これまで長きに渡り愛されてきたオーディオテクニカのVMカートリッジ『ATN3600L』が、2024年の晩夏のころ、約半世紀ぶりにブラッシュアップされた。そこで、ATN3600LC及びその上位モデルにあたる『ATN3600LE』を加え、その使用感とそれぞれのキャラクターを確認すべく、針Jしていく。

今回ゲストにお迎えするのは、シンガーソングライター/DJのheimrecord(ヘイムラコルト)さん。彼女が普段から大切にしているアナログレコードを持ち込ませていただいたのは、渋谷PARCOの地下1階フロアにあるミュージックカフェ&バー、QUATTRO LABO。ビンテージ機材に囲まれたHi-Fiオーディオ空間で、彼女が引き込まれたアナログの世界の魅力について窺いながら、それぞれの思い出とともにお気に入りの曲へと針を落としてもらった。

針Jで聴き比べる、思い入れのあるアナログレコード。


今回使用するのは、マグネットとコイルで発電する電磁型カートリッジのなかでも最もベーシックかつポピュラーなMM/VMカートリッジ『ATN3600L』をアップデートしたモデル。その使いやすさや品質、音質はそのままに、約半世紀ぶりにブラッシュアップされたというオーディオテクニカ専用交換針ATN3600LCATN3600LEを使用しながら、お気に入りの楽曲を針Jしながら聴き比べていきましょう。

前者は、多少傾いても針先がレコード盤の溝に正しく接触してくれる接合丸針が特長で、安定したトレーシングが魅力のカートリッジ。長らく他社にも供給されてきたモデルであり、1993年からはオーディオテクニカ製品の『AT-PL30』でも採用されています。今回一緒に使用するレコードプレーヤーの『AT-LP60XBT』をはじめ、『AT-SB727』『AT-SB2022』など、サウンドバーガーにも標準装備されている白い顔をしたエントリーモデルですね。
対照的に真っ黒な顔をしたATN3600LEは、正確な情報を引き出す接合楕円針をマウントし、どちらも時代に応じた外観へとアップデートされています。


今回の取材に快くご協力いただいたQUATTRO LABOさんには、吉祥寺時代のビンテージサウンドシステムと3,000枚超のアナログレコードが移設されており、メンテナンスが施されたMcIntoshのパワーアンプのMC275Ⅵや、コントロールアンプのMcIntosh C22は今も健在。メインスピーカーには、福生市在住のHaruo Nomura氏によるハンドメイドのウッドスピーカー(家に置いておくよりも多くの人の目に触れてもらいたいと譲り受けたもの)を、サブにはTANNOY Autograph Miniと、こちらにはMcIntoshのMA5200がプリメインアンプとしてスタンバイされています。


まずは普段の活動についてお聞きしたいのですが、その前に、heimrecordって特徴的な名前ですよね? どのような意味があるのでしょうか。

元々は俳優を目指していたのですが、heimrecord(ヘイムラコルト)というのは音楽を志すようになってから考えた名前で、ドイツ語とスペイン語をかけ合わせた造語なんです。 “ふるさとの思い出” という意味なのですが、誰とも被らない言葉を探していたのと、自分自身、レコードやフィルムカメラなどのアナログなモノが好きだったこともあり、どこかにレコードという言葉を入れてみたくて。時々、レコードショップと間違えられてしまうこともありますけど(笑)。

小説を読んだり、映画を観たあとの行き場のない感情の終着点を探して作詞作曲したりしているのですが、ノスタルジックな雰囲気を大切にしながら、ライブやデジタル音源の配信をしています。活動を通して出会った方々とのコミュニケーションがまた新たな音楽を引き寄せてくれるので、そんな循環が日々の活動のエネルギー源になっています。

自身の嗅覚で、未だ見ぬ音楽と出会う場所。


普段、音楽はどのように掘り下げていらっしゃいますか?

90年代以前の音楽はアナログレコードで、90年代以降の音楽はサブスクで聴くようにしています。ブルースやカントリーが好きなのですが、まだ知らない曲をレコードショップに探しに行くことが多いです。テクノ、アンビエント、ジャズ、ロック、パンク、ソウル、R&B、とにかくジャンルレスに聴いていますね。

サブスクの場合は、インスタグラムのフォロワーさんなど、音楽に詳しいファンの皆さんから最近の曲を教えてもらったりしています。そうやってお気に入りの曲が見つかれば、アナログレコードを探して聴いてみたりするんですけど、そのときはより感動が大きかったりしますよね。

ありがとうございます。アナログレコードとの縁がわかったところで話が戻りますが、ATN3600LCとATN3600LEを使用しながら、お持ちいただいたアナログレコードを聴き比べていきましょう。

ATN3600シリーズで愉しむ、趣向を凝らすための余白。


今回の針J企画へ向けて、耳馴染みのあるアナログレコードを数枚お持ちいただいたかと思いますが、どのようなセレクションになりましたか?


