『Always Listening』がセレクトするおすすめ音楽映画コーナー。今回は「この秋に観たい音楽映画おすすめ5選」!

この秋、音楽が気になる新作映画が次々と公開される。ジャズやロックのレジェンドの波乱に満ちたドキュメンタリーや、ソウル・ミュージックの名門レーベルの秘密。そして、音楽が重要な役割を果たすドラマ等、映画を「観る」だけではなく、「聴く」楽しみも感じさせてくれる作品を5本セレクト。映画館で映画と音楽の両方を楽しもう。

1.『マイルス・デイヴィス クールの誕生』

「ジャズの帝王」とも呼ばれたトランペット奏者、マイルス・デイヴィスの波乱に満ちた人生を、2時間に凝縮したドキュメンタリー。歯医者の息子として裕福な家庭で生まれ育ったマイルスは、子どもの頃に父親からトランペットをプレゼントされて音楽に興味を持つようになる。ディジー・ガレスピーやチャーリー・パーカーといった伝説的なジャズ・ミュージシャンとの出会い。白人の作曲家、ギル・エヴァンスとの肌の色を越えた友情から作り上げた美しいジャズ・オーケストラ。ロックやファンクから影響を受けた過激なエレクトリック・ジャズ等、天才的な閃きでジャズ・シーンに新しい風を吹き込んだマイルスの姿が紹介されていくが、音楽とともに変化していくファッションも見どころだ。

そして、クインシー・ジョーンズ、ハービー・ハンコック、ウェイン・ショーター等ジャズ界の大物がコメンテイターとして続々と登場するなか、シャンソン歌手のジュリエット・グレコやダンサーのフランシス・テイラー等、マイルスと恋に落ちた女性たちが語る素顔のマイルスも興味深い。ロマンティックで繊細な一面で人々を惹きつけたかと思うと、乱暴でわがままなダークサイドが顔を出す。そんなマイルスの複雑なキャラクターが、そのまま音楽に反映されていたことが映画から伝わってくる。その濃密な人生に圧倒されるドキュメンタリーだ。

『マイルス・デイヴィス クールの誕生』

(原題:『Miles Davis: Birth Of The Cool』)

監督:スタンリー・ネルソン
出演:マイルス・デイヴィス、クインシー・ジョーンズ、ハービー・ハンコック、ウェイン・ショーター、ロン・カーター、カルロス・サンタナ、ジュリエット・グレコ etc.
日本語字幕:落合寿和
2019年/米/115分
配給:EASTWORLD ENTERTAINMENT/協力:トリプルアップ
2020年9月4日(金)より全国順次ロードショー
© 2020 UNIVERSAL MUSIC LLC ALL RIGHTS RESERVED.
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2.『mid90s ミッドナインティーズ』

グレタ・ガーウィグ(『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』)の監督デビュー作『レディ・バード』や『ミッドサマー』『WAVES/ウェイヴス』等、話題作を次々と生み出してきたA24から甘酸っぱい青春映画が登場。本作で監督に初挑戦したのは人気俳優のジョナ・ヒルで、脚本も担当するほど力が入っている。それもそのはず、本作はジョナ・ヒルの10代の頃の想い出をモチーフに、彼が思春期を送った90年代半ばのLAを舞台にした物語で、主人公は13歳の少年、スティーヴィー。体を鍛え上げている兄に頭が上がらないスティーヴィーは、いつも街角で楽しげにスケートボードで滑っているグループに憧れていた。そんなある日、彼らがたむろしているスケボー・ショップに勇気を出して入ったスティーヴィーは、そこでかけがえのない友達と出会うことに。

あえて16ミリ・フィルムを使った、キメの粗い映像で映し出される不器用でピュアな仲間たちとの友情。そこで90年代の空気を感じさせてくれるのが、ファーサイド、シール、ニルヴァーナ等、ジャンルを超えた音楽だ。なかでも、傷心のスティーヴィーが夕暮れ時の車道をスケボーで滑るシーンで流れる、モリッシー“We’ll let you know”が胸に沁みる。キッズ版『レディ・バード』ともいえる青春映画の新たな傑作だ。

予告編

『mid90s ミッドナインティーズ』

(原題:『mid 90s』)

監督・脚本:ジョナ・ヒル
出演:サニー・スリッチ、キャサリン・ウォーターストン、ルーカス・ヘッジズ、ナケル・スミス
製作総指揮:スコット・ロバートソン、アレックスG・スコット
製作:イーライ・ブッシュ
音楽:トレント・レズナー、アッティカス・ロス
日本語字幕:岩辺いずみ
提供:トランスフォーマー、Filmarks/配給:トランスフォーマー
2018年/アメリカ/英語/85分/スタンダード/カラー/5.1ch/PG12
9/4(金)新宿ピカデリー、渋谷ホワイトシネクイント、グランドシネマサンシャインほか全国ロードショー中
© 2018 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.
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3.『メイキング・オブ・モータウン』

マイケル・ジャクソン、スティーヴィー・ワンダー、マーヴィン・ゲイ、ダイアナ・ロス……。ソウル・ミュージックのスターを次々と生み出したレーベル、モータウンは、なぜ人種差別が根強いアメリカで輝かしい成功を収めることができたのか。レーベル創設者のベリー・ゴーディが初めて密着取材を許可した本作は、本人が出演してモータウンの歴史を紐解いていく。
家族から800ドルを借りてレーベルを立ち上げたベリーは、以前働いていた自動車工場の分業制にヒントを得て、ソングライター、ダンス、マナー等、エキスパートを集めた専門部署を作り、それらを連動させ完璧なスターを生み出すことに成功。さらに黒人と白人のスタッフを平等に扱い、女性も重役に据えた開放的な社風がレーベルに活気を与えた。そんななか、人種差別問題に揺れた60年代後半には、社会的なメッセージを歌おうとするミュージシャンとポップ・ソングにこだわるベリーが衝突。そんな黒人音楽ならではの葛藤は、今注目を集めているBLM問題に重なるところも。貴重な映像もふんだんに使われていて、ジャクソン・ファイヴのオーディション映像を見れば、マイケル・ジャクソンの天才ぶりがよくわかる。モータウンとシュープリームスをモデルにした映画『ドリームガールズ』(2007年)と併せてみると面白さは倍増。

