繊細な歌声に、ブラックミュージックやクラブミュージックを巧みに取り入れた楽曲で支持を集めるシンガーソングライター・Sincere。
表現力豊かな低音、「解放感」と「浮遊感」のあるサウンドへのこだわりを持つ彼女に、今回、オーディオテクニカの完全ワイヤレスイヤホン『ATH-CKS50TW2』を使用してもらった。「25時間、トベルオト。」をキャッチコピーに、プロモーションムービーに千葉雄喜を起用したことでも話題の本製品で「トベルオト」を堪能してもらいながら、その「低音」への想いを聞いた。まずはその音楽遍歴から。
「自由さ」や「解放感」を感じさせるサウンドを浴びた幼少期
「音楽の原体験」といったとき、Sincereさんはどんなアーティストが思い浮かびますか?
アレステッド・ディベロップメント(Arrested Development)とプリンス(Prince)です。家族で車に乗っているとき、いつもかかっていて私も自然と好きになりました。
母が忙しい人だったので車に乗っているときがふれあいの時間で、小さいころ、アレステッド・ディベロップメントのラップを必死に覚えて母と一緒に歌っていました。最初は口パクだったんですけど(笑)。ヒップホップにアフリカンサウンドを入れている感じが好きで、自然を感じるというか、自由になれるサウンドだと思います。
アレステッド・ディベロップメントはお母さんとの思い出の音楽なんですね。
そうですね。あと叔父がめちゃくちゃ音楽にうるさい人で、いろいろ細かくたたき込まれてました(笑)。
プリンスについてはいかがですか?
プリンスは『Batman』くらいまでが特に好きで、ジャンルを限定しない音の感じとか、常にそのときの旬のサウンドをいい感じに取り入れているところに惹かれます。
『Parade』ってアルバムが大好きで、「Mountains」とか解放感を感じさせるハーモニーの付け方の曲がプリンスには多い気がします。「Sometimes It Snows In April」もめっちゃ好き。あとは『For You』の1曲目もよく聴きます。波紋が広がるように声が重なってる感じで好きなんです。私、プリンスに関しては単純に「好き」って言葉しか出てこないんですけど(笑)。
想いがすごく伝わります(笑)。Sincereさんにとって、音楽がもたらす「自由さ」や「解放感」はひとつのポイントなのでしょうか?
そうですね。私の思い出ともつながっているところもあるんですけど、2組とも聴いていると、こう、空を見上げる感じがあるというか。プリンスだと全然逆のサウンドも多いですけど(笑)。
七尾旅人、ムラ・マサらを通じて育んだ「歌」とサウンドへのこだわり
学生時代はどんな音楽を聴いていましたか?
中学生のときは、ハナレグミにどハマりしていました。あと七尾旅人さん、クラムボンも大好きです。高校生のときはYouTubeで音楽を聴いていたんですけど、Majestic Casualっていうチャンネルでムラ・マサ(Mura Masa)を知って。そこからエレクトロニックミュージックを聴くようになって、深く掘っていきました。
まず「歌」について、名前をあげた3組にはどんなところに惹かれましたか?
みなさん歌そのものとしても素晴らしいんですけど、歌が全面的にドーンと前に来るというより、喋ってる感じの歌い方というか、感情で歌っている感じがするんですよね。私もそうありたいなと思っています。
私はちょっとまだ「歌っちゃってる」というか。どうすれば、ああいうふうに歌えるのか最近考えるんですけど……やっぱり、いろんな経験をすることなんですかね。何気ない鼻歌だったり、レコーディングの最初のテイクだったり、私が思う「いい歌」って、その人のピュアな部分が出ているものなのかなと思います。
素の自分、ありのままの人柄がそのまま歌になっているというか。
そうです。そういう歌を目指しています。ラップですけど、鎮座DOPENESSさんも歌じゃなくて、喋ってる感じですごく好きです。
ロールモデルにしているシンガーはいますか?
