今、世界的な再注目の最中にあるアナログ・レコード。デジタルで得られない音質や大きなジャケットなどその魅力は様々あるが、裏面にプロデューサーやバックミュージシャン、レーベル名を記した「クレジット」もその1つと言えるだろう。

「クレジット」――それは、レコードショップに並ぶ無数のレコードから自分が求める一枚を選ぶための重要な道標。「Credit5」と題した本連載では、蓄積した知識が偶然の出会いを必然へと変える「クレジット買い」体験について、アーティストやDJ、文化人たちが語っていく。あの人が選んだ5枚のレコードを道標に、新しい音楽の旅を始めてみよう。

珍盤亭娯楽師匠が考える「アナログ・レコードの魅力」

和モノDJをやっていて、最近ではCDやサブスクなんかもよく使う私ですが、やはり音の厚さや鳴りの良さ、音の丸みはアナログしかない魅力だと思うんです。近年再発レコードも沢山発売されてますが、こんなにカッティング技術が進歩をしているのに昔の録音には勝てない気がしてて、昔からオリジナル盤を買うようにしてます。

和モノレコードを買い始めた頃は、青春18切符で全国の街のレコード屋さんやリサイクル屋さんを回ってDIGしてましたが、今みたいに情報も無ければ試聴もできないので、重要になるのがクレジット買い、ジャケ買いです。

当時はレコードがまだ安かったとはいえ、無駄なお金は使いたくないので、作曲家、アレンジャー、バックミュージシャンを確認することは特に重要でした。このドラマーやギタリストが参加してれば間違いない、みたいな。有名どころで言うとギター「鈴木茂」ドラム「林立夫」などですかね。

レコード屋さんでクレジット買いをして家に帰る前のワクワクから、家に帰ってレコードプレイヤーに針を落として好みの音が流れてきた時の多幸感は今でも覚えてますし、この中毒性は他では味わえない魅力ですね。今回は、当時クレジット試し買いをして当たったレコードを紹介しましょう。

沢チエ 『23 TWENTY-THREE YEARS OLD』

沢チエ 『23 TWENTY-THREE YEARS OLD』

まさにその鈴木茂、林立夫、そして細野晴臣らティン・パン・アレーのメンバーの名前を見つけて購入した作品。沢チエの1974年のアルバムです。アレンジは矢野誠。荒井由美のような、ニューミュージック初期シティポップを思わせる奥行きのある演奏に、角の無い歌声が混ざる素晴らしいアルバム。シティポップな「かもめ」やミディアムソウルな仕上がりの「ジャニスのように」がナイス。こちらのアルバムは再発されているので是非聴いてみて下さい。

ナオ&ミサ『飛行列車』

ナオ&ミサ『飛行列車』

青春18切符でレコ屋旅をしていて、九州のレコード屋さんで見つけた一枚。北九州の自主盤、北九無線kita-Qから発売されたツインボーカル作品です。クレジットを見ると、リードギターが4人も参加している不思議なバンド編?!帯の文言が「躍動するリズムに乗って、絶唱するツインボーカル!!」そりゃファンキーに違いない(笑)。「Qのテーマ」「時の流れ」がかっこいい。

キングコングパラダイス『Talking About Fussa』

キングコングパラダイス『Talking About Fussa』

福生市は横田基地があるためか、この地で生まれる音楽もソウルミュージックやアメリカンロックに精通してるような気がする。そんな福生出身のバンド、南條幸司率いるキングコングパラダイスの1stアルバム。クレジットに近藤等則、三木敏悟などジャズミュージシャンも参加してるが、購入の決め手はタイトル曲の「Talking About Fussa 」に “dedicated to Donny Hathaway” との記載があったこと。ダニー・ハサウェイ(Donny Hathaway)に捧げる一曲ならば間違いないと思ったわけですが、その通り、ダニー・ハサウェイの 「The Ghetto」の日本語カバーが挟まれていてブチ上がった思い出のレコードです。

TIME CYCLE『Listen!Ⅳ』

TIME CYCLE『Listen!Ⅳ』

その昔、某レコード屋さんが催事場で開催していたレコード市で見つけた一枚。オーディオチェックをしたものの、アーティストのクレジットは無く、覆面バンドの可能性が大。クラッシックやジャズ、民謡のカバー曲で構成されており、アレンジに関する丁重な解説も読み応えがあります。「リッスンの愛のテーマ」が群を抜いてかっこいい!しかし、こんなレコードが1コインで買えるなんて良い時代でした。

三橋貴風『ニューサウンド 尺八 /決定盤 日本民謡集 江差追分』

三橋貴風『ニューサウンド 尺八 /決定盤 日本民謡集 江差追分』

こちらは民謡音頭のレコードです。原信夫とシャープス&フラッツ出身の作編曲家、山屋清が1970年代に手がけた民謡クロスオーバー・シリーズの一枚で、『里の詩』『山の詩』『海の詩』の編集盤。和ジャズなどの民謡アレンジ等の作品は昔から高値で取り引きされていますが、こちらは普通に民謡コーナーで試し買いしたら大当たりした1枚。民謡なのにアレンジがジャズやソウルだったり、スティービー・ワンダー(Stevie Wonder)の「Superstition」風だったりと和モノレアグルーヴファンはマストな一枚。

珍盤亭娯楽師匠

DJ waterdamage

ディスクガイド『和モノAtoZ』『珍盤亭娯楽師匠のレコード大喜利』『和ラダイスガラージ BOOK for DJ 』『短冊CDディスクガイド』執筆、「レコードコレクターズ」「TIME OUT東京」「装苑」「BRUTUS歌謡曲特集」「POPEYE」等のレビュー、インタビュー、TBSラジオ「伊集院光とらじおと」出演や「THE CAMP BOOK」「りんご音楽祭」「森、道、市場」「たちかわ妖怪盆踊り」「橋の下世界音楽祭」台湾「秋OUT音樂節 𝘾𝙝𝙞𝙡𝙡𝙊𝙪𝙩 𝙁𝙚𝙨𝙩𝙞𝙫𝙖𝙡 」等のフェスや盆踊りに出演。元祖DJ盆踊りの立役者として全国の盆踊り、祭りを盛り上げている。

Edit: Kunihiro Miki

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