『メイキング・オブ・モータウン』

(原題: 『Hitsville: The Making of Motown』)

監督:ベンジャミン・ターナー、ゲイブ・ターナー
出演:ベリー・ゴーディ、スモーキー・ロビンソン
日本語字幕:石田泰子/監修:林剛
配給:ショウゲート
2019/カラー/5.1ch/アメリカ、イギリス/ビスタ/112分
©2019 Motown Film Limited. All Rights Reserved.
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4.『エマ 愛の罠』

南米チリからセンセーショナルなヒロインが登場。金髪の若いダンサー、エマは、彼女が所属しているダンス・カンパニーの振付師、ガストンと結婚していた。子どもに恵まれなかった二人は移民の少年を養子をもらうものの、ある事件がきっかけで児童福祉局に少年を返すことになってしまう。そのせいで、エマとガストンは離婚の危機に。しかも周りから、エマが少年を見捨てた、と噂されてエマは孤立してしまう。しかし、彼女は落ち込んだりはしない。それどころか、女性弁護士のラケルや彼女の夫で消防士のアニバルを次々と誘惑し始める。そこには彼女の大胆な計画が隠されていた。

妖しい魅力で男性も女性も虜にする謎めいたヒロインを演じるのは、本作が映画初主演となったマリアーナ・ディ・ジローラ。欲望の赴くままに生きようとするエマの情熱的なエネルギーを象徴するのが、彼女が愛用する火炎放射器(!)と、仲間たちと一緒に踊るレゲトンの激しいダンスだ。そのワイルドで官能的な音楽とダンスが、保守的な男性社会を挑発する。サントラをエレクトロニック・ミュージック界の異端児、ニコラ・ジャーが担当する等、チリ映画の鬼才、パブロ・ラライン監督のアーティスティックな感性が光る問題作。

『エマ、愛の罠』

(原題:『EMA』)

監督:パブロ・ラライン
出演:マリアーナ・ディ・ジローラモ、ガエル・ガルシア・ベルナル、パオラ・ジャンニーニ、サンティアゴ・カブレラ、クリスティアン・スアレス
日本語字幕:柏野文映
提供:シンカ/ハピネット配給:シンカ
2019年/チリ/スペイン語/107分/カラー/シネスコ/5.1ch
10/2(金) 新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町、kino cinéma立川髙島屋S.C.館ほか全国公開
©Fabula, Santiago de Chile, 2019
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5.『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』

ボブ・ディランをはじめ様々なアーティストに影響を与え、今なお熱狂的なファンを持つカナダの伝説的なロック・バンド、ザ・バンド。その中心メンバー、ロビー・ロバートソンが、ザ・バンドの誕生から解散までを振り返る。人気ロカビリー・シンガー、ロニー・ホーキンスのバックバンド、ホークスのメンバーだった5人の若者たち。彼らは自分たちの音楽をやろうと独立。売れない日々が続くなか、ボブ・ディランと出会ったことが運命を変えた。ボブ・ディランと一緒にツアーを回るようになった彼らは「ザ・バンド」と名乗り、自然に囲まれたウッドストックに移り住むと、ビッグ・ピンクと呼ばれる一軒家で共同生活を送りながら曲作りとジャム・セッションに没頭する。

やがて、ブルースやカントリールーツ・ミュージックを吸収した彼らのサウンドは高く評価されるようになる。音楽を通じて兄弟のような絆を深めていった5人。しかし、結婚して子どもが生まれたロビーと、自由気ままな生活を追い続ける他のメンバーとの間に次第に溝が生まれてしまう。そして、ロック史に残る伝説的なコンサート<ラスト・ワルツ>を開いて解散。ザ・バンドの成功と挫折の軌跡はホロ苦い青春映画のようだ。エリック・クラプトン、ブルース・スプリングスティーン、ジョージ・ハリスン等、ザ・バンドを愛するミュージシャンの証言、そして、当時の写真や音源もふんだんに盛り込んだ本作は、ロック・ファンは見逃せないドキュメンタリーだ。

『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』

(原題『ONCE WERE BROTHERS:ROBBIE ROBERTSON AND THE BAND』)

監督:ダニエル・ロアー
製作総指揮:マーティン・スコセッシ、ロン・ハワード
出演:ザ・バンド(ロビー・ロバートソン、リック・ダンコ、リヴォン・ヘルム、ガース・ハドソン、リチャード・マニュエル)、マーティン・スコセッシ、ボブ・ディラン、ブルース・スプリングスティーン、エリック・クラプトン、ピーター・ガブリエル、ジョージ・ハリスン、ロニー・ホーキンス、ヴァン・モリソン、タジ・マハール
後援:カナダ大使館/字幕翻訳:菊地浩司/字幕監修:萩原健太
配給:彩プロ
2019年/カナダ、アメリカ/英語/カラー・モノクロ/アメリカンビスタ/5.1ch/101分
10月23日(金)より角川シネマ有楽町、渋谷WHITE CINE QUINTOほか全国順次公開
©Robbie Documentary Productions Inc. 2019
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Words:村尾泰郎

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