今、世界的な再注目の最中にあるアナログ・レコード。 デジタルで得られない音質や大きなジャケットなどその魅力は様々あるが、裏面にプロデューサーやバックミュージシャン、レーベル名を記した「クレジット」もその1つと言えるだろう。

「クレジット」――それは、レコードショップに並ぶ無数のレコードから自分が求める一枚を選ぶための重要な道標。 「Credit5」と題した本連載では、蓄積した知識が偶然の出会いを必然へと変える「クレジット買い」体験について、アーティストやDJ、文化人たちが語っていく。 あの人が選んだ5枚のレコードを道標に、新しい音楽の旅を始めてみよう。

Nick Luscombeが考える「アナログ・レコードの魅力」

幼い頃、ラジオやテレビの影響で音楽を好きになりました。 イギリスで育ったので、『the BBC Radio 1 Breakfast Show』を毎朝聴きながら、学校に行く準備をすることが日課で、私と妹はトーストとコーンフレークを食べながら、ラジオから流れる最新のポップミュージックやヒット曲、クラシックを耳にしていました。
よく覚えているのですが、その日はとても素晴らしい曲が流れていて、思わず学校に向かう足を止めました。 聴いていたかったのですが、すぐに時間はなくなってしまい、ラジオDJがその曲やアーティストについて聞く前に慌てて家を出ました。

登校中もずっと、ラジオから流れていた女性ヴォーカルとスーパーSFチックなサウンドがミックスされた曲が頭から離れませんでした。

学校に着くと興奮状態でクラスメイトに「今日のBreakfast Showで流れていた曲を聴いた?誰の曲かわかる!?」と尋ねてまわりましたが、誰も知りませんでした。 当時はラジオ番組のプレイリストをチェックするインターネットもなかったし、当然ながらShazamもありません。 もちろん携帯電話もなく、電話は家庭用のものしかなかった時代です。

結局、週の後半にラジオでこの曲が流れ、ドナ・サマー(Donna Summer)という歌手の「I Feel Love」だと知りました。

ラジオから流れてくる「I Feel Love」を聴かなかったら、あの曲が何だったのかわからず永遠に私を悩ますことになったと思います。
その時にはじめて、音楽は私の人生にとって必要不可欠なものであり、レコードを買えばラジオで流れないことを心配する必要がないということにも気づいたのです。

その週末、レコードを買うために、初めて地元のレコードショップに行きました。 しかしドナ・サマーのレコードは売り切れていて、そこで代わりに見つけたのが、ジョルジオ・モロダー(Giorgio Moroder)の7インチ盤『From Here To Eternity』でした。 非常によく似たSF的なサウンドと魅力を持っているように思たので、代わりにそのレコードを買いました。 (この2枚のレコードはどちらもモロダー自身がプロデュースしたものだと、後に気づきました。 当時11歳の私にはすぐには判らなかったです。 )

私は夢中でレコードを集めるようになりました。
LP、7インチシングル、10インチレコード、カセットテープ、CD、時にはアルバムのMDやDATまで……。 後に、大量のWAVやMP3を集めるほどになったのです。

そして今、一周回って私は再び7インチに夢中です。 サイズと携帯性、音質、遊びやすさから、最近のギグでは7インチしか使っていません。 それほどまでに、このフォーマットを気に入っています。
とはいえ、私は決してアンチデジタルではありません、デジタルでとても簡単に早く音楽を見つけることができるようになったことは気に入っています。 しかし、レコードを所有することにも真の魅力があり、ターンテーブルに乗せて、その溝に沿って針を走らせることが何よりも大好きなのです。

Raul Lovisoni/Francesco Messina『Prati Bagnati Del Monte Analogo』

Raul Lovisoni/Francesco Messina『Prati Bagnati Del Monte Analogo』
Raul Lovisoni/Francesco Messina『Prati Bagnati Del Monte Analogo』

初めてこのレコードに出会ったとき、ジャケットを完璧に飾る印象的なアートに魅了されました。 ジャケットを裏返し、クレジットを調べてみると、特別なものだと確信しました。

1979年にリリースされたもので、Rolandのヴォコーダー、EMSのシンセ、ハープやグラスハープが特徴的な作品です。
イタリア人のプロデューサーであるフランコ・バッティアート(Franco Battiato)にも注目しました。 彼の前衛的な音楽と芸術は知っていました。
当時の私は、美しい聴き心地と音楽と建築を結びつけたライナーノーツを読んで、このLPは私のコレクションになると確信しました。

Marc Jordan『Mannequin』

Marc Jordan『Mannequin』
Marc Jordan『Mannequin』

1970年代後半のLPですが、スタイルもサウンドもまったく異なるのがマーク・ジョーダン(Marc Jordan)の『Mannequin』、このレコードのジャケットはとても面白く、レコードラックを見ていた私の心を掴みました。 白いスーツに身を包むアーティストと、座っているマネキンのような奇妙な人物が愛おしそうにポーズをとっています。

