今、世界的な再注目の最中にあるアナログ・レコード。 デジタルで得られない音質や大きなジャケットなどその魅力は様々あるが、裏面にプロデューサーやバックミュージシャン、レーベル名を記した「クレジット」もその1つと言えるだろう。

「クレジット」――それは、レコードショップに並ぶ無数のレコードから自分が求める一枚を選ぶための重要な道標。 「Credit5」と題した本連載では、蓄積した知識が偶然の出会いを必然へと変える「クレジット買い」体験について、アーティストやDJ、文化人たちが語っていく。 あの人が選んだ5枚のレコードを道標に、新しい音楽の旅を始めてみよう。

Wada Mamboが考えるアナログ・レコードの魅力

アナログ・レコードの魅力。 音楽の辿り方はもちろん、大げさに言えばモノと人間の付き合い方みたいなこともアナログ・レコードを通して学んだ部分が非常に大きい気がしています。

個人的には1950~60年代の音楽が一番好きですが、思えばそれら60~70年前のレコードたちが何人ものオーナーを経て、我が家に辿り着いたということ。 テープで補修されたジャケットや、爪楊枝で治した針跳びの跡すら愛おしいではないですか。

海外から空輸で届いたレコードの、使い回しの段ボール箱にはヨーロッパや南米の切手が重ねて貼られていたりして。 そしていつか僕が手放したあとも、盤は朽ち果てるまで旅を続けるのだろう。 つまりは、いま僕が所有している(つもりになっている)モノは、いつかは誰かの手に渡る。 貴重な歴史の一部を預かっていると思えば、妙な責任感が…。

先日も、若い頃に金に困って手放したレコードを当時の5倍くらいの金額で買い直したばかり。 そう。 「サステナブル」という言葉を頻繁に耳にするようになるずっと以前から、我々レコード狂たちはひたすらサステナブルだったのだなぁ、などと思ったりして。

持続可能どころか無限機関のごとく循環しつづける。 そんなシステムの極々些細な部品のひとつが僕らなのです。 もう色々ドラマチックでロマンが溢れるわけです。

今日もアナログ・レコードを聴き、眺めながら、妄想と想像の旅に出るのです。

Charlie Parker 『Bird / The Savoy Recordings (Master Takes) 』

Charlie Parker 『Bird / The Savoy Recordings (Master Takes) 』

ジャンプ・ブルースやジャイヴ・ミュージックとは、リズム&ブルースとジャズが分かれる前というか、その狭間というか、全部一緒くただった時代のダンス・ミュージックと言えばよいだろうか。 そんな音楽を聴き漁っていた10〜20代。 タイニー・グライムス(Tiny Grimes)というギタリストに夢中になった。 50年代のニューヨークのGotham Records(ゴッサム・レコーズ)録音の、愉快でロッキン&ジャンピンなムードが最高で、グライムスの全てが知りたくなったわけだ。

グライムスの参加曲とあればとにかく聴かなければならないのだ。 そこで出会ったチャーリー・パーカー(Charlie Parker)のサヴォイ録音集。 まさか自分がパーカーのレコードを買うとは思っていなかったのだが、ここにタイニー・グライムス楽団に若きパーカーがフィーチャーされた録音が収録されているのだ。 小粋な歌モノと、ビ・バップとジャイヴが混ざったような、なんとも素晴らしいセッション。 グライムスもいいけど、パーカーも素晴らしいじゃないか。 ジャズって良いですねと気づいた瞬間である。 アートもエンターテイメントも良い塩梅で混じり合っていた時代の音。 ジャズと呼ぶか、リズム&ブルースと呼ぶか、そんなことよりも大事な判断基準は自分のなかにあった。 と、気づくことができた思い出の一枚。

Clifford Brown 『The Beginning And The End』

Clifford Brown 『The Beginning And The End』

モダン・ジャズ好きの方と話をしていたら、「このLP持っているけど、B面しか聴かないなぁ」と言うので「なんと勿体ない!!」と声を荒げてしまったのだ。 早逝の名トランぺッター、クリフォード・ブラウン(Clifford Brown)の最初期録音をA面に、最晩年の長尺セッションをB面に収録した編集盤であり名盤。 このA面に収録されている「I Come From Jamaica」という曲は、フィラデルフィアのラテン風味なジャイヴ・コンボ、クリス・パウェル&ヒズ・ファイヴ・フレイムス(Chris Powell and His Five Blue Flames)名義の録音だ。

1940〜50年代に全米各地にこういったルイ・ジョーダン(Louis Jordan)のティンパニー・ファイヴをモデルにしたようなコンボが沢山生まれたのだが、そんななかのひとつ。 そして、この楽曲がカリプソ風味であり、ビート強めでジャイヴっぽさもあり極上なのだ。 中間で勢いよく飛び出すトランペット・ソロは、天才クリフォード・ブラウンの初録音。 天才は最初から凄かった。 カリプソ好きは勿論、スカやロックステディが好きなリスナーも、近年盛り上がりを見せるトロピカルな音としても、ジャイヴ・ファンも虜になる曲調。 そして、クリフォードの原点としてジャズ好きも必須となる。 メルティング・ポットのような一曲なのだ。

