通勤や通学中、今よりも音楽をもっと良い音で楽しみたいと思ったことはありませんか?スマートフォンやポータブルプレーヤーにイヤホンをつなぐだけでは味わえない、クリアで臨場感あふれるサウンド体験を可能にするのに欠かせないのが「ポタアン」、そして「DAC」です。その基本について、音楽家、録音エンジニア、オーディオ評論家の生形三郎さんに解説していただきました。
持ち運べるサイズのアンプ「ポタアン」
ポタアンとは、「ポータブルアンプ」の略。ポータブル(=持ち運べる)環境で良い音を楽しむための、文字通りヘッドホンやイヤホンを鳴らす「アンプ」に特化した機器です。
そもそもアンプとは?と思った人は、こちらの記事をチェックしてみてください。
詳しくは後述しますが、ポタアンが登場した当初は、純粋にアンプ機能のみを搭載した機器でした。しかし昨今のポタアンはスマートフォンとの連携を前提として設計されており、アンプ機能だけでなく「DAC」機能を備えたものが主流となっています。
デジタルをアナログに変換する「DAC」
DACとは、「Digital-to-Analog Converter」の略で、文字通りデジタルデータをアナログデータに変換する機能です。デジタルデータは機械のみが認識できるデータなので、オーディオ機器には、デジタルデータを人間の耳が認識できるアナログデータへと置き換えるDAC機能が必須となります。
例えばCDプレーヤーや、DAP*にも勿論DACが内蔵されており、CDプレーヤーではCDに記録されたデジタルデータを、DAPであればFLACやMP3といったファイルやストリーミングデータなどのデジタルデータをアナログデータに変換します。
*DAP:DAPは「Digital Audio Player」の略。音楽再生に特化し、高音質なフォーマットの音源を再生できる機器。詳しくは「DAPって何?~今さら聞けない用語を解説~Vol.7」にて解説しています。
DACは、デジタルプレーヤーの心臓部ともいえる存在で、再生音質に大きく影響する部分です。よって、良い音で音楽を楽しみたい場合は、高音質再生に特化したDACを搭載した機器が必要となります。
進化した現在のポタアン
ポタアンが普及しはじめた2000年代後半頃は、プレーヤーのアナログ出力を接続して使用するモデルが主流でしたが、いまではスマートフォンとデジタル接続するタイプが主流となっており、ポタアンとUSBケーブルやBluetoothで接続したスマートフォンを、プレーヤーとして使います。
その仕組みは、
(1)音楽コンテンツのデータをスマホからUSBケーブルやBluetooth経由で受け取って、
(2)ポタアンに搭載されている高性能なDACでデジタル信号をアナログ信号へと変換し、
(3)さらに、同じくポタアンに内蔵されている高性能なアンプでイヤホンやヘッドホンを鳴らして音楽を良い音で楽しむ、というものです。
従ってポタアンは、『スマホをDAP化させる為のツール』と言い換えることも出来ます。
サイズも小型で、価格も数千円からの機器もあり、気軽に始められることも魅力です。
イヤホンやヘッドホンを使って音楽を楽しむツール
ポタアンやDAPを使ったイヤホンやヘッドホンでの音楽再生は、スピーカーとは異なった音の届き方を楽しめます。
スピーカー再生の場合はスピーカーから発せられた音だけでなく、スピーカーから出た音が壁や天井などで反射した、間接的な音も同時に聴くことになります。一方、イヤホンやヘッドホンは、耳元から届く音だけを直接聴くことができます。鼓膜のすぐ近くで音が発せられるからこその音のダイレクト感やピュアネスは、独特の魅力があります。
また、空間オーディオと呼ばれるイマーシブな音楽コンテンツを手軽に楽しめることも魅力の一つと言えます。 スピーカー再生の場合は多数のスピーカーを空間に配置する必要がありますが、空間オーディオコンテンツは、イヤホンやヘッドホンを耳や頭部に装着するだけで立体的な再生を手軽に楽しむことができます。
高音質再生の魅力に触れる第一歩として、ぜひともポタアンやDAPをチェックしてみてください。
Words:Saburo Ubukata
Edit:May Mochizuki