。 それそのものが、男性優位の音楽ジャンルにおいてはいくつもの意味を見いだす手がかりになる。 シスターフッドをいま、ジャズに見つける。

力強く。 “私たち”のジャズ

ロンドンを拠点に知名度を少しずつ上げているのがジャズバンド「COLECTIVA(コレクティーヴァ)」だ。 コアメンバーは5人だが、全体では12人いる。 メンバーは全員、女性だ。 プロのジャズプレイヤーから大学生、主婦、母まで、さまざまなメンバーで構成されている。

COLECTIVA

さまざまな音楽ジャンルにおいて、クラシックでもヒップホップでも、男性優位であることは近年、より指摘されるようになっている。 ジャズもそのひとつだ。

ジャズのあり方は昔から変化が少なく、その演奏者のジェンダー格差はいまだに大きい。 とあるセッションを見に行って、女性メンバーが一人でもいるバンドを見つけたら、それはなかなかレアな夜だろう。
この現状をうけ、2018年には米国の名門大学のひとつであるバークリー音楽大学が「Institute of Jazz and Gender Justice(ジャズのジェンダー格差をなくすための研究所)」を立ち上げるなど、業界のジェンダー格差をなくす取り組みへの着手がはじまっている。
サックス、トロンボーン、トランペット、フルート、バイオリン、キーボード、ベース、パーカッション、ドラム。 大所帯のCOLECTIVAの演奏には、軽快ではつらつとした柔らかさがある。
アップテンポの曲は、太陽や砂浜、水を想起させるようなエナジーが感じられ、あかるさには格好良さが滲み出る。 演奏中に交わされる笑顔と視線が親しい。

スーツに葉巻、ウイスキー。 そんな渋いジャズの魅力とはまた一味違う。 対比して言葉にするならば、女性らしいジャズの美しさだ。 COLECTIVAは「女性としての誇りを持ちながら、ジャズ業界で女性が健全に生きていける社会をつくること」をモットーとして活動している。
デビューシングル「Under The」では、女性が社会で直面してる性差別をジャズで表現したという。 「MVでは、メンバーひとりひとりを動物にたとえたアニメーションをあえて加えました。 女性の力強さを表現したかったのです」とCOLECTIVAを立ち上げたメンバー、Viva Msimang(ヴィヴァ・ムシマング)は話す。

バンドのメンバーはコロンビア、フィンランド、キューバ、ペルー、チリ、サウスアフリカなどの国にルーツを持っており、それぞれの国の音楽要素を積極的に自分たちの楽曲に取り入れているのも彼女たちの特徴だ。 互いに一人の女性であること、それぞれのルーツを持つ一人の人間であることを尊敬し合い、共通する目的をもって、ジャズをプレイする。
今回は、ドラム担当のLya Reis Guerrero(リア・レイス・グェレロ)とトロンボーン担当のViva Msimangに、ジャズという一つの音楽に、シスターフッドを育てているその活動を聞いてみる。

Lya Reis Guerrero
Lya Reis Guerrero。
Viva Msimang
Viva Msimang。

女性だけのジャズバンドCOLECTIVAのはじまりを教えてください。

Vivi(以下、V):やっぱりジャズって、演奏者のほとんどが男性、オーディエンスも男性が大半で…。 女性のジャズプレイヤーは本当に少数派なんです。 だからこそ、女性がシスターフッドを築けるバンドを作りたいと思ったんです。

このバンドには、あえてリーダーを設けていないんですよ。 1人がリーダーとして引っ張っていくのではなくて、このバンド活動を通してメンバー全員が自己成長し、ひとりひとりがリーダーのような権利や権限を持つべきだと思うから。

バンドには、プロのジャズプレイヤーもいれば、主婦、母、そして大学生など、いろんな幅広い年齢の女性たちがいますね。 それぞれがそれぞれの生活と意見があるからこそ、インディペンデントにフラットであることは、シスターフッドを築くのに重要になりそうです。