今日は家から普段聴いているお気に入りを数枚選んできたのですが、針を交換するときに必ずかけるアナログレコードがあるので、まずはいつものようにサウンドチェックしながら、カートリッジのキャラクターを見定めていきたいと思います。

〜「ATN3600LC」で視聴 Steve Hiett 『DOWN ON THE ROAD BY THE BEACH』 収録曲 「Sleep Walk」〜

〜「ATN3600LC」で視聴 Steve Hiett 『DOWN ON THE ROAD BY THE BEACH』 収録曲 「Sleep Walk」〜

スティーヴ・ハイエット(Steve Hiett)は1年ほど前に知ったアーティストなのですが、『Vogue Italia』でファッションフォトグラファーとして活躍していた経歴もあって、まず、このジャケットからしてすごくオシャレだなと手にとったアナログレコードでした。

このレコードは彼がつくった唯一のソロ・アルバムで、1983年に日本盤のみ製造されているからか、いくつかの曲を除いて、そのほとんどが日本で収録されていますね。特に日本ではカルト的な人気を誇るAORの名盤。

音質がいい盤なので、いつもこのレコードを聴きながらサウンドチェックしているんです。ジャケットは夏っぽいのですが、シーンを選ぶことなく聴けるサウンドが気に入っています。私自身、ギターの音色が好きなこともあり、トレモロやリバーブをたっぷりと効かせたメロウなサウンドにはすごく癒されています。特に、ニューヨークのインストゥルメンタルロックデュオ、サント&ジョニー(Santo & Johnny)の名曲をカバーした「Sleep Walk」はお気に入りで、寝る前に聴くとぐっすり眠れます(笑)。

AT-LP60XBTはベルトドライブ式を採用しているので、より滑らかでピュアな音楽再生を実現してくれますし、こういったメロウな音楽の再生にも向いているかもしれません。フルオート再生機能がついていて自動でアームが戻ってくれるので、うっかり寝てしまっても安心ですね。

フルオート再生機能がついているのは嬉しいです! 女性でも簡単に持ち上げられる軽さですし、扱いやすいところもポイントが高いです。スタイリッシュなデザインが空間を選ばず、どんな場所にも映えそうですね。

それでは、アナログレコードに針を落としていきましょうか。


音の奥行きがすごいですね! QUATTRO LABOのサウンドシステムも相まってか、家で聴くよりも音に立体感があって、想像以上に驚いてしまいました。ATN3600LCはこういったメロウな音楽やアンビエントにはピッタリのカートリッジかもしれませんね。

早速ですが、ATN3600LCの上位モデルにあたるATN3600LEに針を交換して聴き比べていきましょう。





針交換はいつも少し緊張してしまうのですが、ワンタッチでつけ外しができてすごく簡単でした。

ATN3600LEはどんな音が鳴ってくれるでしょうか。

〜「ATN3600LE」で視聴 Steve Hiett 『DOWN ON THE ROAD BY THE BEACH』 収録曲 「Sleep Walk」〜

〜「ATN3600LE」で視聴 Steve Hiett 『DOWN ON THE ROAD BY THE BEACH』 収録曲 「Sleep Walk」〜

すごい! 一気にパワーアップしましたね。想像以上に音が良くてびっくりしました。これまで1万円前後の針をいくつも使ってきましたが、もうこれでいいかもしれないです。ATN3600LEのほうが低音がよく出ている印象があるので、迫力のある楽曲に向いている気がします。これはもう、ライ・クーダー(Ry Cooder)をかけてみないとですね。

「ジャケ買い」のすゝめ。

〜「ATN3600LE」で視聴 Ry Cooder『PARADISE AND LUNCH』 収録曲 「Medley: Fool for a Cigarette」〜

〜「ATN3600LE」で視聴 Ry Cooder『PARADISE AND LUNCH』 収録曲 「Medley: Fool for a Cigarette」〜

渋い! どうやってライ・クーダーに行き着いたんですか?

