今、世界的な再注目の最中にあるアナログ・レコード。 デジタルで得られない音質や大きなジャケットなどその魅力は様々あるが、裏面にプロデューサーやバックミュージシャン、レーベル名を記した「クレジット」もその1つと言えるだろう。
「クレジット」――それは、レコードショップに並ぶ無数のレコードから自分が求める一枚を選ぶための重要な道標。 「Credit5」と題した本連載では、蓄積した知識が偶然の出会いを必然へと変える「クレジット買い」体験について、アーティストやDJ、文化人たちが語っていく。 あの人が選んだ5枚のレコードを道標に、新しい音楽の旅を始めてみよう。
前回の記事はこちら 第1回:坂本慎太郎編
あっこゴリラ的 「アナログレコードの魅力」
私がレコードを買うようになったのは、コロナ禍以降なんです。 ステイホーム期間に家で音楽を聴く時間が増えたのはいいのですが、サブスクだとつい流し聞きをしてしまうことが多いことに気がついて…。 じっくりと音楽を聴く環境を整えなくては、と思ってレコードを買いだしたんです。 同じアルバムでも、レコードで聴く時は体がその作品と向き合うモードになるし、音そのものにも存在感がある。
なので、私のレコードの買い方は、ディグるというよりも自分の血肉になった作品をレコードで買い直すことが多いです。 選んだ5枚も、「クレジット買い」というよりクレジットを見るために買ったという方が正しいかも。 今まではプロデューサーが誰とか、バックメンバーが誰とか気にしたことがなかったんだけど、レコードジャケットの裏面には色々な情報が載っていて、聞き覚えのある名前があると点と点が線になったりして面白い。 新しい音楽の楽しみ方をレコードに教えてもらった気がします。
「クレジット買い」 したアナログレコード 5枚
Lauryn Hill 「The Miseducation of Lauryn Hill」
私のR&B入門の一枚にして、最も繰り返し聴いた作品です。 レコードで買ってみて驚いたのは、クレジット欄を見てみたら作詞作曲だけじゃなくてプロデューサーの欄も彼女の名前になっていたこと。 この大名盤がセルフプロデュースで作られたものだとは思ってもみなかったので、めちゃくちゃ食らいました。 調べてみたら、レコード会社から提案された外部プロデューサー起用の話を彼女自身が断ったってエピソードを知って、昔聴いていたころよりさらにこのアルバムへのリスペクトが上がりましたね。
SLITS 「CUT」
高校生の時にジャケ買いをしてからずっと聴き続けてきました。 私のサウンドの趣向のルーツは完全にこの「CUT」です。 CDで聴いていたころは歌詞カードを見るくらいだったんですが、レコードを買って裏面を見て、「CUT」の時のドラマーはPalmolive(パルモリヴ)じゃなくてBudgie(バッジー)なのか、とかプロデューサーのDennis Bovell (デニス・ボーヴェル)って知らなかったけど調べたらめっちゃすごい人じゃん、とか新しい知識を得ながら聴き直すのがめっちゃ楽しかったですね。
RAGE AGAINST THE MACHINE 「RENEGADES」
レイジは全作品好きで昔から聴いていたんですが、「RENEGADES」は特に好きでレコードで買い直しました。 裏面を見たらプロデューサーにRick Rubin(リック・ルービン)の名前があって、聞いたことある名前だなと気になって調べてみたら、Run-D.M.C.(ラン・ディーエムシー)とかWu-Tang Clan(ウータン・クラン)とかレッチリとか、自分が聴いてきた作品の多くが彼の仕事だと知って驚きました。 自分の好みの音を作るプロデューサーを知っておくことって大事ですよね。 レコードを買うようになって、初めてクレジットを見ることの楽しさに気づきました。
尾崎豊 「街路樹」
尾崎豊は人間として味わい深くて大好きなんですが、アルバムとしてはこの「街路樹」が一番気に入ってます。 尾崎がアーティストとして苦悩していた時期のもので、初期の勢いのある作風とは違ってちょっと暗い内容なんです。 サウンドも、それまでのモロ80’sなサウンドから少し変わって、枯れた感じが好みで。 これは過去3作のプロデューサー(須藤晃)とは違う人の仕事なのではと思ってクレジットを見たら、吉野金次とあった。 それから吉野さんについて調べてみて、はっぴいえんどや細野晴臣さんの作品を手がけてきた人と知って、なるほど! と。
Patti Smith 「Horses」
これも高校生のときにCDでよく聴いていた一枚です。 当時よく本屋で売っていた「ロック名盤100選」みたいな雑誌に載っているアルバムを片っ端から買っていたころに出会いました。 Patti Smith(パティ・スミス)は私が最も憧れる人物のひとりですね。 ディーバ然としたアーティストよりも、Pattiのような女性性を前面に出さずに、インテリジェンスのある佇まいの人に憧れてしまうんです。 「Horses」をレコードで買い直してみて、そういえばこのアルバムのプロデューサーって誰なんだろう? と思ってクレジットを見たら、John Cale(ジョン・ケイル)と書いてある。 誰だろう? と調べたら、ヴェルヴェッツのメンバーか! とびっくりして。 John CaleとかTom Verlaine(トム・ヴァーライン)とか、才能ある男たちを従えるその様もかっこいいなと思います。
あっこゴリラ
ドラマーとしてメジャーデビューを果たし、バンド解散後、ラッパーに転身。 スキル・コネ・お客ゼロから下積みを重ね、2017年には、日本初のフィメール(女性)のみのMCバトル「CINDERELLA MCBATTLE」で優勝。 その後、さまざまなアーティストとのコラボレーションも行う中、同年末、向井太一とのコラボ曲「ゲリラ」がSpotifyのCMに起用される。
野生のゴリラに会いにルワンダへと旅をした模様を収めた「Back to the Jungle」、永原真夏と共にベトナムで撮影された「ウルトラジェンダー」、そして2018年に ”再” メジャーデビューを飾り、台湾で撮影を敢行した「余裕」など、国内に限らず海外で制作したMVも話題に。 さらに、同年12月満を持しての1stフルアルバム「GRRRLISM」をリリース。 女性の無駄毛をテーマにした「エビバディBO」、年齢をテーマにした「グランマ」など、世の中の ”女性(もとい男性)はこうあるべき” という固定概念に焦点をあてた楽曲を発表。 その他、クリエイターを巻き込んでのZINEの制作や、トークショーの開催など、 ”自分らしくあろう” というメッセージの下、 ”GRRRLISM” (Riot grrrlからオマージュ)を伝える活動を行っている。
Edit:Kunihiro Miki