Teddy Greaves『Here’s Teddy Greaves』

Teddy Greaves『Here's Teddy Greaves』

カリブ海の島、バハマのレコードである。 バハマのホテル・バンドは欧米からの観光客に向けて、カリプソやカリブ海のスタンダードなどを演奏してリゾート・ムードを味わってもらうのが仕事だ。 そんな仕事モードのカリプソがなんとも味わい深くて集めていたことがある。 そんなときに出会った一枚。

とにかくこのArt Records(アート・レコーズ)というレーベルのものは何でも買っていたのだが、このテディ・グレイヴス(Teddy Graves)というシンガーの盤を手にしてクレジットを見て驚いた。 ギターはアーネスト・ラングリン(Ernest Ranglin)、サックスはセドリック・ブルックス(Cedric ‘Im’ Brooks)。 ロックステディ名曲「Hold Me Tight」も演ってる。 そしてラングリンがバンジョーを弾いてるファンキーな曲もあったりして、やりたい放題ではないか。 ジャマイカの名手たちによるリゾート・バイトではないかと推測するが、このリラックスしたムードがまたたまらなく良いのだ。 ちなみに、ラングリンは他にもアンドレ・トゥーサン(André Toussaint)というバハマのシンガーのアルバムにも参加して名演を聴かせている。

Freddie Munnings『Nassau Holiday』

Freddie Munnings『Nassau Holiday』

SOUL JAZZレーベルのコンピレーション『300% DYNAMITE』に収録された「Coconuts Woman」というカリプソ曲が猛烈にかっこ良いのだが、そのクレジットは「Lloyd Price」となっていた。 あの、リズム&ブルース・シンガーのロイド・プライス?声が違う。 同名異人だろうか、と長年モヤモヤしていたのが、件のバハマ・リサーチによって解明できた。

「Coconuts Woman」を収録した本作はフレディ・マニングス(Freddie Munnings)というバハマの重鎮が率いる楽団によるもの。 この楽団の顔ぶれが凄い。 なんと、サックスにはジャマイカからローランド・アルフォンソ(Roland Alphonso)とオシー・ホール(Ossie Hall)。 ギターのロイ・マニングス(Roy Munnings)はフレディの息子でのちに「Funky Nassau」をヒットさせるビギニング・オブ・ジ・エンド(The Beginning Of The End)のメンバーである。 そんなフレディ・マニングス楽団のアルバムを英国のレーベルJoy Records(ジョイ・レコーズ)から配給するに当たってロイド・プライスが関わったことで、Lloyd Priceの文字が盤に記されていて、それが『300% DYNAMITE』の誤表記につながったようだ。 ややこしいけれど、内容は素晴らしい。 猛烈にバネのあるビートでゴージャスなホーン・セクションが唸る、カリプソ・ビッグバンド名演だ。

Manu Dibango (Jr. Dibbs) 『Hot Thing』

Manu Dibango (Jr. Dibbs) 『Hot Thing』

ジュニア・ディブス?ジャケットの写真で微笑むこの顔は、どう見てもマヌ・ディバンゴ(Manu Dibango)ではないか。 クレジットを見て買ったというよりは、クレジット表記で混乱してしまった別名義録音の7インチ盤。 例えばブルースの世界では、ジョン・リー・フッカー(John Lee Hooker)が、ジョン・リー・ブッカー(John Lee Booker)、テキサス・スリム(TEXAS SLIM)など、テキトーな変名でレーベルを跨いで数多くの録音を残していたことで知られる。 契約なんぞ糞くらえな姿勢で生き抜いてゆく姿は、なんともしたたかで格好良いと思うが。

この盤も何かの事情があっての変名なのだろうか。 72年といえば、ちょうど「Soul Makossa」がリリースされるタイミングである。 カメルーンからやってきてフランスで新しいアフロ・グルーヴを完成させ、世界に打って出ようとするディバンゴ。 しかし、この盤はあの洗練されたムードとはちょっと違って、泥臭くてソウルフル。 ファズ・ギターと絡んで極太のブロウで吠えまくるサックスが最高だ。 サイケデリック・ソウル・インストといった趣。 そして、ディバンゴのサックスの根っこにはキング・カーティス(King Curtis)の影響がとても大きいのだなぁ、と再確認。

Wada Mambo

結成17年を迎えるライヴバンド、カセットコンロスを率いるギタリスト/シンガー。 ソロ活動ではWADA MAMBO名義でもアルバムをリリース。

ブルース~ジャンプ&ジャイヴ経由でカリプソ及びカリブ音楽全般に辿り着く。 隙間産業的音楽についての執筆業も。 クロネコをこよなく愛す。

HP

Edit: Kunihiro Miki