CDや配信の音楽はデジタル、レコードはアナログとよく呼ばれていますが、それらにはどのような違いがあるのでしょうか? そしてなぜ、アナログの音が今注目されているのでしょうか? 今回はそんなアナログレコードに関する疑問について、オーディオライターの炭山アキラさんに解説していただきました。
「最近、ちょっとマニアックなファンがレコードを「ヴァイナル」と呼んでいるのを、耳にされた人は多いのではないでしょうか。 レコードの素材は塩化ビニール = Polyvinyl Chlorideで、ヴァイナルは「Vinyl」を英語読みしたものです。 日本より一足先にレコード再ブームに火がついたアメリカで、CDと区別するためにビニール盤=ヴァイナルと呼ぶようになったのが始まりのようですね。 」
「アナログ」 「デジタル」とはどういう意味か
一方、CDはポリカーボネートという樹脂が使われています。 今でこそポリカーボネートはごく一般的な素材ですが、CDを開発していた1970年代の終わり頃はまだ透明なものが開発されていませんでした。 1980年代の初め頃にようやく実用化の目処が立ち、奇跡のようなタイミングで1982年10月1日のCD発売にこぎつけた、というエピソードがあります。
考えてみれば、レコードの塩化ビニールだって1940年代の半ば頃に発明されたものですから、1949年のLP登場までにそう間があったわけではありません。 どちらも開発当時ピカピカの最新技術を使った円盤だった、というわけですね。
ところで、CDはデジタル、レコードはアナログということをご存じの人は多いことと思います。 それでは、「アナログ」「デジタル」とはどういう意味なのか。 改めて手短に説明しましょう。
「よく似たもの」と「指」
英語で「analog(アナログ)」というのは「よく似たもの」というニュアンスの言葉です。 開発された当初のレコードは大きなラッパで音を集めて音溝に振幅として刻み込み、それを針で読み取ってラッパで増幅することで再生していました。 つまりその原理は、集められた音波が振動として盤に刻まれ、その振動を読み取ることで再び音波として放出するというもの。 言うなれば本物の音に「よく似たもの」ですね。
それは技術が進歩して音の吹き込みに電気が利用されるようになっても、現代技術を駆使したアナログオーディオであっても、やはり「よく似たもの」であることは変わりません。 よく似たものをいかに本物へ近づけていくか、これがレコード150年の開発史といってよいでしょう。
一方「digital(デジタル)」の語源は「digit=指」です。 原始の頃から、人類は指を折って数を数えました。 そこから「数字」という意味が生じてきます。 さらに、数字を使った演算(≒コンピューター)によって行われるさまざまなことを「デジタル」と呼ぶようになっていきました。 デジカメもデジタルオーディオも、機械の中に小さなコンピューターが入っていると考えていいでしょう。
CDをはじめとするデジタルオーディオは、録音時間と音の大きさを基準にして音を1と0の数字に置き換えて記録しています。 音溝と振動で物理的に音を記録・再生するレコードとは違い、電気の信号のデジタル音源は、原理的には何度コピーを繰り返してもデータそのものは劣化しません。 それで、スタジオで収録されたトラックを編集して音楽作品を製作する際にも音が悪くなりにくく、デジタルは急速に普及していきました。
なぜ「アナログ」の音が注目されるのか
それなのに、なぜ21世紀になってアナログの極致というべきレコードが復活したのか。 デジタルに比べてレコードの音に温かみを感じる人が増えてきた、ということもあるようですが、もう少し本質的な部分にも理由があると考えられます。
デジタルは、先に述べたように0と1の信号に置き換えられて録音されます。 それはつまり、それよりも細かくは音を細分化できないということ。 0と1に置き換えられる範囲から外れた音は、録音されずにバッサリと切り落とされてしまいます。
その点、アナログ信号は「階段」ではなく「連続音」ですから、そういう限界がありません。 もちろん、録音や編集、製盤時の限界がありますから、レコードに録音現場で鳴っていた音が全部入っているとはいえません。 しかし、私たち再生側が頑張ると、聴き慣れたレコードからそれまで聴いたことのなかったような響きや、アーティストが歌や演奏に込めた情感などが聴こえてくるようになるものです。
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円盤に刻まれる音のロマン
CDは12cm径のポリカーボネート盤に1と0のデジタル信号が刻まれ、信号面にアルミが蒸着されて光を反射し、それを読み取ることによって音楽が再生されます。 信号面は透明ポリカーボネートの内部にあって、手に触れることができないということはご存じでしょう。
一方、レコードは音溝が盤の表面へ直接刻まれていて、手で触れることができます。 もちろん、繊細な音溝ですから、不用意に触れることはお薦めできませんが。
音溝の太さは約0.05~0.1mm。 日本人の髪の毛が0.08~0.15㎜といわれますから、平均すると音溝の方が細いということになりますね。 音溝は左右45度ずつの斜面を持ったV字型断面で、モノラル・レコードは左右に振れることで音楽を収録しています。 ステレオの場合は右の斜面に右の、左の斜面に左の音楽信号を刻む方式です。
髪の毛よりも細い音溝から、素晴らしい音楽があふれ出してくる。 今から70年以上も前に開発されたLPやシングル盤は、本当に人類の英知を結集したものだったのでしょうね。
レコードは100年、200年先の音楽ファンへ、20~21世紀のミュージック・シーンを伝える文化遺産、という意味合いも持っています。 一方、また別のところで詳しく解説したいと思っていますが、レコードは正しい使い方とクリーニングを励行する限り、100回や200回くらいかけても音溝は悪くなりません。
皆さんもレコードで音楽を存分に楽しみながら、次の世代へと受け継いでいきましょうよ。
Words:Akira Sumiyama