癒しとウェルネスをテーマに、Face Recordsからのおすすめレコードを毎月お届け。 5月のテーマは「Music For Meditation ~瞑想と音楽~」。 五月病などで気分が下がりやすい時期、瞑想にぴったりの音楽をFace Recordsの佐野哲平さんがご紹介します。

瞑想と音楽は密接な関係である。

「瞑想・Meditation」の歴史や概要は非常に広義であり一括りに説明することは難しいが、現代では宗教などに関係なく取り組めるツールとしての「マインドフルネス」とほぼ同義語で扱われることも多い。

その実施方法はさまざまだが、一般には「今この瞬間に意識を向け、感情や思考が浮かんでも、それを追わず呼吸に戻る」ことを継続的に実施することにより、免疫力の改善、血圧の低下、血中コレステロール、血糖値の低下、緊張・うつ状態の緩和、不安の減少、ストレス耐性、集中力・記憶力の向上などが期待できるとされている。

そんな瞑想を実践する上で、密接に関係してくるものが「音楽」である。 実際に瞑想のメッカとして知られるインドの伝統楽器であるシタール、タブラ・バンズリ、サントゥールなどの音色は瞑想に適した音色に設計されていると感じざるを得ない。

もちろん、上記のような音楽を活用しながら瞑想を行うのも良いが、瞑想に合う音楽は個々人の感性で若干の相性があるのではないかと考える。 特に「禅」という概念や東洋思想に近い感性を持つ日本人は、より「侘び寂び」的な音楽の方が肌に合っているような気もする。

今回はそんな観点から瞑想に合う音楽を5つ紹介させて頂く。

いわゆる「五月病」で気分が下がりやすいこれからの季節。 そんな煩悩の解決策として、ぜひ瞑想を実施して頂き、そのお供として今回の音楽を活用して頂ければ幸いである。

瞑想をする際に活用したい音楽たち

The Humble Bee / A Miscellany for the Quiet Hours

The Humble Bee / A Miscellany for the Quiet Hours

The Boats(ザ・ボーツ)の一員としても知られるイギリスを代表するアンビエント作家Craig Tattersall(クレイグ・タッターソール)によるソロプロジェクトThe Humble Bee(ザ・ハンブル・ビー)。 彼が運営していたレーベルCotton Goodsの1枚目のリリース(しかもCDRでの)作品となっている。
瞑想時には「物事をありのまま捉える」ことが大切になるが、まさにそんな感覚をクラシックギターで体現したようなアルバム。 特に「音の消えゆく瞬間」が秀逸で、2次元的な音の減衰ではなく、物質的でオーガニックな音の収縮を感じられる。

瞑想が深くなってきたときにも、この作品を聴いていれば安心して耳を預けられるだろう。

Yoshi Wada – Earth Horns with Electronic Drone

Yoshi Wada - Earth Horns with Electronic Drone

もともと彫刻やジャズに興味を持っていたYoshi Wada(ヨシ・ワダ)だが、渡米後にフルクサス運動*との出会いや現代音楽家La Monte Young(ラ・モンテ・ヤング)から師事により、徐々にミニマルで実験的な音楽性へと移行していった。

そんなYoshi Wadaは「ドローンミュージック」のパイオニアとしてキャリアを築いていくのだが、こちらの作品は2009年に建築資材の配管パイプから作成した「パイプ・ホルン」という創作楽器(ジャケットの写真がそれである)で奏でられた約2時間42分の超大作である。

その内容は実に瞑想的であり、オーストラリアの先住民族アボリジニが用いる「ディジュリドゥ」の有機的な持続音を想起させつつ、建築資材の配管パイプを使用しているだけあり、どこか無機的な印象も受ける。

また、この録音には意図しない環境音(何かを置く音や歩行する音、その他自然音など)が収録されており、音と深く向き合った時のアクセントとしてユニークさも感じられる作品である。

*フルクサス運動とは、1960年代の初頭からニューヨークを中心にヨーロッパや日本など世界的な規模で展開された反芸術的な運動。 既成の表現形式に反旗を翻し、ハプニングやイベントなど一時的な行為に重点を置く。 (「百科事典マイペディア」より引用)

