時代と社会に問いを、そしてアンサーをだしつづけるのがミュージシャンたちの一つの役目だとするならば。
近年、気候変動(危機)をはじめ、さまざまな地球環境についての報道が増え続ける流れにおいて、新たなアーティストたちも生まれ、そして増え続けている。
彼らが歌うのは、恋でも愛でも友情でもなく「大切な地球のこと」。
地球、平和。いままでとはちょっと違う
今日まであらゆる時代を通して、私たちが生きる場所である地球を思う歌がつくられてきた。世界平和を呼びかけ、人種差別を憎み、辛い労働を歌い、人の生き方を言葉にし、絶望や希望を音楽にのせて届けてきた。
近年、ここに新たなアーティストたちが登場している。彼らがメッセージにのせ歌うのは「地球(そのもの)」と「生態系」について。目的は、大切な地球を守ること。数曲のうち一曲にそういったテーマをいれるのではなく、アーティスト活動そのものの目的が「地球のため」というのも、大きな特徴だろう。
自己や他者をケアして守ることを歌うアーティストは、近年本当によく見かけるようになった。例えば、過去にAlways Listeningで紹介したヘルシーフードについて歌うヒップホップ。ヘルシーフードの重要性を伝え、地元の改善や向上を目的とした「コミュニティのウェルネス」というところだろう。
セルフウェルネス、誰かのウェルネス、コミュニティのウェルネス….そしていま「地球のウェルネス」。
続々登場している地球を思うアーティストたちがなにを歌っているのか、数組をピックアップして見ていこう。
Nate&Hila曰く「生き物の“性生活(繁殖活動)”を知ることによって、地球と親密な気持ちになれるでしょう」。二人のポップで楽しいエコロジーについて、もう少し見ていこう。
『I AM Plastic, Man』
ブルックリンのパフォーミングアーティストAkil Apollo Davisをフィーチャリングしたこのチューンでは、世の中にある大量のプラスチックゴミがどれほど環境に害を及ぼしているのか、プラスチックにはどれほど有害な物質が含まれており分解処分するのが難しいのかを歌っている。
「お菓子はプラスチックで個別包装されている。スナップ写真を撮るための使い捨てカメラなんてのもある。そんなの使えない。使ってはいけない。なんて悲劇なんだ。地球のスペースは(ゴミに占領され)無くなってきている。神様は人をつくった、でも人はプラスチックをつくったんだ)」。
MVでの小道具やセット、衣装はニューヨークの街やビーチで見つけたプラスチックごみで制作するという徹底ぶり。
『Die For That Pussy (Honeybee Sex) 』
ミツバチの繁殖活動について歌ったこの曲(やや卑猥な言葉も含まれているので、子どもたちは要注意)。女王蜂に授精するというたった一つの目的のもと、射精すれば死んでしまうオスのミツバチについてを楽曲で伝えていく。MVではハチに扮したNate&Hilaが絶好調。「この曲を通して、みんなにミツバチに関する知識を広めたい。ミツバチは、私たちのエコシステムにとって非常に重要な役割を果たしているから」
その他、バナナとリンゴのコスチュームに身を包み、ニューヨークのコンポストファームで撮影した『Compost』。メロウなテンポに乗せて響くのは「生ゴミは捨てないで。バナナの皮もリンゴの芯もコンポストすれば土になるよ」というメッセージ。
気候変動のために人々ができる20のアイデア(ソーラーパネルを使おう、水素をエネルギーとする乗り物に乗ろう、など)を教えてくれる『20 Climate Solutions in 4.5 Minutes』では、4分半のラップに乗せて楽しく紹介していた。楽曲の幅も広めな印象だ。
エコなスーパーヒーロー、スーパーポジティブラップ
米国を拠点に、環境アクティビスト、教育者、企業家として活動する「Mr. Eco」、「エコロジー界のスーパーヒーロー」。ヒップホップ・ミュージシャンとしても勢力的に活動しているBrett Edwardsが、スーパーヒーローに扮して音楽を通して子どもたちにポップに環境保護を伝える。これまでに5ヶ国1,200以上の学校でパフォーマンスを行ってきた。
