ここ数年で登場した、オーディオテクニカの完全ワイヤレスイヤホンの多くが、スマートフォン専用アプリ「Connect」の利用を想定したものとなっている。 イヤホンアプリを一言で表すなら、イヤホンの動作状況や電池残量などをスマートフォン上で確認でき、管理・操作できるもの。 そんなアプリの開発秘話を紐解く連載の前話では、フラッグシップモデルの『ATH-TWX9』で登場した新機能を例に挙げながら、アプリがイヤホンの主役に至るまでの経緯を聞いた。
続く6回目は、ユニークな機能についてのお話。 今回もConnectのデザインや開発、実装をはじめリリースした後の状況解析などの仕事に携わる担当者の大島克征さんにインタビューしていく。 新しい仕事に挑戦する開発ストーリーは、いつだってビジネスマンの心に響くはずだ。
さらにConnectアプリは、この3月末に大型アップデートを行い、イヤホンがより楽しくなる進化を遂げている。 すでにオーディオテクニカのアプリ対応イヤホンをお持ちの方は、是非その使い勝手の良さを体験してみてほしい。
個人的にもよく使っていますが、プライベートタイマーは『ATH-SQ1TW2』から実装された機能ですよね。
その通りです。 企画や技術など、さまざまな担当が集まるブレストの場で、日頃のお悩みを解決できる機能があればうれしいよね、という意見のアイデアの中に「プライベートタイマー機能」がありました。 つまり、イヤホンだけで鳴るタイマー機能です。
例えば、電車でウトウトしてしまいそうだからアラームをかけておきたい、カフェで勉強したいから1時間後にアラームを鳴らしたいと。 でも、アラームをかけると、Bluetooth接続しているイヤホンじゃなく、スマホ本体から音が出てしまいます。 周りに迷惑をかけちゃうし、自分も驚いちゃいますよね。 でも、スマートフォンの設定ではどうにもならない。 そこで、イヤホンだけでアラーム音が出せないかということで、本機能の開発が始まりました。
イヤホンのみでアラーム音を鳴らすために、どのように開発を進めていったのですか?
最初は、アプリからイヤホンに音を送る方法を考えていました。 アプリ側で時間をカウントして、予定時間になったら音をイヤホン側に送るイメージです。 ただ、この方法だとアプリを立ち上げた状態にしておかないといけません。 アプリを落としてしまうと、アラームのカウントも終わってしまいます。
これではダメだ…ということで、イヤホン側で時間をカウントできるようにして、タイマーを設定した時間にイヤホンが鳴るように、ファームウエアの実装をしてもらうことにしました。
続いて、イヤホン側で数えているカウントをアプリでどのように見せていくかを考えなければなりません。 イヤホンと同期するための、ユーザーには見えない部分をアプリでどう処理していくかが難しかったですね。
この画面を見ると、2つのタイマーが同時に動いているようですが?
はい。 ユーザーの行動をイメージして、「何分後に起きる」とか、「何分後にお知らせしてほしい」という使い方ができるようにしています。 最大5時間までの設定ができますよ。
例えば、飛行機に約5時間乗るとします。 到着時刻のアラームと、1時間寝てから本を読もうというアラームが設定できるわけです。
いずれも、アプリでは稼働中のタイマーの残り時間の見せ方、イヤホン側のカウントを同期するための処理が最も苦労した点ではありましたね。 この機能は、初めてデザインの主担当を後輩に任せました。 チームでデザインする地盤づくりにも取り組んでいます。
デザインでの悩みは、残り時間をグラフィカルなプログレス表示にしたかったのですが、2つのタイマーがある都合上、場合によっては「残り2時間」よりも「残り5分」が長く見えてしまうということでしたね。 どちらのタイマーが先に終わるかわからなくなってしまう。 なので、時間の表示を棒にしたり円にしたりと試行錯誤を繰り返し、最終的にグラフィカルに表示するのは、単体の情報表示を行うときだけにしました。
タイマーだけでも色々な工夫があったのですね・・・。 話は変わりますが、世界初の軟骨伝導ヘッドホン『ATH-CC500BT』の通話テスト機能もユニークですよね。
「自分の声が相手にどのように聞こえているのか」をユーザーは事前に知りたいはず。 ということで、通話マイクへの音質を調整できるようになるなら通話テスト機能は必須になるだろうと考えていました。 『ATH-CC500BT』でこの機能を採用したきっかけは、通話中のノイズリダクションができることでしたね。
ただし、この効果の恩恵については、ヘッドホンを使っている自分自身は試すことができません。 そこで、HFP通信で話す時の声をアプリ内で録音して「AIノイズリダクション技術(AIVC)」のON時、OFF時の声を確かめられるようにしました。
ATH-CC500BT以降の製品でも、通話中に「ナチュラルモード」から「ノイズリダクションモード」など、自分から発話する際に音声を調整できるモデルについては、この機能を実装していますよ。
ほかにも、『ATH-CKS30TW』で実装した「日本語の音声ガイダンス切り替え」も日本人にはうれしい機能でしたね。
ATH-CKS30TWまでの完全ワイヤレスイヤホンは、英語の音声ガイダンスのみでした。 日本語での案内も欲しい、という話はかなり前から出ていましたが、案内の音声データはサイズも大きく、イヤホン内に何言語も保存するのはハードルがありました。
そこで、アプリの見え方としては「切り替え」になるのですが、サーバー上に音声データをアップロードして、ユーザーがダウンロードする方針で対応することにしました。 この方法であれば、あとから言語の追加などもサーバー経由で提供できるからです。
ガイダンスの音声は社内のスタジオエンジニアにも協力いただいて、オーディオテクニカのアストロスタジオで収録しました。 スタジオにある自社のマイクロホンを使い、音声だけでなく効果音まで監修していますよ。
なるほど。 それぞれのモデルで個性的な機能が盛り込まれたことがわかりました。 今後のバージョンアップも気になりますが、そのお話はまたの機会に。
イヤホンに欠かせないアプリという存在
iPhoneにヘッドホン端子が搭載されなくなってからしばらく経つが、逆に端子がなくなったことで、Bluetooth技術を活用したワイヤレスイヤホンは、アプリとともに毎年進化を続けている。 今ではイヤホンの性能=アプリの使い勝手に直結すると言ってもいいだろう。
気になった方は、今すぐアプリをダウンロード!と言えないのが、イヤホンアプリの特徴でもある。 まずは下記の専用アプリ「Connect」対応モデルを是非チェックしてほしい。
Words & Edit:Yagi The Senior