美しい風景を見た時に、思わず写真を撮りたくなります。 それと同じように、心地よい「音の風景」に出会った時に、思わず録音をしてみたくなるのです。 旅先や日常を映像や写真ではなく、音で記録する「フィールドレコーディング」の楽しみ方について、音楽家、録音エンジニア、オーディオ評論家の生形三郎さんに解説していただきました。

フィールドレコーディングとは?

フィールドレコーディングとは、スタジオレコーディングの対義語。 音楽や音の収録場所としての環境が整えられたスタジオと異なり、フィールド、つまりは山や海といった自然の中や雑踏などの屋外はもちろん、駅やビルの中などの屋内も含む、収録用途ではない場所で録音すること全般を指します。

スマホでもOK

そんなフィールドレコーディングは、いまやスマートフォンのボイスメモ機能でも高音質録音できることや、一昔前に各社から数多く登場した高性能なハンディレコーダーの出現によって、ひじょうに手軽なものとなっています。

ミュージック・コンクレートの記事で紹介しましたが、筆者は「AT9941」というオーディオテクニカのマイクを使って音響作品の音素材を録音していましたが、その後には、同じくオーディオテクニカの「AT822」というマイクを小型のハンディレコーダーと組み合わせて日本中の様々な音を録音、収集していました。

フィールドレコーディングの魅力とは?

フィールドレコーディングの面白いところは、個人的な記憶としての音の記録にあるのではないでしょうか。 「音の風景」を楽しむとはいいますが、やはりそこには、自ら録音した音ならではの、音の思い出され方、記憶の蘇り方があります。

たとえば旅先でのフィールドレコーディング。 写真と比べてみると、圧倒的な臨場感で、当時その場所で体験していた感覚が蘇ってきます。 その時の天気から来る温度や湿度による空気感のようなもの、場所の雰囲気、時には匂いなどまで、音がトリガーとなってブワッと脳裏に蘇ってきます。

フィールドレコーディングの魅力とは?

もちろん、映像でもその場の音は録音されているのですが、音の場合は、録音時や再生時に耳だけに集中するせいか、視覚で感じていた以外の情報が一気に蘇ってくるのです。 それが、フィールドレコーディングならではの臨場感なのではないかと私は思っています。

記憶というものはすぐに忘れてしまうものですが、何かのきっかけで眠っていた情報が一気に蘇ることがありますよね。 それは、匂いであったり手触りであったりする場合もあるでしょう。 そして、「音」も強力なトリガーになっていると思います。

記録としての録音

自分は、旅先でいくつもの音を録音してきましたが、例えば10年以上経っている記憶であっても、録音した音があるからこそ、ひじょうに生々しく記憶に焼き付いている気がします。 同時にそれは、その日その時だけの音であり、自分の生きた時間の記録でもあり、旅先での美しい景色や体験と相まって、宝物のような存在としていまも残り続けています。

記録としての録音

と、ちょっと綺麗事のような説明になってしまいましたが、何はともあれ、スマホのボイスメモで構いませんので、一度フィールドレコーディングを体験してみてください。 オススメは、やはり旅先です。 旅先で感じた心地よい時間や景色を目の前に録ってみてください。 別に物音をたてないように押し黙っている必要はなく、歩きながらでも喋りながらでも構いません。 むしろ、歩いたり喋ったりすることで、自分という存在がそこに入るので、より自分だけの音になるでしょう。

Words:Saburo Ubukata