今、世界的な再注目の最中にあるアナログ・レコード。 デジタルで得られない音質や大きなジャケットなどその魅力は様々あるが、裏面にプロデューサーやバックミュージシャン、レーベル名を記した「クレジット」もその1つと言えるだろう。

「クレジット」――それは、レコードショップに並ぶ無数のレコードから自分が求める一枚を選ぶための重要な道標。 「Credit5」と題した本連載では、蓄積した知識が偶然の出会いを必然へと変える「クレジット買い」体験について、アーティストやDJ、文化人たちが語っていく。 あの人が選んだ5枚のレコードを道標に、新しい音楽の旅を始めてみよう。

山口美波が考える「アナログ・レコードの魅力」

アナログレコードの魅力は(特にインディー・レーベルからリリースされている作品に関しては)、作り手の意思みたいなものがレコードという物体を通して伝わってくるところにあると思います。 音楽を作って、録音して、プレスして、ジャケットをデザインして、インナー・スリーブも入れたりする。 その過程を踏むごとに作り手の念がこもっていって、それを手に取ってプレイヤーで再生した人が受けとめて、興奮したり、がっかりしたりする。 そんなふうに、人の手を渡って完成していく音楽の在り方が、とてもおもしろいなと思います。

レコードが入っている大きなジャケットも、そこに使われている写真や絵、グラフィックの存在感によって、素晴らしいアートピースになります。 私は、いろんなバンドのジャケット・アートワークを使って服を作るという仕事をしているので、アートワークが誰の手によるものなのかはいつも気になってしまいます。 今回はそこに焦点を当てたセレクトが多くなりました。

山口美波が「クレジット買い」した5枚のアナログ・レコード

A Certain Ratio 『To Each…』

A Certain Ratio 『To Each…』

彼らの作品を断片的にしか聴いていなかった10代の頃、レコード屋さんで中古盤を見つけて買うかどうか迷ったとき、ジャケットに “Cover Co-ordination by Peter Christopherson(ピーター・クリストファーソン)”というクレジットを見つけました。 当時は、とにかくThrobbing Gristle(スロッビング・グリッスル)がイケてると思っているまぁまぁ危険な思想の子どもだったので、バイト代で迷わず購入。 いろんな意味で正解でした。

Weekend 『Drum Beat For Baby』

Weekend 『Drum Beat For Baby』

アートワークのクレジットにWendy Smith(ウェンディ・スミス)という名前があり、10代の私はてっきりそれがPrefab Sprout(プリファブ・スプラウト)のコーラスをやっていたWendy Smithなんだと思い込んでいたのですが、大人になってから、実はそれは全くの別人、同姓同名の画家Wendy Smithさんだったと知りました。 その絵描きの方のWendyさんはYoung Marble Giants(ヤング・マーブル・ジャイアンツ)のアートワークも手掛けていたので、VIVAでYMGとコラボした際に彼女のイラストも使わせてもらったりして、まさかの交流も生まれた思い出の一枚。

Talking Heads 『Life During Wartime / Electric Guitar』

Talking Heads 『Life During Wartime / Electric Guitar』

“Artwork by PLASTICS”、そして“Produced by Brian Eno(ブライアン・イーノ)” というクレジットにより、ニューウェーブ・ラヴァーにとっては歴史的な価値を感じるレコード。 PLASTICSの立花ハジメさんにお話を聞いたのですが、ライブで共演して仲良くなったDavid Byrne(デヴィッド・バーン)の依頼を受けて、ハジメさんとトシさん(中西俊雄さん)のお二人でデザインされたそうです。 音楽、アートワーク、作品や時代の背景、どれをとってもため息が出るレコード。

The Monochrome Set 『Strange Boutique』

The Monochrome Set『Strange Boutique』

コンピでしかMonochrome Set(モノクローム・セット)の音源を持っていなかった頃、どのアルバムから集めていこうかと思ったときに、やはり1stアルバムだしと手に取ったこのレコードは、アートワークが妙に洗練されていて、しかも型押しになっていたりしたので、デザインのクレジットをチェックすると “The Monochrome Set & Peter Saville(ピーター・サヴィル)” という記載。 びっくり&納得して、やや高額だったオリジナル盤を購入しました。 Joy Division(ジョイ・ディヴィジョン)の『Unknown Pleasures』と同じ1979年に、Monochrome Setのアートワークも手掛けていたとは知りませんでした。

Missing Scientists 『Big City, Bright Lights』

Missing Scientists 『Big City, Bright Lights』

ラフ・トレード作品の日本盤7インチは好きなものが多いので、見つけると買うようにはしていたのですが、これは全然知らないアーティストだったのでクレジットをチェックするも、なんだかよくわからず。 そこでインナースリーブを見てみると、〈Mute〉主宰のDaniel Miller(ダニエル・ミラー)とTelevision Personalities(テレヴィジョン・パーソナリティーズ)が一緒にやっているプロジェクトだと書いてありびっくり!それはヤバすぎると思って即買いしました。 実はジャケットのクレジットには全員偽名を書いていたのです。 そういうこともあるので皆さん気を付けて(笑)。 ちなみにタイトル曲はDandy Livingstone(ダンディー・リビングストーン)のダブ・カヴァー。

山口美波

ソロユニット "SHE TALKS SILENCE" にて2010年より音楽活動を開始。 2019年には、世田谷区・奥沢にポストパンク〜ニューウェーブをコンセプトとしたセレクトショップ "VIVA Strange Boutique" をオープン。 自身が敬愛するバンドやアーティストとのコラボレーション・アパレルを制作・販売している。

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Edit: Takahiro Fujikawa

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