裏表紙のクレジットによると、フォトグラファーは、80年代のニューウェーブのデザインと写真で知られるジェイミー・オジャーズ(Jayme Odgers)でした。
本文をよく見ると、「ドナルド・フェイゲン(Donald Fagen)の協力と時間に感謝します」とあります。
このレコードはゲイリー・カッツ(Gary Katz)がプロデュースしていることもわかりました。 彼はスティーリー・ダン(Steely Dan)のLPを数多くプロデュースし、フェイゲンの『The Nightfly』や『Rosie V.The Nightfly』やロージー・ヴェラ(Rosie Vela)の『Zazu』など、私のお気に入りのレコードの多くをプロデュースしています。
マーク・ジョーダンの「Red Desert」は、今でも私のお気に入りの曲のひとつです。

Cherrelle『Affair』「I Didn’t Mean to Turn You On」

Cherrelle『Affair』「I Didn’t Mean to Turn You On」
Cherrelle『Affair』「I Didn’t Mean to Turn You On」

この7インチを買ったのがいつだったか正確には覚えていませんが、おそらく1990年のリリース直後だったと思います。 リリースは1984年。 B面には、ジャム&ルイス(Jam and Lewis)がプロデュースしたシェレールのデビュー・シングル「I Didn’t Mean to Turn You On」が収録されています。
その2年後、この曲はロバート・パーマー(Robert Palmer)によってカバーされ、世界的大ヒットとなりましたが、オリジナルも同様に素晴らしいものです。

Souls of Mischief『93 `Til Infinity』

Souls of Mischief『93 `Til Infinity』
Souls of Mischief『93 `Til Infinity』

このジャンルに多大な影響を与えたウェストコースト・ヒップホップのインスピレーション溢れる一枚です。 1993年にリリースされました。
クレジットには、プロデューサーのエープラス(A-Plus)とラッパー/プロデューサーのドミノ(Domino)の名前があり、この2人がミキシングを担当しています。
読み進めると、ビリー・コブハム(Billy Cobham)が参加していることに気づきます。 彼の1974年の「Heather」は『93 ‘Til Infinity』のサンプリングに使われています。

『F-1 World Championship in Japan』

『F-1 World Championship in Japan』
『F-1 World Championship in Japan』

これは厳密には正しいセレクトではないかもしれません。 ある人にとってはこれは単なるノイズに過ぎないと思います。 しかし、1976年型のF1マシンの甘美なサウンドが高速で走り回るのは、私の耳には心地よいのです。

本当に印象的だったのは富士スピードウェイで開催されたエキサイティングなF1シーズン最終戦の素晴らしい写真が、ライナーのあちこちにちりばめられていたことです。
それと、サーキットの詳細な概要や、レコーディングに使用されたマイク、テープ・マシン、ミキサーがすべて掲載されています。

細部まで愛情を込めて仕上げられたこのこだわりこそが、アルバムを特別なものにしています。 ダイナミックな瞬間を最大限に生かした素晴らしい音の歴史の実例です!

Nick Luscombe

ニック・ラスコムは、東京を拠点に活動するイギリス人のDJ、ラジオパーソナリティ、サウンド アーティスト、プロデューサー。 Straight No Chaser誌で「restless musical soul」と評され、パーティー、フェスティバル、イベントでの彼の多彩なDJセットには、巧みに選ばれた世界中の音楽がユニークにミックスされている。 これまでラジオDJとして多数の番組を担当しており、なかでもよく知られているのは、2000年か ら2007年にかけてロンドンのXFMで放送された先駆的な電子音楽番組「Flomotion」、2009年か ら2019年にかけてのBBC Radio 3「Late Junction」、東京のCIC Liveでも番組を担当した。 2010年に設立された音楽と建築を結ぶプロジェクト「MSCTY」の創設者兼クリエイティブ・ディレクターでもある彼は、これまで世界中の様々なミュージシャンが「MSCTY」のために制作した 400以上のサウンドトラックをプロデュースしている。 サウンドアーティストとしては、彼が制作したフィールドレコーディング、サウンドスケープ、ア ンビエントミュージックのミックスが、BBC 6 MusicやBBC Radio 3で紹介され、サウンドオブ ジャパンやサウンドデザインズシリーズでも絶賛されている。 また、イギリスや日本のレーベルのコンピレーションアルバムやプレイリストのキュレーションも 行っており、最近では1970年代後半から1980年代のエレクトロニックポップを集めたアルバム 「Tokyo Dreaming」を日本コロムビアからリリースし、高い評価を得ている。 iTunes Europeのチーフエディターやロンドンのインスティテュート・オブ・コンテンポラリー・アートの音楽ディレクターを務めており、現在は、王立芸術協会の特別研究員、スイス文化基金の評議員としても活動している。

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Edit: Ayumi Kaneko

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