今、世界的な再注目の最中にあるアナログ・レコード。デジタルで得られない音質や大きなジャケットなどその魅力は様々あるが、裏面にプロデューサーやバックミュージシャン、レーベル名を記した「クレジット」もその1つと言えるだろう。
「クレジット」――それは、レコードショップに並ぶ無数のレコードから自分が求める一枚を選ぶための重要な道標。「Credit5」と題した本連載では、蓄積した知識が偶然の出会いを必然へと変える「クレジット買い」体験について、アーティストやDJ、文化人たちが語っていく。あの人が選んだ5枚のレコードを道標に、新しい音楽の旅を始めてみよう。
Licaxxxが考える「アナログ・レコードの魅力」
アナログレコードの良さについて、あったかい感じがするとか、音域が広いとか、ジャケがでかいとか、色々聞くと思います。でも値段は高いし、持ち運びは不便だし、曲をリリースする媒体にはそれぞれメリットとデメリットがあります。
そんな中でも自分がアナログレコードを買う理由としては、一言で言うならカッコいいから。その ”カッコいい” の裏付けを解いていくとすれば、アナログレコードにしたいと思って音楽を作る人たちの姿勢に憧れがあるというか、共鳴しているというか、そんな感じです。
憧れている先人たちはアナログしか選択肢がなかった時代もありますが、まず当時の空気を少しでも味わいたくて、サブスクじゃなくてアナログをそのまま聴いてみたらどう違うんだろう? 現在はアナログもデータも選べるようになったけど、わざわざアナログリリースしている人がいる。アナログにするためにはデータとは別のマスタリングが必要で、その手間暇かけて聞かせたい理由はなんなんだろう?
そうやって買い集めたレコードたちを聞いたり、DJでかけたりすると、明らかにデータで聴くより、なんか入ってくる、ハマってくる時がある。それは時間帯だったり、箱のスピーカーとの相性だったり、当日の気分だったり、いろんな要因があるのですが、そういう物理的なものを超えて不思議な時間を共有できるトリガーのひとつなんだなと思いました。
そして多分、レコードでリリースをする人たちはそれを知っている。だから私は、アナログレコードを探して聴き続けているんだと思います。
Licaxxxが「クレジット買い」した5枚のアナログ・レコード
Bjørn Torske『Kan Jeg Slippe?』

DJフェットバーガー(DJ Fett Burger)とDJソトフェット(DJ Sotofett)が率いるSEX TAGS系列レーベルからのリリースは、出会ったら必ず買うようにしてるまさに ”クレジット買い” の筆頭レーベル。トリッキーでいなためなリズム、音、メロディ。全部カルト。憧れのセンスが詰まりまくり。
REZZETT『Rezzett LP』

これももはや聴かずに買った。レゼット(REZZETT)は出てきた時から衝撃的で、あまりにロウで無骨なサウンド、音階のあるフレーズは日本人にもハマりそうな哀愁がうっすら漂う。70’sの映画のような、パンクな空気もある。ロウハウスに傾倒するようになるきっかけでもある。
New Order『Blue Monday』

UKダンスミュージック信者としては出会ったら買うしかない。電気グルーヴが好きだったら買うしかない。あの、聴いたことあるあのフレーズ…。
Brad Strider『Bradley’s Beat』

エイフェックス・ツイン(APHEX TWIN)こと リチャード・D・ジェームス(Richard David James)の変名。厚手のトレーシング・ペーパーでできたジャケットで、センターラベルがでかい。テクノだが、WARP初期感というよりはロウテクノ寄りの質感と前のめり感。超好き。
Black Dog Productions『Bytes』

2022年くらいに買いました。2023年にリイシューが出たのですが93年版が手元にあって嬉しいです。浮遊間あるシンセとヘンテコリズムで攻めてくる感じ、ジャキジャキしたブレイクビーツも90’s感満載。
Licaxxx
東京を拠点に活動するDJ、ビートメイカー、編集者、ラジオパーソナリティ。2010年にDJをスタート。マシーンテクノ・ハウスを基調にしながら、ユースカルチャーの影響を感じさせるテンションを操り、大胆にフロアをまとめ上げる。2016年にBoiler Room Tokyoに出演した際の動画は70万回以上再生されており、Fuji Rockなど多数の日本国内の大型音楽フェスや、CIRCOLOCO@DC10などヨーロッパを代表するクラブイベントに出演。NTS RadioやRince FranceなどのラジオにDJ MIXを提供、2022年には6カ国12GIGのAsia & Europa TOURを成功させ、世界各国で活動の幅を広げ続けている。ジャイルス・ピーターソンにインスパイアされたビデオストリームラジオ「Tokyo Community Radio」を主宰し若い才能に焦点を当て、日本のローカルDJのレギュラー放送に加え、東京を訪れた世界中のDJとの交流の場を目指している。また、アンビエントを基本としたファッションショーの音楽などを多数制作しており、yoshiokubo、Chika Kisadaのコレクションに使用され、近年では日本女子バスケットボールWリーグの音楽プロデュースも担当している。
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Edit: Yusuke Ono