Lya(以下、L):全体では、約12人くらいのメンバーがいます。 一番若いメンバーは、21歳。 フルタイムでミュージシャンとして活動している人がいたり、大学で音楽を勉強中のメンバーもいる。 子育てをしながら時間のある時に参加するメンバーもいたりね。 それから、コロンビア、フィンランド、キューバ、ペルー、チリ、南アフリカと、それぞれが異なるルーツを持っていまするんです。

演奏するのは、アフリカのアフロビートやラテン音楽などの要素を取り入れたジャンル「jazz tropicaliente(ジャズ・トロピカルエンテ)」。 そういったルーツを自然と調和させた結果なのですね。

L:いろんな国のルーツを持っているということは、みんなそれぞれ違う音楽を聞いて育ってきたということ。 だからこそ、さまざまな国の音楽要素をフレキシブルに取り入れられるようにしているんです。

ライブの様子
ライブの様子

デビューシングル「Under The」では力強く、華やかでありながらも、どこかしなやかで女性らしさがある印象を受けます。

V:気づけば女性らしさが音楽に現れている、という感じだと思います。 特に強く意識しているというわけではないんです。 楽曲では、出来るだけ「女性たちの気持ち」の部分を表現したいという思いがあります。

「女性らしさを」というよりは「女性である自分たちの気持ち」ということなのかもしれませんね、意図と無意識が同時にそこにある、というか…。

L:社会に存在する女性の抑圧や怒りを音楽にするときもあるんです。 リスナーに力を与えられるような楽曲を作りたい。 そのためには、難しいトピックの楽曲とも向き合っていかないダメだと思う。 時には、死についての楽曲を作ることもあるんです。 悲劇も喜劇も含めて表現できるのがCOLECTIVAだと思うから。

ジャズ業界で女性が活動するというのは、実際どういう感じなのでしょう。 ”少数派”ということを、どのようなときに実感しますか。

L:まず、女性にとって、ジャズ業界は居心地が良い場所ではない。 時に怖いと思うことすらあるかもしれない。 ロンドンのジャズクラブに行くと、男性のほうが圧倒的に多い。 そういう場で、私たちみたいな女性のジャズプレイヤーを見ることはかなり稀。 男性からのジャッジの標的にされているような、蔑まれているかのように感じてしまう。

私は物心ついた頃からドラムに憧れて、親にずっとドラムをねだっていたんだけど「男の楽器」と言ってずっと買ってもらえなかった。 ついに手に入れたのは、14歳の時。

スタートラインに立つのにも、時間がかかったんですね。

L:いま、プロのドラマーになったことを母は誇らしく思ってくれているみたいだけどね。

まだまだ、ジャズ=男性というのは根強い。

L:もうずっと昔なのに、ジャズの演奏が男性によって始まったという名残がいまもあるんだろうね。 ついこの前、ポッドキャストを聴いていて、違和感を感じることがあった。 ある有名女性ジャズ・ギタリストの演奏を聴いて「男性並みにギターを弾くね」ってレポーターが言ったの。

ライブの様子

一流プレイヤーは男性、というのを無意識にでも持っているのがわかりますね。

V:70年代のアメリカでは、女性サルサ・オーケストラなども存在したと言われている。 そういった女性の音楽演奏者たちを記録する書物やメディアがなさすぎることもあると思う。 その時代、女性はフルートやバイオリンなど特定の楽器しか演奏することを許されなくて、トロンボーンやドラムは選べなかった。 いま、私たちが積極的に女性の可能性をアピールすることで、お年寄りから子どもたちまで、勇気づけていきたい。 女の子がミュージシャンの可能性をもっと自由に見出してくれたら嬉しい。

COLECTIVAは、どの楽器も女性がプレイしているという実績をつくっています。 これまで男性たちと演奏することが必然的に多かったと思いますが、いま女性たちとジャズをプレイしてみて、どうですか。

