午前10時を15分ほどまわったころ。ニューヨークのロック吟遊詩人ルー・リードのアルバム『Transformer』 がかかっている。朝から雨というあいにくの空模様。それでもこの店の扉は10分ほどおきに開き、近所の常連客がコーヒーを求めてやってくる。

「ここで流れている午前の音楽—午前11時半くらいまででしょうか—と、コーヒーの相性は抜群です」

と、店の奥から出てきたオーナー、Jeff OgibaとMike Polnasek。彼らの頭上では、おもちゃ箱をひっくり返した賑やさでごちゃごちゃに並べられたアンティークの置物たちがこちらを見ている。

仕事の前に行きたいレコードショップ。淹れたてのコーヒーとアンティークに触れて、大人はゆっくり目を覚ます
左からMike Polnasek、Jeff Ogiba

仕事の前に行きたいレコードショップ。淹れたてのコーヒーとアンティークに触れて、大人はゆっくり目を覚ます
仕事の前に行きたいレコードショップ。淹れたてのコーヒーとアンティークに触れて、大人はゆっくり目を覚ます
仕事の前に行きたいレコードショップ。淹れたてのコーヒーとアンティークに触れて、大人はゆっくり目を覚ます

「コーヒーを買いに来ただけで、変わったビンテージのカセットテープを発見したり、音楽を耳にしたりする。いろんなものがひとつの場所に共存しているのが、いいんじゃないかな」

ニューヨーク・ブルックリンのキャロルガーデン地区。雑貨屋にスイーツショップなどが立ち並ぶ、落ち着きと地元情緒のあるエリアだ。そのうちの一店がここ「Black Gold Records」。店に足を運べばコーヒー、レコード、アンティークの三つの味を一度に堪能できる。大人の宝探しができる場所。

アメリカーナ(古き良きアメリカ)がテーマの店内は、「音楽ポスターや缶バッチが雑多に山ほど飾ってあるような、よくある使い古された“レコードショップ”にはならないようしている。せっかくだったら他と違うことがしたい」。店には、新しいレコードからビンテージものまで、さまざまなジャンルのレコードが取り揃えられている。

「店のレコードは基本的に二人で選ぶ。自分たちで蚤の市に足を運んで買いに行ったり、業者から仕入れたり。“レコード買います”という広告も出しているから、時々「1万枚くらいレコードがあるんだけど」なんて電話がかかってくることもある」

仕事の前に行きたいレコードショップ。淹れたてのコーヒーとアンティークに触れて、大人はゆっくり目を覚ます

店内のレコードコレクションから、JeffとMikeのトップ3を。

1、「Paul’s Boutique」by Beastie Boys
(1989年/ニューヨークのヒップホップグループ「Beastie Boys」のセカンドアルバム)

2、「ELECTRIC WARRIOR」by T. REX
(1971年/英国のロックバンド「T. REX」のアルバム)

3、「Business as Usual」by Men At Work
(1981年/オーストラリアのニューウェーブバンド「Men At Work」のデビューアルバム)

オープンから早10年。「最初は何もないただの空間だった。もともとここの天井は白だったんだけど、つまらないから真っ黒にペンキで塗り替えたんだ。あと、壁に棚をつけてみたりね。この店は時の流れと同時にどんどん変わり続けている。なんだか生き物みたいだよね」

晴れの日でも雨の日でも変わらずに美味いコーヒーのメニューに目を通す。ホットはプアオーバースタイルだ。地元のロースターで焙煎されたオリジナルのミディアムロースト豆を使っている。

仕事の前に行きたいレコードショップ。淹れたてのコーヒーとアンティークに触れて、大人はゆっくり目を覚ます

仕事の前に行きたいレコードショップ。淹れたてのコーヒーとアンティークに触れて、大人はゆっくり目を覚ます
「うちは、豆はこれ一本。質の高い材料にこだわっている。その辺で飲むような“真っ黒なお湯”とはまったく違うよ。味がしっかりしていて、カフェインの量も適量だよ」。

コーヒー豆にお湯がゆっくりと注がれると、店内にコーヒーの香ばしい匂いがモクモクと立ち込めてくる。ちょっと珍しいコーヒーも発見。「ニューオーリンズ・アーモンドミルクラテ」。

