アナログ製品を選ぶ際、どのようなポイントをチェックしていますか?製品のカタログやウェブページには、必ず「スペック(テクニカルデータ)」が記載されていますが、並んだ項目や数値の意味がわからず、戸惑った経験がある方も多いのではないでしょうか。そこで、オーディオライターの炭山アキラさんが、意外と知らない「スペック」の読み方をカテゴリ別に詳しく解説していただきました。
今回は「マイク」編です。一口にマイクロホンといっても、音声を収録する発電方式や指向特性、用途、ケーブルをつなぐタイプかワイヤレスかなどで、多様、多彩な商品が展開されています。その中から、ここではできるだけ多くの製品に共通する、一般的な項目を見ていきます。
(目次)
型式
指向特性
周波数特性
感度
最大入力音圧レベル
ノイズ
ダイナミックレンジ
SN比
出力インピーダンス
出力コネクター
型式
マイクロホンの種類。代表的なものとしては大きく分けて、「コンデンサー型」と「ダイナミック型」があります。

コンデンサー型というのは、高分子の薄膜を音が振動させることで、薄膜に極めて近く配された電極の静電容量が上下することを読み取って、音声信号を作り出す方式です。電極には直流のバイアス電流をかけなければならず、そのために直流の「ファントム電源」(ファンタム電源とも表記されます)を流してやる必要があります。ファントム電源はメーカーや製品によって電圧が違いますが、概ね12~50V程度で現在は48Vが主流となっているようです。
バイアス電流の代わりに、振動膜へ電荷を持たせたものを「エレクトレットコンデンサー型」といい、電極の方に電荷を持たせたものを「バックエレクトレットコンデンサー型」といいます。振動膜にも電極にも電荷を持たない純コンデンサー型よりも、かける電流の量がずっと少なくて済み、ボタン電池を内蔵した小型マイク、あるいはポケットに入るレコーダーから2~5V程度のごく微小な直流を給電する、プラグインパワー方式などへ展開させやすいのが特徴です。
昔は純コンデンサー型が高級機、エレクトレット・タイプは普及機、あるいは小型機という棲み分けが何となくできていたような印象がありましたが、近年はエレクトレット系にも高級な製品が数多く存在し、垣根はほとんどなくなったといってよいのではないかと思います。

ダイナミック型は、レコードプレーヤーのカートリッジでごく一般的に用いられている発電方式と同じ、「フレミングの右手の法則」を使って音声信号を作り出しています。つまり、振動板にコイルが取り付けられていて、磁石が引き起こす磁界の中で振動することにより、信号が発電されるというものです。
この方式はファントム電源が必要なく、マイクアンプが簡単に済むのが良いところです。また、強烈に大きな音が飛び込んできても破損しにくいので、ドラムスのバスドラムを収録するために使われたりすることもあります。
ダイナミック型は振動板にコイルを巻くと先程解説しましたが、振動板そのものを導電性の膜にして磁界の中で振るわせることで信号を発電する「リボン型」という方式もあります。ダイナミック型を高度に発展させた方式といってよいでしょう。
ほか、今はほとんど使われなくなってしまった方式に「カーボン型」と「圧電型」があります。カーボン型は最も原初的なマイクロホンで、効率の良さから長く電話に用いられましたが、周波数特性が狭くノイズも多いことから廃れました。圧電型は振動を電気へ効率良く変換する、圧電素子というものを用いて音声信号を発電する方式ですが、こちらも周波数特性が狭く、現在ではアコースティックギターなどの楽器に取り付けて電気信号を得る、ピックアップへ僅かに使われていることが確認できるくらいです。
指向特性
どの角度の音をはっきりと捉えられるのか、どの向きの感度が良いかということを表すのが「指向性」です。ユニットの特性、置きかた、音の進入経路などさまざまな要素から決定され、用途や使いかたに大きく関わってきます。

ごく一般的に用いられるマイクロホンには、マイクから見て前半分のみの音を収録する「単一指向性」と、全周囲の音を捉える「無指向性」のものがあります。スイッチで切り替えられるようになった製品もありますね。単一指向性はバックグラウンドのノイズを排除しながら収録対象の音を録る時に、無指向性は例えばコンサートホール全体の響きまで含めて押さえたい時に使われることが多いマイクです。
単一指向性よりも横への広がりを若干抑え、その代わりに少しだけ後方に指向性が広がって、指向性を示すグラフがハートの形に近いものを「カーディオイド」指向性といいます。cardioid=心臓型のという意味ですから、見た目通りのネーミングですね。これはターゲットに隣接した音を拾いにくくしたい時に使われるものです。
さらに指向性を絞り、前方のみを中心として捉える「超指向性」マイクロホンもあります。私の友人の録音エンジニアは、賑やかなお祭りの会場で演奏される音楽を収録する時などに、このマイクを使っています。マイクロホンの前方と後方のそれぞれに、均等で緩やかな8の字型の指向性を持つマイクも存在します。「双指向性」と呼ばれます。リボン型のマイクの多くがその特性を持ちます。
周波数特性
「周波数」とは1秒間に繰り返す音の波の回数を指し、単位はHz(ヘルツ)で表します。そして「周波数特性」とは、マイクが拾うことができる周波数の範囲と、その範囲内での感度や出力レベルの変動を示した数値です。周波数特性を知ることで、そのマイクがどんな場面に向いているかがわかります。