V:昔から男性と一緒に音楽を演奏してきましたね。 ちなみに、私がトロンボーンを始めたのは10歳のときですが、その時、学校の吹奏楽部で女の子は私ともう1人だけ。 少ししたらもう1人の女の子も辞めちゃって、私1人だけになったんだよね。 いま、初めて女性同士のバンドをやってみて思うのは、やっぱり「シスターフッド(女性同士の共感や連帯感)」って感じられること。

きっと、少数派でジャズをプレイしてきて共通の体験や気持ちをもっている、というのもシスターフッドに繋がっているのでしょうね。

V:居心地が、とても良い。 安心感を感じるし、心も開きやすい。 (楽曲制作のときも)女心が通じ合っている気がする。 女性同士だからこそプレッシャーを感じずに、お互いいろんな意見を言い合えたりする部分もある。 それがこのバンドのテーマでもあると思っているの。 そういう部分も、音楽で表現したいなと思う。

ライブの様子

安心と親密から生まれるジャズ、ですね。 ツアーとかでも女性同士で助け合える部分なんかもありそう。

V:もしタンポンが必要ってなったら、誰かが常にタンポンを持ってる、とかね! 生理痛の苦しみもわかってくれるし。 痛みが酷くて薬が必要ってなったら、誰かが薬を分けてくれる。 そういう助け合いの精神を大事にしていきたいな。

昨年2021年からは、フェミニスト・アクティビズムにも積極的に取り組んでいると聞きました。 音楽活動を通して、どのようにフェミニスト運動をしているのかを教えてください。

L:次にリリースする楽曲『How do you like your ladies』は、世の中に存在する女性の抑圧、そして、それに対して私たち女性の感じ方を歌にしたいなと思っているんだ。

他にも、DV(家庭内暴力)、セクシャル・バイオレンス(性的暴行)、セクハラなど、女性がいまも闘い続けている問題を解決するための資金提供にも力を入れている。 私たちが資金集めをして、(私たちのルーツと通ずる)アフリカ人やカリブ人が抱えているDV問題を支援する団体、難民女性へサポートを提供する団体などさまざまな慈善団体に資金提供することも視野に入れています。

女性だけでバンドを組むことそのものがフェミニズムといえますが、楽曲にも活動の先にもフェミニズムに繋がるように考えているんですね。

V:ジャズには多少のルールはあるけれど、逆に言えばそれ以外は自由自在。 たくさんの美、喜び、悲しみ、怒りとかが詰まった性としての感情の起伏を、ジャズとして表現していきたいです。 女性の心の出来事をジャズで表現すること、歌を通して表現すること、それもフェミニスト的なものですよね。

それこそ、シスターフッドがあるからこそできること、ですね。 体験や感情をわかちあい、プロとしてジャズの楽曲に落とし込んでいく。 いま、女性のジャズプレイヤーとして誇りに思うことは?

L:女性のジャズバンドの実力を見くびっている人たちを、私たちのパフォーマンススキルで驚かすことができたときとかかな。

V:一緒にステージに立っている時。 周りをみれば仲間である女性がいて、みんなそれぞれ個性が強くて、独自のスタイルで楽器を演奏している。 これを目にした時です。 女性であることへの誇り、シスターフッドとしての団結を、私たちがこの手に持って、育てているということ。

COLECTIVA/コレクティーヴァ

COLECTIVA

女性メンバーのみで構成されたジャズバンド。 ロンドンを拠点に活動している。 ドラム担当のLya Reis Guerreroとトロンボーン担当のViva Msimangを中心に、12人のバンドメンバーで構成されている。 メンバーのルーツでもあるアフリカのアフロビートや、ラテン系の音楽要素などを取り入れた音楽ジャンル「jazz tropicaliente(ジャズ・トロピカルエンテ)」を主に演奏する。
今年9月には、家父長制や家庭内暴力に苦しむ女性たちの怒りを表現した楽曲『How Do You Like Your Ladies?』をリリースした。 楽曲の売り上げは家庭内暴力に苦しむアフリカ人女性やカリビアン女性をサポートする避難所へと寄付される。

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All images via COLECTIVA
Words: Ayano Mori(HEAPS)

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