EDM、電子音楽、実験音楽は、ギターやドラムといった生楽器での演奏ではなく、主にシンセサイザーやコンピューターなどの電子楽器(あるいはそれ以外の表現方法)を用いて制作される音楽のジャンルです。それぞれどのような音楽を指す言葉なのか、音楽家、録音エンジニア、オーディオ評論家の生形三郎さんに解説していただきました。

踊らせるための電子音楽、EDM

EDMは、Electronic Dance Musicの略で、その名の通り、「リスナーを踊らせるための電子音楽」を指します。もともとは、クラブやレイヴなど多数の聴衆が集まるイベントでDJがプレイするために制作されました。

よって、大きなスピーカーシステムを使った広いフロアスペースで映えるような、重低音を伴うキックドラムやエレクトリックベースによるパーカッシブなリズムを主体とし、シンセサイザーや波形編集を施した派手やかなサウンドを持つ音楽が、一般的にEDMとしてイメージされるでしょう。


しかし、EDM自体は曖昧で広義な括りで、その中にハウスやテクノ、トランス、ダブステップ、といったサブジャンルを数多く含んだ音楽ジャンルの総称となっています。

歴史的に見ると、1970年代のディスコミュージックに端を発し、1980年代後半から1990年代前半にかけて高まったクラブ・カルチャーやレイヴ・カルチャーへの関心に伴ってヨーロッパで人気を博したあと、2000年以降に世界的にも広まっていきました。

特に2010年前後に、ポップスやロックバンド、アイドルグループなどにもEDMを取り入れた楽曲が多数登場し始め、その頃から一般的な認知度も飛躍的に高まり、マーケット的にも極めて大きな存在になったと言えるでしょう。

それもあって、EDMは新しい音楽ジャンルとして認知されることも多いですが、実は、既に40年ほどの歴史を持ったジャンルなのです。

生楽器を使わない音の探求、電子音楽(エレクトロニック・ミュージック)

電子音楽も先に解説したEDMと同じく曖昧な音楽ジャンルの括りと言えます。広い意味では、なんらかの電子楽器を用いた音楽全般を指します。


狭義な意味では、1950年代にドイツのアイメルト(Herbert Eimert)やシュトックハウゼン(Karlheinz Stockhausen)ら作曲家が、シンセサイザーの始祖ともいえる電子発振器を使って作った音楽を起源とします。

これは、従来のアコースティックな音楽作曲とは一線を画す、新たな音楽の作曲を試みたもので、1940年代に始まった、録音した音素材のみで新たな音楽の作曲を試みるミュージック・コンクレート、即ち「具体音楽」と区別するために「電子音楽」と呼ばれました。

その後、時代とともにシンセサイザーなどの電子楽器が広く普及し一般化し、上記のような音楽だけでなく、あらゆる音楽ジャンルに用いられるようになり、EDMのようなダンス・ミュージックや、電子音だけで構成されるゲーム音楽などを含めた、何らかの電子楽器を用いた音楽全般を指すようになります。

よって、「電子音楽」といっても大変に広範なため、通常は、特定のアーティストの名前やサブジャンルを添えたうえで使用する必要があるワードと言えるでしょう。

偶然と不確定の作品、実験音楽(エクスペリメンタル・ミュージック)

実験音楽もまた、曖昧性の高い音楽ジャンルです。一般的には、音楽表現領域の拡張を試みる、何らかの実験的な要素を含んだ音楽全般を広義に指して呼びます。しかしながら、やはり電子音楽と同じく、起源となる狭義の意味が存在します。

それは、1950年代に実践された、偶然性や不確定性を取り入れた音楽表現です。有名な作品としては、ジョン・ケージ(John Cage)の「4分33秒」が挙げられます。

この作品は演奏家による楽曲の演奏ではなく、演奏場所で生じている “音そのもの” を音楽とする偶然で不確定なものです。ケージ自身は自らの音楽を実験音楽と呼んでおり、ケージ周辺や同じ流れを汲む現代音楽全般を指して実験音楽と呼ばれます。

なお、これまでの西洋音楽の概念そのものから完全に脱却しようとしていたケージらのようなアメリカ系の実験音楽に対し、シュトックハウゼンなどを含むヨーロッパのセリエリズム*の作曲家たちは、自らの作品にも同じく偶然性や不確定性を用いつつも、ケージらの実験音楽とは区別する意味も含め、自分たちの音楽を「前衛音楽」と呼びました。

よって、広義の意味の実験音楽という際も、どちらかというと現代音楽に流れるヨーロッパの伝統をバックボーンに置いたりそれを重んじるものというより、そことは全く異なる文脈を目指すものが多いように私は思います。

*セリエリズム:20世紀の音楽様式の一つで、音高、リズム、ダイナミクスなどの音楽要素を序列化して組み立てる作曲技法。

Words:Saburo Ubukata

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