日本では、毎年さまざまなオーディオ関連イベントが開催されています。全国から多くの参加者を集める大規模なイベントがある一方で、在野のオーディオサークルが地道に続けながら大きな集客を得ているイベントも存在します。今回はその中から東京で開催される3つのイベントをピックアップし、オーディオライターの炭山アキラさんに解説していただきました。

ファミリー層からオーディオマニアまで楽しめる「OTOTEN」

日本で最も長い歴史を誇るのは、オーディオとホームシアターの祭典「OTOTEN」です。そもそもの始まりは1952年というから、もう70年以上も前の話になります。その年の10月に結成された「日本オーディオ学会」が、12月4日に東京は有楽町の東京都電気研究所というところで開催したのが、第1回の「全日本オーディオフェア」です。

勃興するオーディオブームも追い風となり、品川、晴海と大規模な会場へ引っ越しを重ね、いつしか「全日本」が取れて「オーディオフェア」となったイベントは池袋のサンシャインシティ、さらに東京ビッグサイトへと会場を移してして1998年に「オーディオエキスポ」へ名称を変更。その後も会場をパシフィコ横浜へ移し、「A&Vフェスタ」として2003年から7年間開催されました。

そして再び名称が変更され、ここで名称が「オーディオ・ホームシアター展(通称 音展)」となったイベントは、会場が秋葉原駅前のUDXビルと富士ソフトビルになり、4年間開催されました。2009年からは再び臨海部へ会場を移し、2016年を休止として、2017年から「OTOTEN」と名称を変更、有楽町の東京国際フォーラムで新装開店となり、その体制が現在まで続いています。

Image by yu_photo(via stock.adobe.com)
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国内にいろいろあるオーディオイベントの中で、音展は最も幅広い世代や趣味・嗜好の人が楽しむことのできるもの、という印象があります。薄紙1枚分でも音質向上を目指す求道的なオーディオマニアから、引っ越したのを機会にホームシアターを入れてみんなで楽しもうかというファミリー層、ヘッドホンやイヤホンの再生音を吟味し、磨き上げるモバイルオーディオ派、もう一つのモバイルオーディオとしてのカーオーディオ・エンスージアスト、アニソンから音楽好きになった中高生へ向けてのハイレゾオーディオ講座、そしてメーカーや在野のエンジニア・学究派のマニアへ向けた技術セミナーまで、非常に幅広い展示とデモ、カンファレンスが行われるイベントです。

国内外のメーカー・販売店が数多く参加し、新品/中古レコードや書籍・雑誌の即売などもあり、会場限定のセール価格が提示されていることもありますから、本当にいろいろ楽しめるオーディオイベントといっていいでしょうね。

世界のハイエンド・オーディオが並ぶ「東京インターナショナルオーディオショウ」

現在のところ、日本で「音展」と並び、多くの会社が参加して高い集客を誇るのが、「東京インターナショナルオーディオショウ」でしょうね。日本インターナショナルオーディオ協議会が主宰するこのイベントは、もう40年以上前、1983年に「夢の輸入オーディオショウ」として、東京・九段下のホテル・グランドパレスで第1回が開催されました。

Image by J_News_photo(via stock.adobe.com)
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そんな輸入オーディオショウが飛躍を迎えたのは1997年、オーディオ系の輸入商社が主に集まって結成された輸入オーディオ協議会が、新たに日本の有力オーディオメーカーへも門戸を広げ、日本インターナショナルオーディオ協議会へと改組されたのをきっかけに、イベントの名称も「東京インターナショナルオーディオショウ」へと変更し、会場も旧・東京都庁の跡地に建設されたばかりの東京国際フォーラムへ移りました。以来、2024年までずっとこの形式と会場で、イベントが続いています。

「東京インターナショナルオーディオショウ」は、最も正統的にマニアックな「ハイエンド・オーディオの祭典」という側面が色濃くあり、ゼロが末尾にいくつついているのか分からなくなるような超高額コンポーネンツを筆頭に、世界の一流メーカーが持てる限りの技術とリソースを注ぎ込んだ、大作・傑作オーディオ機器群が各社のブースを賑わせます。数年前には1,200万円のスピーカーが登場して驚いたと思ったら、2024年には何と1億5,400万円(いずれもセット価格)のスピーカーが登場しましたからね。

各社フラッグシップ製品の音を聴き、作りや仕上げの良さを確認することで、あなた自身の耳や目が肥えていくことは間違いありません。若い人にとって、たとえ今は買えないクラスの製品であっても、そういう世界観がオーディオの世界に存在する、音楽をこういう風に再生することができる、というポケットを増やしておくことは、長期的にも役立つことだと思います。

その遥かな道を先導するために、各社のブースではオーディオ評論家やメーカーの技術・広報担当者によるセミナーが、数多く開催されています。週末や連休を絡めて3日間開催されることが多いインターナショナルオーディオショウですが、1日ですべてのブースを回り、多くの評論家のセミナーを聴くことは難しいでしょうね。地方からお見えの来場者に、「宿を取って3日間通っています」という話を伺ったことも、一度や二度ではありません。それだけ中身の濃いオーディオイベントだ、といって間違いないのでしょう。

世代を超えたアナログファンが集う「アナログオーディオフェア」

「アナログオーディオフェア」という名前を聞くと、さぞかし歴史の長いイベントなのかと思いきや、実は初開催が2015年と、オーディオイベントの中では後発組に挙げられるものです。

出展しているメーカーや代理店、工房などはそうそうたる顔ぶれです。アナログプレーヤーとその関連パーツ、カートリッジやトーンアームなどのメーカー、真空管アンプを得意とする社、アナログを得意にする輸入商社、そしてご主人1人で切り盛りしているような個人工房まで、規模の大小を問わず、多くの人たちが腕によりをかけた製品を展示しています。

しかも、大企業から個人工房のオーナーに至るまで、話を聞いていると「あぁ、この人は本当にアナログが、オーディオが好きでやっているのだな」ということが、肌感覚で伝わってきます。オーディオブームの頃に比べて、近年のオーディオショーはどこもその空気が強いものですが、特にアナログオーディオフェアでは “熱い” ものを感じさせてくれます。

Image by 健太 上田 (via stock.adobe.com)
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会場の東京・秋葉原の損保会館は、JR秋葉原駅、同御茶ノ水駅、東京メトロ新御茶ノ水駅から徒歩圏の便利な場所で、秋葉原の電器店へ立ち寄りがてら、あるいはフェア観覧後にお茶の水で中古レコードを発掘して、といった予定の立てやすい会場です。

2020年に襲来した新型コロナの影響を蒙って、4年間の休止を余儀なくされましたが、2024年に復活を遂げたアナログオーディオフェアは、やはり中高年ファンも多く来場なさっていましたが、20~30代の若いファンが結構な割合に上っていたのが印象に残ります。折からのアナログ再ブームに加え、フェア主催者の「若い世代への橋渡しを!」という意気が伝わり、多くの世代を呼び込むことに成功しているのではないかな、と私は感じています。

Words:Akira Sumiyama
Edit: Tomohisa Tanaka

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