今、世界的な再注目の最中にあるアナログ・レコード。 デジタルで得られない音質や大きなジャケットなどその魅力は様々あるが、裏面にプロデューサーやバックミュージシャン、レーベル名を記した「クレジット」もその1つと言えるだろう。
「クレジット」――それは、レコードショップに並ぶ無数のレコードから自分が求める一枚を選ぶための重要な道標。 「Credit5」と題した本連載では、蓄積した知識が偶然の出会いを必然へと変える「クレジット買い」体験について、アーティストやDJ、文化人たちが語っていく。 あの人が選んだ5枚のレコードを道標に、新しい音楽の旅を始めてみよう。
mei eharaが考える「アナログ・レコードの魅力」
好きなものが大きいと嬉しくてワクワクするのは人間の不思議なところだなあと思います。 利便性を考えれば小さい方が絶対に良いはずなのに。
レコードは目に見えない音を最高のルックスで残していて、多少面倒だからこその緊張感があって大切に扱いたくなるところも良い。 レコードでしか出せない音があるところも。
Jazz O’Maniacs『Have You Ever Felt That Way?』
ラグタイムにハマっていた時期があり、何か欲しくて探しに行った時にたまたま出会った作品。
どちらかといえばジャケ買いに近いのですが、背面にこのアルバムのプロデューサーのコメントが記載されていて、長文で熱烈プッシュしているのが面白いと感じて購入。 カジュアルに聴きたい内容なのに「このレコードはカジュアルに聴くものじゃない」と書かれている。 熱量を感じる。 ほかには、彼らがどんな思いでジャズの名曲を取り扱っているのかや、アマチュアなのにジャズフェスで3位になり翌年は最優秀賞だった……などといったことが書いてあります。
ドイツのバンドだそうで、後からネットで調べてみると、明るく楽しくやっていそうなお爺さんジャズバンドのサイトが出てきました。 サイトトップの写真がとても良い。 このアルバムの制作時のバンドメンバーは今はもう1人しか残っていないようですが、グッときた。
Sante Palumbo Orchestra 『SWAY』
1973年の作品。 私の作品にも『Sway』という名前のアルバムがあるのですが、たまたま同じタイトルのLPを見つけたので購入しました。
クレジットというクレジットはアルバム名とメンバーの名前くらいしかないデザインのレコードだったので果たして「クレジット買い」と言えるか迷いましたが、この企画にお誘いいただいた時に真っ先に思い出したのがこの作品でした。
イタリアのジャズピアニストのSante Palumbo(サンテ・パルンボ)の初グループ作品だそうで、1曲目の『Sway』の出だしからとても面白くて好きなタイプだったので、沢山聴いていました。 自分が作った『Sway』よりも聴いていると思います。 ジャズの上にやりたいことを全部のっけたみたいな無邪気さがあり、「音楽最高!」とか言いながらメンバーとやっていそうなところがとても良いです。 ジャケもかっこいいです。
Blossom Dearie 『Soon It’s Gonna Rain』
1967年の作品。 Blossom Dearie(ブロッサム・ディアリー)のレコードを集めていた時期がありました。 欲しい盤を一通り揃え、あとは本命一枚を残すところというタイミングで、知人から「ディアリーの歌うBurt Bacharach(バート・バカラック)の『Alfie』が凄く良いUK盤がある」「このカバーを聴くだけのためにその盤を買う価値がある」と教えてもらい、探して購入しました。
背面にライナーノーツのようなものが記載されており、その内容によればこの時のBlossom Dearieは絶好調で、3テイクほどやってパパッと作業が進んで完成したということでした。
なんだか普段あれこれと考えて(考えすぎて)音楽を作っている自分が馬鹿馬鹿しくなってしまうような、素晴らしい才能を感じる内容で、「Alfie」は知人の言うとおり胸が苦しくなるような良いカバーでした。
B面にMichel Legrand(ミッシェル・ルグラン)のカバー「Watch What Happens」が収録されていてそちらもとても素敵です。 「Watch What Happens」は、映画『シェルブールの雨傘』で使われた曲で、原曲の「Récit De Cassard」を英詞で歌ったものです。 私はこの映画が子供の頃からとても好きなので、このLP盤はずっと手元に持っておくと思います。
NON BAND『NON BAND』
1985年の作品。 内容はポストパンクでしょうか。 恐らく高校時代、自分でレコードを買うようになったばかりの頃、中古ショップにて数百円で買ったものだったと思います。
それまでは、CDやカセット、または家族が持っているレコードを勝手に聴いていたのですが、自分でレコードを買うようになって、この『NON BAND』で初めて10インチのレコードというものを知って「このサイズもあるの!?」と驚いた記憶があります。 それゆえに自分の中では思い入れのある一枚。
欠損しているのか元々入っていないのか、歌詞カードなどは無く、背面にもシンプルな情報しか載っていません。
何者かわからないけれど、全曲作曲しギターもベースも歌もやる、なんだか只者ではなさそうなNONさんに興味を持って購入。
私はいつも試聴もせず一体どんな音楽なのかもわからずに購入するのですが(だから高確率で失敗することが多かった)、好きなジャンルだったので本当に買って良かったと思っていますし、よくよく考えれば結構影響を受けているように思います。 最近12インチでリイシューされたらしいのでオススメです。
The Breeders 『Pod』
1990年の有名な作品。 高校時代、PIXIES(ピクシーズ)が好きだったのでKim Deal(キム・ディール)のバンドであるThe Breeders(ザ・ブリーダーズ)も気になり、プッシュされていた2作目の『Last Splash』の方をレコード店で探していました。
『Last Splash』はなかなか見つからず、代わりに見つけた『Pod』の収録曲を見てみると、The Beatles(ビートルズ)の「Happiness Is A Warm Gun」がカバーされているのが目に留まり、気になって買いました。
一度手放してしまったので、これは最近買い直したもの。 そしてなんやかんやで、当初の目当てだった『Last Splash』のレコードはまだ持っていない……。
江原茗一
mei ehara
1991年生まれ。 学生時代、自主映画制作をはじめた流れで宅録の音楽制作を開始。
複数の自主制作音源を制作した後、名義をmei eharaに改名、カクバリズムに所属。
アルバム『Sway (2017)』『Ampersands (2019)』を発表。 現在は新作制作しながら国内外のアーティストと共作を行うなどしている。
音楽活動の他、文藝誌「園」を主宰・執筆、インタビュープロジェクト「DONCAMATIQ」の編集、ミュージシャンの写真撮影やデザイン、映像作品の美術監督等の制作活動も行う。
note にて「カンバセイション?」を不定期に更新中。
Words & Edit:Kunihiro Miki