今、世界的な再注目の最中にあるアナログ・レコード。 デジタルで得られない音質や大きなジャケットなどその魅力は様々あるが、裏面にプロデューサーやバックミュージシャン、レーベル名を記した「クレジット」もその1つと言えるだろう。

「クレジット」――それは、レコードショップに並ぶ無数のレコードから自分が求める一枚を選ぶための重要な道標。 「Credit5」と題した本連載では、蓄積した知識が偶然の出会いを必然へと変える「クレジット買い」体験について、アーティストやDJ、文化人たちが語っていく。 あの人が選んだ5枚のレコードを道標に、新しい音楽の旅を始めてみよう。

青野賢一が考えるアナログ・レコードの魅力

ジャケットのアートワークの存在感、きちんと扱えばびっくりするほど長持ちすることなど、アナログ・レコードのいいところはちょっと考えただけでもいろいろ浮かびますが、レコード盤に刻まれた溝をトレースする、つまり単なる物質から音を生じさせるにあたって、サウンドを好みの質感やバランスに寄せることができるのは自分にとっては大きな魅力。

音の入口であるカートリッジが変わると、同じレコードでも出音が違って聴こえるというこの現象は、データ音源やCDでは味わえないように思います。 僕はDJする際、クラブであれミュージック・バーであれ、音の解像度を上げるためにDJ用ではなくホーム・リスニング用のカートリッジを持参することにしているのですが、その再生音を聴いた方から「このレコード、こんな音が入っていたんですね」というような感想をいただく機会も多いです。 こうした音環境の整備は、レコードに刻まれた情報を可能な限り引き出すことで、その作品の魅力をさらに伝えられたらと考えてのこと。 こんなふうに音に自分なりの個性を与えることができるのはレコードならではではないでしょうか。

Love Of Life Orchestra『Extended Niceties』

Love Of Life Orchestra『Extended Niceties』

中古レコード店のニューウェーヴのコーナーでジャケットのインパクトに惹かれて手に取った一枚。 1980年リリースの12インチ・シングルです。 裏のクレジットを見れば、ピーター・ゴードン(Peter Gordon)、デヴィッド・ヴァン・ティーゲム(David Van Tieghem)、アート・リンゼイ(Arto Lindsay)、デヴィッド・バーン(David Byrne)といったノーウェイヴや現代音楽シーンで活躍していたアーティストたちが名を連ねており、迷わず入手しました。 フリーキーなニューウェーヴ・ディスコといったムードの音も最高です。 アートワークのコンセプトはローリー・アンダーソン(Laurie Anderson)によるもの。

Far East Family Band『Parallel World』

Far East Family Band『Parallel World』

全力でニューエイジに傾倒しているジャケットを見て思わず笑ってしまったのですが、クラウス・シュルツェ(Klaus Schulze)がプロデュース、レコーディング、ミックスということで購入してみたところ、これがすこぶる内容のいいプログレッシヴ・ロック。 クラウス・シュルツェらしいアンビエント的なアプローチもそこここに感じることができます。 持ち帰ってスリーヴに手を入れたら大判のポスター(表はジャケットのイメージを踏襲したイラスト、裏はライナーノーツ)が封入されておりこれもインパクト大。 1976年リリース。

801『801 Live』

801『801 Live』

手に取ったときは801というバンドは知らなかったのですが、ロキシー・ミュージック(Roxy Music)のフィル・マンザネラ(Phil Manzanera)とブライアン・イーノ(Brian Eno)、ドラムがサイモン・フィリップス(Simon Phillips)ということで間違いないと購入したアルバム(自分はいつも試聴せずに買います)。 彼らのラスト・ライヴを収めたライヴ盤です。 いわゆるアート・ロック、プログレッシヴ・ロックですが、イーノのシンセがいい味を出しています。 キンクス(The Kinks)「You Really Got Me」をマッシュ・アップした「Miss Shapiro」が白眉。 1976年リリース。

酒井俊『マイ・イマジネイション』

酒井俊『マイ・イマジネイション』

中古レコード店で見つけたときは酒井俊のことは知りませんでしたが、帯のクレジットを見て即決。 あとから調べてこの方がジャズ・シンガーというのがわかりました。 バラードあり、シティポップ調の曲ありとバラエティに富んだ内容です。 参加アーティストの多くが坂本龍一&カクトウギ・セッション『サマー・ナーヴス』と重なっており、まさに『サマー・ナーヴス』と双子の関係にあるような作品。 B面1曲目「Sentimental Journey」のレゲエ・フィーリングもこの頃の教授っぽいです。 1979年リリース。

Music From The Original Motion Picture Score『Almost Summer』

Music From The Original Motion Picture Score『Almost Summer』

1978年の映画『Almost Summer(邦題:ハイスクール)』のサウンドトラック。 映画は観ていませんので当然サントラの内容も知りませんでした。 ジャケットにあるようにタイトル曲はビーチ・ボーイズ(The Beach Boys)のブライアン・ウィルソン(Brian Wilson)とマイク・ラヴ(Michael Love)が手がけています。 全体を通してビーチ・ボーイズ的な雰囲気ですがサックス奏者のチャールズ・ロイド(Charles Lloyd)の曲はメロウなジャズ・ファンクで格好いいです。 自分のお気に入りは「Summer In The City」。 ラヴィン・スプーンフル(The Lovin’ Spoonful)の名曲を直球でカバーしています。

青野賢一(あおの・けんいち)

1968年東京生まれ。 株式会社ビームスにてプレス、クリエイティブディレクターや音楽部門〈BEAMS RECORDS〉のディレクターなどを務め、2021年10月に退社、独立。 現在は映画、音楽、ファッション、文学などを横断的に論ずる文筆家としてさまざまな媒体に寄稿している。 2022年には書籍『音楽とファッション 6つの現代的視点』(リットーミュージック)を上梓した。 また、DJ、選曲家としても35年を超えるキャリアを持つ。 USENの店舗向けBGM配信サービス「OTORAKU」にプレイリストを定期提供中。

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Edit: Kunihiro Miki