生の演奏の迫力を味わえるコンサート、音の良い席で素敵な時間を過ごしたい方も多いはず。 特に大きなホールでは、S席、A席、B席…と座席やエリアごとにお値段が変わることがありますが、これはひとえにステージとの距離で決まっているのではなく、音の聴こえの良さによさも関係しているのです。 今回は音楽家、録音エンジニア、オーディオ評論家の生形三郎さんの考える、コンサートホールの ”音の良い席” の選び方をご紹介します。

ホールの響きは楽器の一部

クラシック音楽には、コンサートホールの存在を欠かすことが出来ません。 ホールの響きは楽器の一部とも言われ、それ込みで音楽の演奏が成り立っていると言えます。
では、そんなホールの中で音楽を聴くとき、どの場所で聴くと理想的なのでしょうか。 私が考える、良い席の選び方をご紹介します。 まずは「基本編」です。
最良のリスニングポジション、つまりスウィートスポットを考える上で大切なのが、「直接音」と「間接音」の存在です。 直接音とは、文字通り、楽器から発せられた音が、壁や天井、床などに反射せず、直接耳に届く音のことです。 それに対して間接音とは、楽器から発せられた音が、壁や天井、床など、どこかに一度や二度ないし複数回反射してから耳に届く音のことです。 その両者の音量バランスこそが、理想的な席を決めると言っても過言ではないでしょう。


実際、クラシック音楽をホールで録音する際、この直接音と間接音が同じ割合になる場所を基本にメインとなるマイクを設置するという考え方があります。 当然、ホールの形状や楽器の種類や数などによってもその位置は変わってくるので算出方法はケースバイケースになるのですが、音が良い席も、基本的にはそれをもとに考えるのが良いと私は考えます。
よって、あまりにも楽器に近すぎる位置は直接音が多すぎて楽器の響きがドライになってしまったり、逆に、あまりにも遠い場合は間接音が多すぎて演奏が茫洋としてしまいます。
それもあって、ホールのチケットでは、S席、A席、B席、C席などと分かれています。

おすすめは、適度な距離がある位置

例えばあるホールの公演チケットでは、ステージ最前列はB席で、2列目から5列目くらいまでがA席、6列目以降がS席で、最後列から手前の3列目くらいからまたA席、後ろの壁に最も近い最後列がB席、加えて左右の壁際の列もB席、などと席の位置によってチケットのグレードが変わってきます。 これはまさに、近すぎる位置や遠すぎる位置よりも、適度な距離がある位置がベストだという考え方に基づくものでしょう。
ただ、ホールは基本的にはどの席でも良い響きとなるように設計されるので、勿論そこまで聞き苦しい結果にはならないとは思います。 特に、近年に設計されたホールであればあるほど、そのシミュレーションは綿密に設計されているはずです。 ちなみに、ホールをはじめとする建築音響の世界は、実寸の何分の一といったミニチュア模型を作って、その響きを実際に測定するなどの検証を経て設計される、とても数学的、物理的な世界のようです。

参考イメージ画像です。 実際の席のグレードは、会場や公演によって異なります。
参考イメージ画像です。 実際の席のグレードは、会場や公演によって異なります。

聴きたい楽器の特性から音の良い位置を逆算してみよう

続いて、楽器との距離とともに重要なのが、楽器との向きです。 楽器は音がよく飛んでいく方向性があります。
例えば金管楽器は「ベル」と呼ばれるラッパ状の部分から高い音がよく飛んでいき、低い音になるほど楽器全体から発せられます。 つまり、ラッパに対して軸上のほうが明瞭な音が聴けます。
弦楽器は、「f字孔」と呼ばれる穴の空いた方向に、もっとも音がよく飛びます。 つまり、楽器を構えたときにf字孔が上を向くヴァイオリンやヴィオラと、正面やや上方を向くチェロとでは、音のよく飛ぶ方向が異なります。


ピアノも、屋根と呼ばれる上板(蓋の部分)に反射して音が広がっていきますので、鍵盤方向から聴くのと、屋根が開いた方向(鍵盤を手前にして右側)から聴くのとでは、音が異なります。

自分にとっての”良い席”とは?

このように、楽器の構造による音の広がり方の違いがありますし、さらには、楽器によって、演奏者の顔や表情がよく見える方向、演奏者の演奏している手元がよく見える方向も変わってきます。
そして当然、楽器の編成がソロなのか、オーケストラなのかによっても、スウィートスポットが変わってきますし、演奏する会場の構造や規模によっても変わってきます。
引き続き、それらを踏まえたコンサートでのスウィートスポットをご紹介していきたいと思います

Words:Saburo Ubukata

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