多くのエレクトレット系を含むコンデンサー型マイクロホンが20Hz~20kHzと表示されています。人間の耳に聴こえる音の範囲がちょうど20Hz~20kHzなので、それに合わせて開発されているとも考えられます。しかし、カタログに掲載されている周波数特性のグラフを見ると、多くは20Hz~20kHzの枠ですが、そこをはみ出して特性が続いているように見える製品が多いものです。20Hz~20kHzは「最低保証特性」と見てよいでしょう。
一方ダイナミック型は、もう少し範囲の狭い特性のものが多いようです。それでボーカルやドラムなど、特定の対象を収録するためによく用いられるようですね。リボン型も可聴範囲をフルカバーする製品は少ないものの、それでもダイナミック型よりワイドレンジな傾向ではあります。
感度
同じ音量がマイクに入った時に、どれくらい大きな音量の電気信号を発するかを表す数値です。

「感度(0dB=1V/1Pa 1kHz)」など、項目の横の()内に書かれている数値は測定条件を表します。難しそうな数字と記号が並んでいますが、あれは1kHzの音波を1Paの大きさで鳴らした時、マイクから発生する音声信号が基準レベルの1Vよりどれくらい小さな音になるか、ということです。Paは「パスカル」という気圧を表す単位で、天気予報の時に使われる「ヘクトパスカル」は、100Paに当たります。以上、まぁそんなもんか、と思っていて不都合ありません。
基準レベルが0dBですから、ここの数字はマイナスになります。バックエレクトレット・コンデンサー型のAT2020は-37dB、ダイナミック型のAT2040は-53dBとなっていますから、この2本は16dB=7倍ほどの違いがあります。この両マイクロホンは、実際の出力電圧も併記されているから比べてみると、14.1mVと2.2mVですから、ほぼ計算と一致していますね。
最大入力音圧レベル
それぞれのマイクロホンに入力できる最も大きな音を、数字で表したものです。

多くのオーディオテクニカ製マイクロホンでは、最大入力音圧レベルの測定条件に(1kHz THD1%)とあります。THDというのはTotal Harmonic Distortionの略で、「全高調波歪率」と訳します。例えば、1kHzの音声信号をマイクが拾うと、ごく小さなレベルではありますが2kHz、3kHzと元の周波数から整数倍の周波数の信号、高調波歪みが現れることがあります。これらをすべて足し合わせ、元の信号との比率を測った値が全高調波歪率です。
収録する音量が大きくなると高調波歪みは増えていきますから、この測定条件では1kHzの信号を収録する時に、全高調波歪率が1%へ達した時点の音の大きさをdBで表示している、ということになりますね。
単位dBの後ろについているSPLはSound Pressure Levelの略で、和訳すると「音圧レベル」となります。電気信号ではなく、音の大きさを表していることを示す表示です。
ノイズ
音が一切入っていない状態でマイクロホンから出力される信号の一種。

近年のマイクは相当の廉価品でも、それが気になるようなことはなくなっています。ご自分で音楽や会話を収録された際、ノイズが気になられたとしたら、むしろマイクアンプやミキサーの残留ノイズが乗っている可能性をまず疑うべきでしょう。
マイクそのものからもノイズを発することはありますが、そういう時は本体やマイクケーブルの接点が汚れていることが多いものです。接点復活剤で磨いてあげましょう。
測定条件の中にある「A特性」というのは、人間の耳の感度とよく似た曲線を持つ特性で、一番敏感な1~2kHzあたりを山頂として、両端がなだらかに下落する特性をいいます。
ダイナミックレンジ
マイクが収録できる一番大きな音と一番小さな音の比を、dBで表示したものです。測定条件を揃えていれば、最大入力音圧レベルからノイズを差し引いた値に等しくなるのが普通です。

測定条件の(1kHz at Max SPL)は、1kHzの音声信号を最大入力音圧レベルで入れた時、という意味です。
耳に聴こえる最も小さな音、例えば1m先で縫い針が地面に落ちたくらいの音を0dBとして、耳が壊れない範囲で最も大きな音は120dB程度といいますから、ダイナミックレンジがこの値を超えているマイクは優秀といってよいでしょう。
SN比
「S/N比」や「S/N」などとも表記されます。「Signal to Noise ratio」の略で、再生できる最も大きな音とノイズの大きさを比較した数値です。数値が大きいほど良いとされます。

ダイナミックレンジとよく似ていますが、この場合は測定条件に記されている通り、1kHzで1Paの基準音圧をマイクが収録した時の音声信号とノイズの比を表しています。
出力インピーダンス
マイクロホンから出力される音声信号の交流抵抗を示す値のこと。

かつてはマイクの出力インピーダンスとマイクアンプの負荷インピーダンスを整合させるのが良い、とされたことがありましたが、現在はアンプの負荷インピーダンスよりマイクの出力インピーダンスが低ければ問題なしとされています。
しかし、カートリッジとフォノイコライザーの項で解説したのと同様に、マイクの出力インピーダンスとマイクアンプの負荷インピーダンスの値を調整することによって、トータルの音質をコントロールすることができるという考えのもと、負荷インピーダンス切り替え機能を備えたマイクアンプも存在します。
出力コネクター
マイクからの音声信号を外部の機器(オーディオインターフェース、ミキサー、レコーダーなど)に送るための接続端子のこと。マイクの種類によって、さまざまな出力コネクターが使用されます。

大半のマイクはケーブルが着脱可能で、その端子はオーディオでもバランス接続に用いるXLRタイプが、ほぼ完全なデファクトスタンダードとなっています。
マイクケーブルとマイクアンプやミキサーをつなぐ端子も同じXLRがほとんどですが、一部の可搬型や廉価な機器の中には、直径6.3mmで3端子のTRS端子が用いられることもあります。ヘッドホンで「ステレオ標準端子」と呼ばれるものと同じ端子ですが、TRSはそれを1本当たりモノラルで使い、バランス伝送が可能となっています。
Words:Akira Sumiyama