ロックと一口に言っても、そのスタイルは実に多彩。芸術的な要素を持つアートロックから、ヘヴィなギターリフが特徴のハードロックまで、ロックは時代ごとに進化を遂げてきました。本記事では、オーディオ評論家の小原由夫さんが、それぞれの音楽的特徴や背景を代表曲とともに解説し、ロックの魅力を深掘りします。

目次
ガレージロック
アートロック
ラテンロック
カントリーロック
ハードロック
ブルースロック
フォークロック
グラムロック

ガレージロック

主にアメリカを中心とした、ガレージ(車庫)で練習するアマチュアロックバンドに由来するジャンルで、1960年代半ばに台頭。ここからさらに70年代後半以降にイギリスで勃興したパンクやニューウェーブに昇華する流れも見られた。当時のカルチャーとの関連から、ドラッグ等の幻覚剤との関係性が指摘されることもある。

代表曲には、リチャード・ペリー(Richard Perry)作詞作曲で、キングスメン(The Kingsman)が1963年にヒットさせた「Louie Louie」がある。私がこの曲を初めて聴いたのは、ベースはスタンリー・クラーク(Stanley Clarke)、キーボードがジョージ・デューク(George Duke)の双頭バンド、クラーク/デューク・プロジェクト(The Clarke/Duke Project)の81年リリースの1st.アルバム。ブリブリのファンキーなアレンジになっていた。

アートロック

1960年代末に現われた芸術的要素を持つロックバンドやその作品を表す。シングルヒットを意識した楽曲が多かった既存のロックに対し、そこにはアルバム重視の楽曲やコンセプトといった音楽傾向が伺える。一方で誕生の背景には、ベトナム戦争や公民権運動、学生運動等の社会情勢への反発も大きく関わっているとされる。

代表曲は、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド(The Velvet Underground)の「Sunday Morning」。ルー・リード(Lou Reed)の耽美なポップセンスと、ジョン・ケイル(John Cale)の実験的サウンドが見事に融合している。同曲が収録されたアルバムのジャケットは、1本のバナナをモチーフとしたもので、今見ても斬新。プロデュースも買って出たグラフィックアーティスト、アンディ・ウォーホル(Andy Warhol)の代表作である。

ラテンロック

中南米およびカリブ界エリアの民族音楽と、英米で確立されたロックを融合させた様式のひとつ。その地域性もあり、英語詞でなく、スペイン語やポルトガル語で歌われる曲も数多い。編成の特徴として、様々な打楽器を操るパーカッション奏者が加わっていることが挙げられる。1950年代から始まったとされるが、広く認知されたのは1969年のウッドストック・フェスティバルにサンタナ(Santana)が出演したことがきっかけだ。

代表曲は、そのサンタナの「Black Magic Woman」。官能的なギター・リフと多彩なラテン・パーカッションの競演が見事だ。ちなみに私が最初にシビレたサンタナの楽曲は「Europa(哀愁のヨーロッパ)」。これまたたいそう官能的なインストゥルメンタル曲である。

カントリーロック

1960年代から70年代にかけてアメリカで生まれたロックのカテゴリー。ロックミュージシャンが楽曲にカントリーミュージックやフォーク、ブルーグラスの様式を採り入れたことに端を発する。編成上の特徴は、アコースティックギター、バンジョー、フィドル、ペダルスティールギターといったアコースティック楽器が加えられるケースが多い。

アメリカ西海岸を代表するバンド、イーグルス(Eagles)の初期のヒット曲にしてデビューシングルの「Take It Easy」が有名だ。日本でもテレビ番組の挿入歌として頻繁に使用されてきた。リード・ヴォーカルは、オリジナル・メンバーの一人グレン・フライ(Glenn Frey)。イーグルスといえば、退廃的で苦悩に満ちた詞が印象的な大ヒット曲「Hotel California」があまりに有名だが、陽気なムードの本楽曲とはずいぶん雰囲気が違うものだ。

ハードロック

ギターを中心としたロックのスタイルのひとつで、ギターアンプを多数積み上げ、歪ませた大音量でギターリフを繰り広げ、ヴォーカリストがシャウトする演奏が軸となっている。ヘヴィロックと称されることもあり、ブルースやサイケデリックロックの影響も色濃い。また、アートロック同様に、反権力に根ざした当時の社会情勢からも大きな影響を受けている。

代表曲は、イギリスの伝説的バンド、レッド・ツェッペリン(Led Zeppelin)「Whole Lotta Love(胸いっぱいの愛を)」。ジミー・ペイジ(Jimmy Page)のギターとロバート・プラント(Robert Plant)のヴォーカルが素晴らしいが、間奏部のジョン・ボーナム(John Bonham)のドラム・ソロも圧巻、超ヘヴィだ。私が所持している同曲収録のアルバム『Led Zeppelin II』は、USオリジナル盤の、いわゆる ”ラウドカット盤” で、音圧感が凄まじい!

ブルースロック

ハードロックの原型となったロックのジャンルのひとつといわれ、白人がロックのスタイルでブルースを演奏した様式。B.B.キング(B.B. King)やマディ・ウォーターズ(Muddy Waters)といった黒人ブルースシンガーやギタリストをルーツとしている。始まりは1960年代始めのイギリスといわれており、それがアメリカに飛び火した形だ。初期のローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)やフリート・ウッドマック(Fleetwood Mac)らがその影響を色濃く受けている。

代表曲は、エリック・クラプトン(Eric Clapton)が在籍したデレク・アンド・ザ・ドミノス(Derek and the Dominos)の「Layla(いとしのレイラ)」。同曲はクラプトンの最高傑作と称されており、彼のソロ公演等でも再三演奏されている。詞の内容は、当時クラプトンが恋心を抱いていたジョージ・ハリスン(George Harrison、ビートルズのメンバー)の妻パティ・ボイド(Pattie Boyd)への苦悩であるのは有名(後に結婚し、やがて離婚)。

フォークロック

1960年代半ばから70年代前半を全盛期とするロックのひとつのジャンルで、既存のフォークミュージックに積極的に電気楽器を導入したことからこの名がつけられた。当時アメリカを席巻した「ヒッピー現象」とリンクしていたとの考察もある。また、イギリスや日本の多くのフォークシンガーやバンドにも影響を与えたとされる。

代表曲は、フォークロックの開祖とされるボブ・ディラン(Bob Dylan)が1965年に発表した「Like A Rolling Stone」だ。シングルカット曲は3分以内に収めるのが一般的だった当時としては、異例の6分超だったが、全米2位にランクインしている。

グラムロック

主にイギリスで流行したロックのカテゴリーのひとつで、濃厚なメイクや派手な衣裳で着飾って演奏するスタイルが特徴。ハードロックとは異なるグルーヴ感とビート、ポップなメロディーラインが新鮮な印象を与えた。時にはそうした音楽性よりも、ファッショナブルな外見の話題が先行することが多々あった。

代表曲として、グラム・ロックのアイコンともいってよいデヴィッド・ボウイ(David Bowie)の「Starman」を挙げよう。この曲ではボウイが異星人を演じ、異星人を救世主のようなポジティブな存在として表現している。リリースされた1970年代当時、まだ小学生だった私は奇抜な格好で、なおかつ左右の瞳の色が違うボウイこそ、宇宙から来た ”Starman(異星人)” に見えたものだ。

Words:Yoshio Obara

SNS SHARE