Eliane Radigue / Jetsun Mila

Eliane Radigue / Jetsun Mila

電子音楽家でありながらチベット密教にも傾倒し、Pierre Schaeffer(ピエール・シェフェール)やPierre Henry(ピエール・アンリ)といった現代音楽の巨匠にも師事を受けていたというフランス出身の音楽家Eliane Radigue(エリアーヌ・ラディーグ)が1987年にカセットテープで発表した作品。

社会学や美学領域を踏襲した音や音響の研究を行っていたフランス国立視聴覚研究所・音楽研究グループ「INA-GRM」が2018年に彼女の作品を14枚のCDで再編したことで話題にもなったが、こちらの作品を聴けば再編する理由となったクリエイティビティと機能性を感じることができる。

また、深遠な電子持続音もさることながら、特筆すべきは「音の変容」と言えるだろう。 かなり低域の音を聴いていたかと思っていると、知らない間にかなりの高周波ハーシュ・ノイズに変化していたり、集中して聴いていた持続音の中にいつの間にかパルス的な音が入ってきたりする。

それは彼女の人生観や宗教観に基づいたある種の物語を観ているかのようであり、その物語性は自分の意識とちょうどいい距離感で寄り添ってくれる。

Andrew Chalk & Tom James Scott / Wild Flowers

Andrew Chalk & Tom James Scott  / Wild Flowers

伝説的な実験音楽プロジェクト「Mirror」の一員としても有名なイギリスの大御所ドローン職人Andrew Chalk(アンドリュー・チョーク)と、アメリカの音響レーベルStudents of Decayからのリリースが記憶に新しいTom James Scott(トム・ジェームス・スコット)の対話的な音響作品。

遠くで鳴っているクラシックピアノの音色は、モダン・クラシカルな知的アプローチも感じるが、それ以上に記憶を辿るようなどこか懐かしく、安心できる音使いが感じられる。 (セピアなジャケットもどことなく物語っている。 )瞑想時に安心できる環境に身を置くことは非常に重要なことなので、この作品はそのような環境作りにはぴったりなのではないかと考える。

ちなみに個人的にこの作品を聴くと「小学生の夏休みに過ごした母方の実家」を思い出す。

Nick Keeling / A Slow Dance With Someone Who Is Leaving You

Nick Keeling / A Slow Dance With Someone Who Is Leaving You

アメリカ・オハイオのピアニストNick Keeling(ニック・キーリング)。

基本的に作品は自主リリースで、レコーダーに直接ピアノを録音する(多少のエフェクターを使用しているかもしれない)というシンプルなスタイルを貫いている。 作風もフレーズをリフレインさせ、徐々に展開し戻ってくるというシンプルな構成なのだが、そのシンプルさが相まって非常に「人間味」を感じる。

「人はロジックではなく、感情で動く生物」とよく言われるが、Nick Keelingのパーソナリティと作品を聴くとなんとなくそのことが分かる気がするのだ。 恐らく瞑想も、ロジックではない「自分の感情」と向き合う行為なので、この作品は言わずもがなぴったりである。

また、瞑想に限らずシンプルなピアノの音が好きな方にもおすすめしたい作品の1つ。

瞑想と音楽で「内」から治癒する

今月は「Music For Meditation ~瞑想と音楽~」という題目で5作品を選定させて頂いた。

瞑想の主体はあくまでも意識であり、人によっては音楽が無いほうが瞑想に集中できるという方もいらっしゃるかもしれないが、個人的には瞑想時に「意識への導き手」として、コーディネーターのような立ち位置で音楽を活用している。

また、音楽自体にもヒーリング効果がある為、瞑想と合わせて活用することにより無意識化で相乗効果を生むことも考えられる。

現代では身体やこころの不調を感じた時に何かと「外部」から解決方法を探してしまいがちだが、本来人間が保持している自然治癒力を「内部」から引き出す方法の1つとして、瞑想と音楽をおすすめしたい。

Words: Teppei Sano

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