完全にジャケ買いでした。ジャケ買いはいまでも時々しているのですが、最初このレコードを目にしたときに、この黄色いジャケットのデザインがあまりカッコよくないな、と逆に気になってしまって(笑)。それで、A1から聴いてみたのですが、すごく衝撃的な体験でした。おじさんの渋い声とリズミカルなギターがオシャレだなと感じて、そこからライ・クーダーのアルバムを掘ったり、プロデュースしている作品をチェックしていきました。このレコードに収録されている曲はどの曲も大好きで、私のベストのアルバムなんです。なので、今日はこのレコードに合わせた色のセーターを着てきました。

ライ・クーダーとのトータルコーディネートだったんですね(笑)。


針がしっかり音に乗ってくれているのがわかりますね。低音が出ているので、やっぱりこういう曲が映えますし、いつも以上にカッコよく聴こえています。

ヴィム・ヴェンダース(Wim Wenders)の『パリ、テキサス』を観て彼を知ったという方も多いと思いますが、きっかけと掘り具合がアツいですね。いま思い出したのですが、80年代に彼自身も出演していた日本のウイスキーのCMがあって、そのギターがまた渋くてカッコいいんですよ。ところで、よくジャケ買いはされるんですか?

そうなんです。いつも1,000円と決めて、500円なら2枚、100円なら10枚という感じで意識的にジャケ買いするようにしているんです。

それは、どうしてですか?

失敗することもよくあるのですが、それもまたいいというか。サブスクで聴くときは、お気に入りの曲だけをずっと聴くことができますが、フィジカルで買ったほうが知らない曲も集中して聴いていられるというか。失敗した悔しさも相まってですが(笑)、そのうち、その曲の良さに気づいたりして新しい音楽と出会いやすくなるんですよね。なので、あえて失敗を迎え入れることも大切なのかも、と積極的にジャケ買いするようになりました。


あと、レコード店に行くと大好きなライ・クーダーのレコードが結構安く買えたりする点も特別感があって嬉しくなるというか。流行りモノとなると、どうしても定価にはなりますけど、アナログレコードって自分が見つけた喜びとか、出会うまでの体験が金額でよりわかりやすく感じられるんです。追いかけていたアーティストが売れてしまって、逆に冷めてしまうようなことってあると思うんですけど、その逆の感覚に近いというか。大好きなアーティストなのに1,000円でレコードが手に入るなんて、そんなにハッピーなことないじゃないですか(笑)。まだ全てのアルバムをコンプリートできてはいないんですけど、楽しみはとっておきながら、ゆっくり時間をかけて聴いていきたいと思っているんです。

確かに、”MIDPRICE”のステッカーが貼ってありますね(笑)。この時代の音楽には、いまはもうすっかりなくなってしまった要素がたくさん詰まっている気がします。では、次は先ほど聴いていただいたATN3600LCでかけたいレコードを聴いていきましょう。

余暇を生み出す、アナログレコード。

同じギターミュージックではあるのですが、こちらはマイルドで柔らかなイメージ。ビッグシーフ(Big Thief)のリードボーカル兼ギタリストのエイドリアン・レンカー(Adrianne Lenker)が奏でる優しいギターの音色を聴いてみたいと思います。

〜「ATN3600LC」で視聴 Adrianne Lenker 『SONGS AND INSTRUMENTALS』 収録曲 「Mostly Chimes」〜

〜「ATN3600LC」で視聴 Adrianne Lenker 『SONGS AND INSTRUMENTALS』 収録曲 「Mostly Chimes」〜

この作品はタイトル通り、エイドリアン・レンカーのフォークソング集と2曲のインストゥルメンタルが収められた2枚組になっているのですが、インストのほうの終盤には鳥のさえずりが入っていたりして、よく雨の日になるとこのアナログレコード聴きたくなるんです。しっとりとした優しい音色がこの針に合うんじゃないかと思って。

サブスクでじっくり一曲を聴くシーンってあまりない気がしますけど、アナログレコードだとゆったりと聴けるところがあって贅沢に時間を使えるというか。どこかで時間をつくりにいっている自分がいるんですよね。

確かに。レコードを聴くときって自分で時間をつくりにいく感覚がありますよね。だからこそしっかりと耳を傾けることができる。エイドリアン・レンカーもこのアルバムをドロップしたのがパンデミックの最中だったようで、山のなかでの隠遁生活で彼女自身もしっかり時間と向き合って楽曲制作していたんでしょうね。


『INSTRUMENTALS』には約20分の曲が片面に一曲ずつ入っているので、その間に本を読んでみたり、コーヒーを淹れてみたり、空間そのものを意識できるのがアナログレコードの良さなのかもしれないですね。それってとても豊かな時間の使い方だと思いますし、特に日々都会で暮らしている人にはそういう時間が癒しになる気がするんです。

本当にそうですよね。レコードをゆったりと聴く時間というのは忙しい都市生活では貴重な時間になりますね。さて、では次は何をかけていきましょうか? ATN3600LEにつけ替えて聴いていきましょう。