シンガーのロールモデルを意識したことはあまりなかったのですが、最近またリアン・ラ・ハヴァス(Lianne La Havas)、アレサ・フランクリン(Aretha Franklin)を聴いてめっちゃいいなと思いました。あとシャーデー(Sade)も好きですし、プリンスがインスパイアされたって知って、ジョニ・ミッチェル(Joni Mitchell)も好きで聴いています。
アレサ・フランクリンやジョニ・ミッチェル、七尾旅人さんなど今挙げられたアーティストには、何か共通したフィーリングがあるような気がします。
わかります、「心」がそのまま表現されているというか。YouTubeに上がっている七尾旅人さんの「帰り道」は本当に何回も聴きました。
エレクトロニックミュージックを掘るようになったのはどういうポイントが大きかったんですか?
ムラ・マサがそうですけど、ボーカルの感情がより際立った曲との出会いが大きかった気がします。それこそエレクトロニックミュージックには「歌ってる」というより、喋るように歌っている曲も多いですし。だからこそ声の質そのものが曲の重要なポイントになっているものが好きになったり。
歌が楽器のように扱われている曲、サウンドが好み?
私自身、あまりボーカルそのものには重きを置いて聴かないかもしれないです。メロディーと繊細さ……あと、音の位置がわかる曲が好きなんです。楽曲が立体的で、繊細に作り込まれたもの、あとは解放感を感じさせるものが好きですね。
ドラム、ベース、ギター、シンセ、ボーカルがそれぞれどこでどう鳴っているか、というような録音物としてまとまりのよさ、解放感を感じさせるサウンドやミックスがSincereさんが音楽を聴く上でのポイント?
そうそう。その上でストーリーがちゃんとある音楽が好きですね。歌のクオリティーももちろんすごく大事なんですけど、「歌唱力発揮!」ってよりは、いろんな要素がいい感じにひとつの音楽としてまとまっているかが私にとっては大切です。
「あの私、空を飛びたくて」——Sincereと低音の関係
Sincereさんがどのように楽曲制作をしているのか教えてください。
自分でDTMで作ったデモをベースにアレンジャーと作っていくこともあれば、トラックをいただいてメロディー、コーラスを乗せて形にしていくパターンもあります。最近はトラックメーカーの方と一緒にこんなサウンド作りたいって感じでセッション的に作ることが多いです。
楽曲制作のとき、低音をどう意識していますか?
私のメロディーは浮遊感がテーマでして。ちょっと飛んでる雰囲気を出したくて、そのために低音がしっかりしてないといけないんですよね。私の目指す浮遊感のあるサウンドを作るために、低音がすごい大事だなって常に思っています。
だから私の曲、結構ちゃんと低音が響いている曲が多いと思います。自分の好みだけに振り切っちゃうと、めっちゃネイチャーな感じになったり、ファンタジックになっちゃうんですよ。低音が私を地球に引き戻してくれています(笑)。
「メロディーは浮遊感がテーマ」というのは、アレステッド・ディベロップメントからの影響もありますか?
本当にそうで、あの私、空を飛びたくて(笑)。スピリチュアルな意味ではなく、浮遊感というものがすごく好きなんです。ハーモニーの積み方も浮遊感を意識しているので、Sincereの曲を私の声だけで聴くとか主旋律がどこかがわからないことが結構あります。
声ってことでいうと私、ケルティック音楽も大好きです。教会で育ったのもあってコーラスワークがはっきりしている曲、合唱曲も好きで、それも解放感がある音楽が好きってことだとなんだろうなと思っています。
エレクトロニックミュージックだと他にどんなものがお好きですか?
モーグリー(Moglii)もすごく好きです。あとはビビオ(Bibio)とか、オーストラリアのベイク(Baynk)とか、北欧ポップが好きなのでシグリッド(Sigrid)とか、最近ちょっとハマっているのがパッション・ピット(Passion Pit)。エレクトロニックミュージックの中にあるオーガニックな感じがすごく好きなんです。
それもアレステッド・ディべロップメントのニュアンスともちょっと重なる気がします。
自分でも最近、多分そうなんだろうなと分析しています。アレステッド・ディべロップメントのメロディーって本当に綺麗で、温かくてハッピーになります。それもちょっと切なさが残る感じのハッピーさなんです。
Sincereが選ぶ、低音の心地よさと浮遊感で「トベルオト」
今回、Sincereさんにはオーディオテクニカの完全ワイヤレスイヤホン『ATH-CKS50TW2』を使っていただきましたが、使用感はいかがでしたか?
