癒しとウェルネスをテーマに、Face Recordsからのおすすめレコードを毎月お届け。 11月のテーマは「読書中のBGMとしておすすめの音楽」。 日頃から読書が好きな方にも、秋の夜長に読書を楽しみたいという方にも、読書の時間がもっと楽しくなるようなおすすめの音楽を、Face Recordsの藍隆幸さんがご紹介します。
読書と音楽の関係
このところ、忙しくて本からは離れてしまいがち、積ん読(つんどく)状態です。
読書は大好きで特に海外作家のSF小説が中心。 きっかけは高校生の時にプログレッシブロック好きの同級生に「2001年宇宙の旅」の読書を勧められたこと。 (映画は難解ですが、原作の方が分かりやすいです。 )その後、Ray Bradbury(レイ・ブラッドベリ)の短編「すべての夏をこの一日に」でSF小説の奥深さを知ってから、更に夢中になりました。
読んでなくても積ん読の山が高くなるほど楽しみが増えるということがありますね。
実はレコードも一緒で、せっかく欲しいレコードを買っても、買ったことで満足してしまい、開封せず聴かずに置いておくことがありますが、「いつでも聴ける」「所有している」という安心感は楽しみの方に振れます。
SF小説の魅力に取り憑かれた経験を活かして、読書中BGMのおすすめを5曲ご紹介したいと思います。
最初にご紹介するのはジャズ。 リラックスした雰囲気で読書を楽しむのに向いています。 読書中に流せば、知的な冒険をするのにぴったりの環境を提供してくれます。 読書に向くジャズは本当にたくさんあるのでもっと紹介したいのですが、今回はその中から2曲を選んでみました。
Autumn Nocturne / Lou Donaldson
タイトルどおり秋のひとときを、そして秋の読書を楽しませてくれる1曲です。
Lou Donaldson(ルー・ドナルドソン)はアメリカ南部寄りのブルースやソウルのエッセンスを取り入れた演奏スタイルで知られますが、このアルバム『Blues Walk』はその入口あたりの作品と言われています。 アルバムの各曲にさりげなく入るコンガがいい雰囲気を出しています。
Fervor / AOYAMA GAKUIN 101
青山学院大学のジャズ研の学生が卒業記念に制作した作品で、先ほどのLou Donaldsonと同様、アルトサックスの演奏が光る1曲です。 アルトサックスは当時学生だった本多俊之氏が演奏しています。
この「Fervor」という曲、とてつもない名演で、ドラムやギター、キーボードとの一体感のあるグルーヴ感、疾走感が気持ちよくて何度聴いても飽きません。 もしかしたら読書している手を止めてしまうかも知れませんが…そのくらい引き込まれる曲です。 残念ながらデジタル化はされていません。
Piano Concerto No.2 in C Minor, Rachmaninoff(ピアノ協奏曲第2番 ハ短調,ラフマニノフ) / Artur Rubinstein
クラシック音楽は、ドラマチックに読書を演出させてくれます。 そして、集中力を高め、読書の深い世界に没頭するのにも役立ちます。
このピアノ協奏曲第2番を流しながら、2度ほど司馬遼太郎氏の「竜馬がゆく」を読んだことがありますが、ドラマチックな展開が不思議と日本の時代小説にぴったり合うんですよね。
この本を読むときは必ずこの音楽をかける、と決めて聴くと、本の内容と音楽の記憶が同化して、その音楽を聴くと物語がよみがえることがあります。 たまにはそんな楽しみ方をしてみるのもお勧めです。
名演としてはVladimir Ashkenazy(ウラディーミル・アシュケナージ)が上げられますが、ここではArtur Rubinstein(アルトゥール・ルービンシュタイン)の1971年録音をご紹介します。 この時Rubinsteinは既に80代半ばでしたが、それにしてもダイナミック。 フォルテ、フォルティッシモをビンビンに響かせています。
Love Song / John Abercrombie
John Abercrombie(ジョン・アバークロンビー)はアメリカのジャズ、フュージョン、フリー・ジャズのギタリストです。 「Love Song」というタイトルなので、恋愛小説にも向いていると思いますが、難しそうな本を読むときにはあえて脳をクールダウンさせてリラックスできるこのような音楽が向いていると思います。
たとえば、「フェルマーの最終定理」という、数学界最大の超難問を解くことに苦闘した数学者たちのドキュメンタリー小説を読んだことがあります。 発想力の大切さに気づかされる本です。
数学に限らず、何か大きな問題の解決策を見つけようとするときや、0から1を生むような創造性が必要なとき、まったく関係が無いと思われる複数の要素に関係性を見出して新たな創造につなげる発想力がとても大切です。 この発想や創造を生み出すのは、とにかく考えぬくことと脳を休ませることの両面が必要だと思います。 脳を休ませて発想力を育むのに音楽や運動、睡眠はとても重要な役目を果たしています。
この曲が入ったアルバム『Timeless』はECMレコードレーベルらしい、透明感のあるサウンドを味わうことができます。
Orbit ° Sundog / FLOFILZ
ローファイ音楽は、そのシンプルなビートと穏やかなメロディで、読書に集中するのに最適です。
「Orbit Sundog」はアルバム『Close Distance』に収められています。 独ベルリンのビートメイカーFLOFILZ(フロー・フィッツ)が2022年にリリースした4枚目のアルバムです。 イーストロンドンのビートメイカー、サウスロンドンのヒップホップデュオなど、多彩なゲストを迎え、スムーズなジャジー・ヒップホップを展開しています。
カバーイラストは、Khruangbin(クルアンビン)のアートワークを手がけたことでも知られるインドネシアのイラストレーターが担当。 浮世絵の色彩と禅の静謐さからインスパイアされたというイラストが表裏それぞれに表現されています。
秋の夜長に読書と音楽探しの旅
読書と音楽を組み合わせることで、本の世界がより鮮明に浮かび上がり、読書の喜びがさらに深まることが出来れば嬉しく思います。
秋の夜長、自分自身のリラックスや集中力に合った音楽を見つけられるように、さまざまなジャンルやアーティストの音楽を聴いてみたらいかがでしょうか。
Face Records
1994年に横浜でメールオーダーのお店として始まり、1996年に渋谷区宇田川町に第1号店を開店した。 中古盤中心のアナログレコード専門店。 ヨーロッパやアメリカで買い付けたレコードと日本国内で集めたレコードを中心にセレクトしている。 現在は東京都内に3店舗、札幌、名古屋に各1店舗、ニューヨークに1店舗を展開。 廃棄レコードゼロを目指した買取サービスも行っている。
Words: Takayuki Ai