次はしっとりしているけど暗すぎない、絶妙なジャズカルテットのアナログレコードをかけてみたいと思います。

〜「ATN3600LC」で視聴 Modern Jazz Quartet 『DJANGO』 収録曲 「Django」〜

〜「ATN3600LC」で視聴 Modern Jazz Quartet 『DJANGO』 収録曲 「Django」〜

ジャケットがチラっと見えたとき、DJアンゴさんって誰だろう? って思っていました(笑)。

これで「ジャンゴ(DJANGO)」って読みます。私も最初はDジャンゴって言っていました(笑)。

裏表紙の写真がまたいいですね。クラフトワーク(Kraftwerk)の元ネタだったりして?


モダン・ジャズ・カルテット(Modern Jazz Quartet 以下、MJQ)のほうがクラフトワークよりも以前に活動しているので、もしかしたら可能性ありますね(笑)。

ジャズの難解なイメージには近づきづらい方も多いと思いますが、ジャズに興味をもちはじめたきっかけというのは?

私が5年前にはじめて買ったのがインディーロックのアナログレコードだったんですね。それで、そこからルーツを遡ってたどり着いたのがこのレコードだったんです。トランペット、サックス、ピアノというよりも、ビブラフォンの音がキャッチーだったので、すんなり聴くことができたのかもしれません。ほら、学校でみんな木琴とかそんな楽器を叩いていたじゃないですか(笑)。

誰もが耳馴染みのある音ですよね(笑)。

最初はロックから40年代のジャズまで遡って、また新しい音楽が聴きたくなって。そうやって行ったり来たりを繰り返すうちに感性がブラッシュアップされていくような感覚があって、徐々に聴けるようになったレコードも増えていきました。MJQは最初からすんなり聴くことができたのですが、これまで通りすぎていたレコードも時代の往復で徐々にその良さがわかってきたりして、やっぱり名盤っていいんだなと実感したりして。パット・メセニー(Pat Metheny)さんもそのひとりでした。


古い曲を聴くと、現代の音楽にこういう影響を与えているんだという発見があって面白いですし、音楽にも脈々と地続きの歴史が息づいているんだって、どんどん興味が出てくるんです。

音楽の歴史のピースをはめていく作業というのも面白いですよね。当然、音の聴き方も変化していきますし。では、同じ曲を「ATN3600LE」のカートリッジで聴いていきましょう。

〜「ATN3600LE」で視聴 Modern Jazz Quartet『DJANGO』 収録曲 「Django」〜

〜「ATN3600LE」で視聴 Modern Jazz Quartet『DJANGO』 収録曲 「Django」〜

低音が入っている曲はイントロから一気に引き込まれますね。ビブラフォンの音も形が見えるというか、すごく輪郭が際立って立体的になっています。

これまでダメになってしまった針と新しい針を聴き比べることはあったのですが、それぞれの針の特徴を聴き比べるのは今日がはじめてだったので、すごくいい体験になりました! こうやってカートリッジの交換で音の違いがしっかり楽しめて、自分好みに曲を選択できる拡張性があるという意味でも、音楽がより楽しくなりましたね。

時々インスタグラムから「どんなレコードプレーヤーを買ったらいいですか」という質問をもらうことがあって、「ある程度のスピーカーやアンプを揃えないと正直サブスクとの音の違いを楽しめないですよ」なんて返したりもするんですけど、今度からこのレコードプレーヤーをオススメしてみようと思います。

アナログレコードの楽しみ方って、こうやって自分好みに拡張していけるところにあることを皆さんにも知ってもらえるといいなって。デザインもそうですし、フルオート再生機能もついた操作性もシンプルなので、はじめての方でも簡単にアナログレコードがかけられる点もいいですよね。

それでは、次はこのまま「ATN3600LE」のカートリッジを使用して、せっかくなのでヘイムラコルトさんの曲をかけてみましょう。

では、お言葉に甘えて(笑)。

衣、食、住、アナログレコード。

〜「ATN3600LE」で視聴 heimrecord 『夏の波紋/山笑ふ』 収録曲 「夏の波紋」〜

〜「ATN3600LE」で視聴 heimrecord 『夏の波紋/山笑ふ』 収録曲 「夏の波紋」〜

7インチ盤なのですが、曲が長いので33回転なんですけど……フルオート再生機能でもちゃんと作動してくれますかね?

やってみましょう。


あ、いけました!

