スマートフォンの充電や家電、オーディオ機器などを動かす際にコンセントに挿して使う「ACアダプター」。英語でadapterは「適合させるもの」を意味し、家庭に供給される交流電源(AC)を、機器を動かす直流電源(DC)に変換・供給する役割を担います。多くの小型家電を動かすのに欠かせないACアダプターですが、組み合わせる機器によってサイズや重さが異なります。なぜ、こんな違いがあるのか、オーディオライターの炭山アキラさんに聞いてみました。
安定した電源供給ができるものの、大きくなりがちな「リニア電源」
最近は、ACアダプターで動く電化製品が多くなりましたね。これは、家電本体は各国仕様にごく小規模な調整を加え、あとはACアダプターを国別の電圧のものへ置き換えれば、輸出へ対応しやすいから、というのが最も大きな理由と考えられます。
オーディオ製品も、ネットワーク・オーディオ機器などを中心に、ACアダプター駆動の製品が多くなっていますが、ものによっては手のひらに数個まとめて置くことができる小型のアダプターから、片手で持つには難しいくらいずっしり重く大きなものまで、一口にACアダプターといってもさまざまなものがあります。
例えば、消費電力の少ないネットワーク・トランスポート(デジタル出力しかないプレーヤー)よりも、消費電力の多いパワーアンプの方が大きなアダプターを必要とする、というのは当然のことですよね。しかし、同じ消費電力でも、随分大きさの違うACアダプターがあるのです。
商用電源のAC100Vから、オーディオやPCなどを駆動するための「DC(直流)電源」を作るには、まず電源トランスで必要な電圧へ変換し、プラス(+)とマイナス(ー)を往復するACをダイオードでプラス側のみの脈流に変換し、さらにそれをコンデンサーへ溜め込んで平滑なDCにして出力する、という手順を踏みます。さらに高度な電源部には、これに加えて出力電圧を安定化するための回路が加わります。この方式を「リニア電源」と呼びます。
比較的小さいが高周波のノイズが発生する「スイッチング電源」
一方、それに比べて随分軽いACアダプターには、「スイッチング電源」という方式が採用されています。リニア電源よりも小さく効率の良いDC生成方式を目指して、1960年代のアポロ計画で開発が推進された方式です。
リニア電源は、まずAC100Vをトランスで必要な電圧へ変更(ほとんどの場合低下)してから直流にしますが、スイッチング電源はAC100Vをそのまま直流にしてしまいます。直流ではトランスで電圧を変更することができませんから、そのDCからFETというトランジスターの一種を「スイッチング素子」として使って、極めて高い周波数の交流(といっても角が張ったパルス波形)を生成し、それをトランスで必要な電圧に整えます。
なぜ順番を逆転するのかというと、AC電源の50〜60Hzを降圧するトランスよりも、高周波を変換するものの方がずっと小型にできるからです。
また、スイッチング素子で生成されるのはなだらかな交流ではなく、プラスとマイナスの直流を輪切りにして交互に並べたようなパルス波形ですから、電圧を調整した後のダイオードとコンデンサーが、リニア電源よりずっと小さくても充填効率が高く、またリニア電源に必要な安定化回路も必要ないくらい、安定した出力が得られるのも特徴です。
これだけ利点の大きなスイッチング電源ですが、それでもオーディオ機器ではリニア電源を駆逐するに至っていません。なぜかというと、スイッチング電源にはオーディオ的にはある種致命的ともいえる欠陥があるからです。それはノイズです。スイッチング電源は、効率化を求めるための機構が高周波のノイズを発生させ、機器へ電源を送るラインに乗ってしまっており、さらに空中へも電磁波として輻射されてしまっているのです。
ですから、オーディオへスイッチング電源を使うには、電源ラインからの高周波の飛び込みをフィルターで抑え、本体から飛んでくる輻射を高効率に遮蔽するか、距離を離してやる必要があります。輻射が到達する量は、距離の2乗に反比例しますからね。
わが家でも、スイッチング電源のACアダプター経由で、小型オーディオ機器を数多く鳴らしています。しかし、その大部分には高周波対策のフィルターを装着し、それでグッと音の品位が高くなっています。
もちろんリニア電源の市販オーディオ用ACアダプターを使った方が、絶対的な音質は大幅に向上することは間違いありません。しかしわが家では、スイッチングACアダプターでもまぁそう悪くはない、というレベルに追い込むことができていると自負しています。
欠点さえ上手く養生することができたなら、スイッチング電源はとても優れた特性の電源です。上手く付き合っていきたいものですね。
Words:Akira Sumiyama
Edit: Kosuke Kusano