Face Recordsからのおすすめレコードを毎月お届け。
ピンク・フロイド(Pink Floyd)のアルバム『Dark Side of The Moon』(以下、邦題の『狂気』と表記)はアメリカのBillboardのアルバムチャートで741週間(約15年間)にもわたってランクインし続けたロックの大名盤です。その中からシングルカットされた曲「Money」の各国でリリースされたレコードに光を当てて、その違いなどを調べてみました。ピンク・フロイドの新しい魅力が発見できそうなレコードを、Face Recordsの藍隆幸さんがご紹介します。
「Money」シングル盤、各国ピクチャースリーヴの魅力
「Money」は日本では1972年3月6日、東京都体育館のライブではじめて演奏され、翌年1973年3月にアルバム『狂気』が世界でリリース、シングル盤は1973年6月にリリースされて、1973年6月23日には米Billboard TOP40 HITSで13位にランクインしました。
『狂気』はリリースされると世界中で桁外れのセールスを記録し、もはやピンク・フロイドはバンドメンバーの意思が反映できなくなるほど巨大なものになってしまいました。「Money」のシングル盤も、レコード会社がバンドの了解を得ないで中間のギターソロをカットして編集したものを勝手にリリースしたため3分59秒という尺になっていますが、アルバムのオリジナルバージョンは約6分の尺があります。
ピンク・フロイドの母国であるイギリスや日本では、再発盤を除いてシングルカットはされていません。「Money」は各国で様々なデザインのピクチャースリーヴがリリースされ、その違いを楽しめることが「Money」シングル盤の魅力となっています。デザインの違いで特色があるのはもちろんですが、同じ曲ながらサウンドにも各国盤で違いがあります。全てを網羅できていませんが、その一部を聴いた時の印象で、下にいく順で音圧が強くなるようにご紹介します。
ポルトガル盤

独特の神秘的なピラミッド写真がスリーヴに採用されています。この写真はアルバムの付属品にも無いので独自に探して来たものだと思われます。今回聞いたレコードの中では一番音圧が控えめなサウンド。LPでは2023年リマスター盤も同じくらいに音圧が控えめになっています。
ドイツ盤

各国のシングル盤の中で唯一、バンドメンバーの写真がスリーヴに使われています。音圧控えめなサウンドですが、ポルトガル盤よりも若干強めで、乾いた固めのサウンドが特徴です。
フランス盤

『狂気』のジャケットのデザインが使われています。音圧控えめなサウンドですが、ドイツ盤よりは強い印象。
ベルギー盤

黄色地に赤い文字が特徴のスリーヴのレコード。音はほぼフランス盤と同じ印象がします。
イギリス盤(1982年リリース、ピンク盤)

フランス盤やベルギー盤と比べると、気持ち音圧が強い印象がします。B面は何も収録されていません。
イタリア盤

LPに付属しているポスターの青いピラミッドの写真がスリーヴに採用されている存在感のあるレコードで、個人的にもすごく好きです。音圧もそこそこあって十分に楽しめます。評価の高い日本のオリジナル盤(EOP-80778)とも聴き比べると、この辺りと同じ印象です。
スペイン盤

アルバムに付属しているブックレットのピラミッド写真がスリーヴに採用されています。音圧が強くて迫力のあるサウンドが特長。特にエレクトリックピアノのサウンドが強く鳴る、今回のレコードの中では一番ハデな音だと感じます。
オランダ盤(1981年リリース)

スペイン盤と同様に音圧が強くて迫力のあるサウンドが特長ですが、こちらの方がまとまり感がある。エレクトリックピアノや中高音のサウンドは若干スペイン盤の方がハデだけれど、リズム、低音はオランダ盤がしっかりしている印象です。出だしのコインのジャラジャラ音、レシートを切る音、レジスターの音からもう迫力があります。B面の「Any Colour You Like」も異次元の迫力です。
アメリカ盤(MONO)

最後にモノラルバージョンの「Money」をご紹介します。これはオリジナルプロモ盤で、ステレオバージョンとモノラルバージョンが片面づつ収録されています。ステレオ側では「Bullsh*t」という歌詞のヴォーカル部分が編集されずに収録されていますが、モノラル盤では編集されて削除されています。モノラルバージョンはラジオで放送することが多く、広く聴取されることを配慮したためだと思われます。その音ですが、ステレオ盤よりもギターやエレクトリックピアノの音がドラムやベース、ヴォーカルとなじんで一体化している迫力を感じます。
アナログレコードを所有する楽しさ
アルバム(12インチ盤、LP盤)はジャケットデザインも含めて作品であると捉えているアーティストも多いため、生産される国によってデザインが変わることは少ないですが、シングルレコード(7インチ盤)の場合は、各国でデザインを採用できる自由度が高く、色々なピクチャースリーヴを楽しむ事ができます。いまのアナログレコード人気を支えている理由を探ると、その魅力は大きく3つ挙げられると思います。
まずは「アナログならではの音質」。温かみや厚みのあるサウンド、ストリーミングでは聴けない楽曲はたくさん存在します。次に「 所有する喜び」です。ジャケットのデザイン、限定盤やレア盤などの特別感や針を落とす動作など、音楽を “体験” できることはアナログならではの魅力です。最後に、「つながりを生む存在」。レコードショップやDJイベント、カルチャーコミュニティー、SNSなどを通じ、音楽交流が生まれます。
これらが、レコードならではの価値として支持されていますが、各国のピクチャースリーヴは所有する喜びを支える存在です。レコード店に寄って、気になるジャケットを見つけたら、試しに買ってみてはいかがでしょうか。新しい音楽の楽しみが広がると思います。
Face Records

”MUSIC GO ROUND 音楽は巡る” という指針を掲げ、国内外で集めた名盤レコードからコレクターが探しているレアアイテムまで、様々なジャンル/ラインナップをセレクトし、販売/買取展開している中古盤中心のアナログレコード専門店。1994年に創業し、現在は東京都内に3店舗、札幌、名古屋、京都に各1店舗、ニューヨークに1店舗を展開。廃棄レコードゼロを目指した買取サービスも行っている。
Words: Takayuki Ai