仕事の前に行きたいレコードショップ。淹れたてのコーヒーとアンティークに触れて、大人はゆっくり目を覚ます
「ひと晩置いたコールドブリューのコーヒーに、チコリ(薬草)を加える。すると、少しスパイスが効いた味になるのさ」。チャイラテやホット・チョコレートなど季節のドリンクもある。Mikeのお薦めの飲み方は、「ホットのブラックコーヒー。たまにミルクを少しだけ入れたりもするけど。砂糖は決まって入れない。コーヒーそのものの味がいいから、下手に手を加えない」

コーヒーの飲めるレコード屋、レコードが聴けるコーヒー屋はよくあるが、Black Gold Recordsにはもう一つ、アンティークがある。それも、かなり奇妙な類のアンティークを揃えている。シカやビーバー、ヘビなどの動物の剥製、1960年代に劇団で使用された紙製の動物のかぶり物、西アフリカの手描き映画ポスター(穀物などを入れていた麻袋の裏に描かれている代物)、何十年も前にカーニバルで使用されたプラカード。

音楽好きのオーナー、もちろん音楽に関するビンテージ物もある。例えば、60年代前半の英Garrard(ガラード)社のレコードプレーヤーの広告用電飾看板や、デヴィッド・ボウイの8トラック(カートリッジ式の磁気テープ再生装置)。

仕事の前に行きたいレコードショップ。淹れたてのコーヒーとアンティークに触れて、大人はゆっくり目を覚ます
「アンティークっていうものは、実に興味深い。一つの品をとっても、その背景にある歴史などを想像して不思議な気持ちになる。一つひとつが、それぞれの物語を隠し持っている」

「毎日コーヒーを買いにくる人がいて、毎週土曜日に来て一杯のコーヒーとレコードを何枚か買っていく人がいる。それぞれの個性が反映されたさまざまな過ごし方をしているのが面白い」

この日もコーヒーを飲みにやってきた常連さんがいた。「自分でコーヒーを淹れたりもするんだけど、ここのコーヒーにはとうてい敵わない。ここのコーヒーは注文してから、豆を挽いて、プアオーバーでコーヒーを淹れてくれるからとてもフレッシュな味わいなんだ。朝目覚めて、ルーティン通りにここに足を運ぶ。店員さんとちょっと会話をして、おいしいコーヒーを飲んで、やっと仕事に行く気になれるんだ」。それに、ほら、と店内を見渡す。「そこにもあそこにも、いろんな面白いものが置いてある。ここに来たらいつも新しい発見があるよ」

仕事の前に行きたいレコードショップ。淹れたてのコーヒーとアンティークに触れて、大人はゆっくり目を覚ます

仕事の前に行きたいレコードショップ。淹れたてのコーヒーとアンティークに触れて、大人はゆっくり目を覚ます

仕事の前に行きたいレコードショップ。淹れたてのコーヒーとアンティークに触れて、大人はゆっくり目を覚ます

仕事の前に行きたいレコードショップ。淹れたてのコーヒーとアンティークに触れて、大人はゆっくり目を覚ます

仕事の前に行きたいレコードショップ。淹れたてのコーヒーとアンティークに触れて、大人はゆっくり目を覚ます
レコードを聴く。淹れたてのコーヒーの匂いを嗅ぎ、目覚める。味わう。壁に飾ってあるアンティークに目をやる。触れて確かめる。

「聴覚、味覚、嗅覚、視覚、触覚、すべての感覚が刺激される店」というオーナーたちの言葉通り。レコードとコーヒーとアンティークは、五感をつつく三種の神器。なんとも最高の相性。

INFORMATION

Black Gold Records

461 Court St, Brooklyn, NY 11231

仕事の前に行きたいレコードショップ。淹れたてのコーヒーとアンティークに触れて、大人はゆっくり目を覚ます

ブルックリン、キャロルガーデン地区にある、2010年創業のレコード屋/コーヒーショップ/アンティークショップ。オーナーの二人が蚤の市で探し当ててきたレコードやアンティーク品を販売しているほか、地元ロースターの豆を使用したプアオーバースタイルのコーヒーを提供する地元密着型の店。

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Photos: Kuo Heng-Huang
Words: Ayano Mori (HEAPS)

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