自分のボーカルだけを抜いたトラックを聴いたとき、「アレンジでこんな低音を入れてくださったんだ」って初めて気づくことってあるんですけど、今回聴かせていただいたイヤホンは歌が入っていてもバランスよく、すごくいい感じに低音が響いてました。
「no pride」の曲中ずっと鳴ってる低音も心地よかったですし、あと「dawn」もあまり低音が強すぎずでよかったですね。バーンって低音が出るというより、ちゃんとボーカルも前に出て、低音がしっかり鳴りつつ、全体的なバランスがすごくいいなって思いました。
Sincereさんのリスニングの趣向としては、ズンズン響くパワフルな低音というよりは、表現力豊かな低音が好み?
そうです。すごくいい感じにまとめてくださりました(笑)。
Sincereさんにとって「この低音が好き!」という曲を教えてください。
ムラ・マサの「Firefly」はやっぱり大好きです。シンセのニュアンスも、メロディーもすごく浮遊感あるなと思います。あと、ベイクが今年出したアルバムに入ってる「Grin」っていう曲が心地いい低音で、このイヤホンでもすごく聴きやすかったです。あと、DAFの「Der Mussolini (Giorgio Moroder & Denis Naidanow Remix)」がすっごい低音が心地よくて。
DAFはどんなきっかけで出会ったんですか?
ジェネシス・オウス(Genesis Owusu)っていうイギリスのアーティストが好きで、「Leaving the Light」って曲をきっかけに去年はニューウェーブにハマってまして。DAFはニューウェーブを掘っていくなかで出会いました。
では、ご自身の楽曲で特に低音がおすすめの曲はどれでしょう?
「no pride」がいい具合に低音が鳴っていますね。「めっちゃ低音!」って感じではないんですけど、バランスとして低音がいいエッセンスになっているなと思います。
「自由になれる」きっかけになれば。Sincereがリスナーに向ける眼差し
今回、オーディオテクニカの製品を使ってご自身の曲もいくつか聴いてもらいましたが、Sincereさんは自分の音楽がリスナーにとってどういうものであってほしいと思っていますか?
めっちゃベタかもしれないんですけど……私は聴いてくれる人に自由になってほしいですね。私は歌詞にこだわりを置いているんですけど、私自身、「考えた上での自由」が大事なのかなって思っていまして。
ずっと悩んでいたことがひとつの言葉で目から鱗が落ちるというか、考え方ひとつで自由になれるときってあるじゃないですか。私の曲もそういうものであってほしいなって思っています。上から目線じゃない言い方があまりわからないんですけど、でも私の曲を聴いてちょっとした気づきがあると嬉しいなと思います。そういうふうな考え方もあるのか、みたいな。
あと私、ベタな励まし方があまり好きじゃなくて。厳しい言葉を投げかけられたほうが解放されることがあるなって思うので、私の歌詞は結構スパルタなものが多いんですけど、「優しさで言ってます」みたいな感じで歌ってます。あんまり偉そうに聞こえてほしくないんですけど(笑)。
大切な人、親しい距離感だからこそ、あえて厳しい言葉を投げかけるってこともありますよね。それにSincereさんが歌や言葉にありのままの自分を反映させた表現を目指しているから、聴いている人も音楽を通じてSincereさんの心とつながれるかもしれないなと思いました。
そうでありたいです。私、自分の経験というよりは、そのときの私自身をそのまま書いたり、フィロソフィー、考え方みたいなのを音と歌詞で表現することが多いんです。
だから3ヶ月後に聴いたらめっちゃ恥ずかしいってことも多いんですけど(笑)、それはもう割り切って音楽にしてる感じです。そういう私の音や歌詞に共感していただけたり、救われたりしていただけるととても嬉しいですけど、全然そんなこと考えずに聴いていただいてもOKで、自由に聴いてくださいって感じです。
Sincere
兵庫県出身のシンガーソングライター。2021年12月にSincereとしての活動を本格的にスタートし、2022年3月には客演にVivaOlaやNenashiを迎えた1st EP『Time』をリリース。最新作は、2024年10月リリースの『Better Weather』。現在、ソロ活動を行いながら、クニモンド瀧口のソロプロジェクト・RYUSENKEIのボーカリストとしても活動中。
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Words:Shoichi Yamamoto
Photos:Masahiro Takai