ヒップホップに乗せて、ノリノリラップでキッズに届けるMr. Ecoのエコな楽曲のいくつかを見てみる。
『Date of food』
シンガーソングライターでギタリストのGarrick Davisを迎え、「賞味期限の正しい理解」を紹介するラップチューン。賞味期限ラベルを正しく読み取っていないことから、まだ食べられるのにゴミ箱行きになってしまう食べ物を救うヒントを歌う。
「賞味期限ってどういう意味? それは、いつが食べ頃なのかということ。
販売有効期限はどういう意味?いつまでお店の棚に陳列できるかということ。
安全性とは関係がない。食べ物が安全だってどうやって分かるの?匂いはどうか、手触りはどうか、色はどうかを確認するんだ」
『Sort Like Crazy』
「600 kids, one bag of trash(600人の子どもたちのゴミが全て同じ袋のなかに入っている)」というフレーズが印象的なこの曲は、学校でゴミの分別に力を入れることの大事さを歌ったもの。
MVでは、Mr. Ecoのスーパーヒーロー・コスチュームを纏った子ども達が学校を舞台に、ゴミの分別を楽しそうに行なっている。スーパーポジティブなバイブス…。
「コンポストを積極的に行なおう」とエンパワーメントする『Compost King/Queen』も。コンポストがなぜ環境に良いのか、コンポストのことをまだ知らない人に教えてあげることの大事さを歌う。
ラテンのサウンドに乗せて。エコ・エレクトロ
コロンビア発の世界的売れっ子バンド、Bomba Estéreo。彼らは全ての楽曲ではないが、環境についての楽曲をいくつか出しはじめているのでピックアップする。
コロンビアの民族音楽クンビアと中南米のエレクトロニックミュージックを融合させ、ラテンオルタナティブやデジタルクンビアと呼ばれるジャンルを築いてきた彼らは、これまでは「スピリチュアル」というテーマで多くの楽曲を制作してきた。が、ここ数年ではエコロジーをテーマにシフトチェンジしている。植林など、環境保護活動にも積極的に参加している。
「地球は私たちの遺産。だからこそ、積極的に世話をしていかないといけない。それが未来に大きく繋がるのだから。未来の世界は僕達のいまの行動で変わるんだ」
先に挙げた2組のアーティストたちが教育的、具体的な知識共有型なのに対し、Bomba Estéreoの楽曲ではアブストラクトに環境へのメッセージが表現されている。「人間と環境の繋がり」をテーマにした2021年にリリースされたアルバム『Deja』から2曲、聴いてみよう。
『Tierra』
民族的なリズムとエレクトロサウンドに乗って届く歌声が気持ち良い一曲。タイトルは、スペイン語で「地球」や「土地」を意味する。
「大地は売り買いするものではない。共有するものだ。地球は目覚めて、私の耳に近づき、こう叫んだ。これ以上は無理だ」
地球の悲痛な叫びを代弁するかのような歌詞だが、同時に母なる地球への敬意も綴られている。
『Agua』
「Agua」はスペイン語で「水」。
「水、大地、空気、炎」
「水が私の血管を通り抜ける」
「水をください、風をください、そうしたら私は生きながらえます」
水がどれほど地球にとって大事な存在なのかを軽快なビートに乗せて歌っている。
最後に、この一曲を紹介して締めたい。2008年結成のグリーンランドを代表するポップロック・インディーバンドNanookより、2016年にリリースされたアルバム『Pissaaneqaqisut』の収録曲『Nanook』だ。
グリーンランドは北大西洋、及び北極海に位置する島で、先住民族イヌイットが多く暮らす土地で、「Nanook」はイヌイットの言葉で「氷海の王者」「シロクマ」の意。
バンド名と同名の曲『Nanook』では、気候変動の影響を受けるホッキョクグマを中心とした生き物たちの生態系への被害を憂いている。神秘的に響くグリーンランド語からは「ホッキョクグマの生息地が割れる音がする。ゆっくりと破壊されている。ナヌークは彷徨っている」と、地球や生き物が上げる悲痛な声が漏れ出る。
Images via Nate&Hila
Words: Ayano Mori (HEAPS)