迷わず再生してくれましたね。

1stシングルの「夏の波紋」は「晩夏」をテーマに作詞させていただいたのですが、夏だけではなくて、夕暮れどきに聴いていただけたら嬉しいです。2ndシングルの「山笑ふ」では、歌と一緒に語りにも挑戦していて、そんな2曲が収録されています。曲が5分を超えるので33回転で制作していて、作曲は堀込泰行さんにしていただきました。

作曲は元キリンジの堀込泰行さんだったんですね! 羨ましい……。

アレンジしていただいた田村玄一さんには好きなアーティストを聞かれたのですが、迷わずライ・クーダーとMJQとお伝えさせていただいたんです。そのニュアンスをアレンジで出していただけて、すごくお気に入りの作品に仕上がりました。宝物のレコードのひとつですね。

このジャケット写真には何か思い入れがあるのでしょうか。


百日紅(さるすべり)の木の下から空を撮った写真なのですが、デビュー曲だったので、どんな写真がいいかなって街をいろいろ歩きながら撮っていたんです。元々フィルムカメラが趣味だったので、撮った写真のなかからこの写真を選びました。ちょうど木の枝を境に空の色や表情が変わっていて、きれいだなって。

フィルムカメラって撮影した時点ではすぐに答えがわからないじゃないですか。不便と言ってしまえばそれまでなんですけど、どんな写真が撮れたかなって現像するまでの時間も楽しめるところが、どこかアナログレコードの魅力とも似ている気がしていて。生活のなかにそんな時間の余白をつくれることが嬉しいですよね。

フィルムとレコード、どちらもアナログという意味ではフィジカルに存在していて、デジタルよりも生活という時間のなかに息づいている。やっぱり音楽も生活の一部なんですよね。

物理的に時間が必要になる反面、どうやってバランスをとろうかと工夫することが大事というか。

そうなんですよね。フィジカルにモノとして音楽を所有できることが大切な気がします。目まぐるしく流れる日々に情報としてだけだと弱いというか、ついつい埋もれてしまうんですけど、日常を形づくる要素のひとつとして音楽が数えられるっていいじゃないですか。インテリアとしても、アートのポスターを壁に飾るようにアナログレコードを飾れますし、ちゃんと生活の目の届く範囲に存在できるのがアナログレコードの魅力なんだと思います。グルグルと回っているのを見ているだけでも幸せになれます(笑)。

今日はかけられませんでしたけど、細野晴臣さんとコシミハルさんの『Swing Slow』も持ってきていたんです。細野さんってアナログレコードでずっと作品を出していて、すごくリスペクトしているんです。私も細野さんのようにおばあちゃんになるまでアナログレコードを残し続けることが夢ですね。

heimrecordさんにとって、アナログレコードはどのようなモノですか?

私にとってアナログレコードは、一曲というよりはアルバムとして聴くことができる、身体の中心までしっかり音楽を行き渡せるための大切なモノであり、生活と状況に紐づいたライフワークのようなもの。よく衣食住の次にレコードをつけ加えているのですが、私のなかで音楽というのはそれだけ日常には欠かせないモノであり、それだけ自分の側に置いておきたいモノなんです。今後も10インチ、12インチと新しい作品を出せるように頑張っていきたいので、未だ見ぬ音楽との出会いを楽しみながら日々音楽活動を続けていけたらと思っています。


heimrecord

ヘイムラコルト

heimrecord ヘイムラコルト

1997年、愛知県生まれ。2019年より映画俳優としてキャリアをスタートするも、もともと嗜好をこらしていたフィルムカメラなどの趣味も相まり、アナログレコードから音楽の世界へとのめり込んでいく。音楽とアートを軸にノスタルジックな世界観を放つシンガーソングライター、heimrecord(ヘイムラコルト)として本格的に活動を開始すると、2022年にデビュー作「夏の波紋」をリリース、2ndシングル「山笑ふ」とともに待望の7インチアナログ化を果たした。主に下北沢を拠点に活動しながら、先日、5度目の弾き語りワンマンライブを終えたばかり。昨年末よりスタートしたオフィシャルファンクラブサービス、heimrecord social clubの運営なども行う、これからが楽しみなアナログレコード愛溢れるアーティストのひとり。
オフィシャルサイト:NATURAL FOUNDATION

QUATTRO LABO

QUATTRO LABO

〒150-0042 東京都渋谷区宇田川町15−1 渋谷パルコ B1F
03-6455-3001
OPEN:11:00〜23:00(定休日:なし、CAFE TIME 11:00〜、BAR TIME 17:00〜、L.O. FOOD 22:00、DRINK 22:30)
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Photos:Shintaro Yoshimatsu
Words & Edit:Jun Kuramoto(WATARIGARASU)

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