今、世界的な再注目の最中にあるアナログ・レコード。デジタルで得られない音質や大きなジャケットなどその魅力は様々あるが、裏面にプロデューサーやバックミュージシャン、レーベル名を記した「クレジット」もその1つと言えるだろう。
「クレジット」――それは、レコードショップに並ぶ無数のレコードから自分が求める一枚を選ぶための重要な道標。「Credit5」と題した本連載では、蓄積した知識が偶然の出会いを必然へと変える「クレジット買い」体験について、アーティストやDJ、文化人たちが語っていく。あの人が選んだ5枚のレコードを道標に、新しい音楽の旅を始めてみよう。
コヤマシュウが考える「アナログ・レコードの魅力」
塩化ビニール盤に溝を刻んでレコードができるんだと思うんですが、僕の中では音や気持ちをネリネリ固めて出来上がったもの、というイメージ。なんでだろう?ポワポワポワと考えてみると「もぐらのクルテク」というチェコのアニメで主人公のもぐらくんと友達のネズミくんが、森の仲間が奏でる音たちを集め、ネリネリと飴のように固めて円盤型にし、レコードを作るという素敵なお話しがあり、あぁその影響だなと思い当たりました。楽しい気持ちや音そのものがネリネリ固まってできたもの、と思えてくる色、形・重さ・質感、そして音、そしてそれを包んでいるジャケットがなんとも愛おしく好きです。
コヤマシュウが「クレジット買い」した5枚のアナログ・レコード
スリー・ディグリーズ『にがい涙』
高校生の頃に兄貴に薦められて聴いた東京スカパラダイスオーケストラの1stアルバム『スカパラ登場』。そこに収められていた「にがい涙」という曲におけるクリーンヘッド・ギムラさんのアナーキーな歌唱にやられ、クレジットを見ると作詞:安井かずみ / 作曲:筒美京平の文字が。「カバーか、、、この2人ということは、、、昭和歌謡、隠れた名曲か何かなのか????」と原曲を探し続けるアテのない旅に出ること5〜6年くらい(体感15年)、安レコシングル盤コーナーにて「あらこんな所で」とようやく出会った1枚。
ディスコ歌謡、カタカナ日本語歌唱、ダチーチーチー、と黒くゴージャス、だがスッキリとした味付けが「初期岩崎宏美みたい」な良き曲。そしてオリジナルを聴いた後だと「逆昭和歌謡風味」なスカパラのアレンジも本当にルーディーで痺れるなぁと改めて。スカパラには「あんたに夢中」という、これまたギムラ氏の歌唱がカッコEオリジナル日本語歌詞付きのカバーナンバーもあり、こちらのクレジットには “D.Gillespie” の名前があったもので、ディジー・ガレスピー(Dizzy Gillespie)のレコードコーナーを探し続けていたのだが、20年くらい(リアルに)経ってキャブ・キャロウェイ(Cab Calloway)の名前でリリースされた曲だと知りました。クゥー振り回されてるぅー。楽しい。
笠井紀美子『アンブレラ』
細野晴臣さんはYMO、ソロのアンビエント期と聴いてきて、その後、はっぴいえんど〜ソロ〜キャラメルママやらティンパンアレイやらのバックミュージシャンワークスを聴き始めたのですが、はっぴいえんどを聴くきっかけになったレコードコレクターズに、「細野晴臣名義ではなく宇野主水(ウノモンド)名義での参加セッションもあるので要注意!」みたいな記述があり、うぉーなんか燃える、と熱くなっていた時期にデパート催事場中古レコード市みたいなの(藤沢だったかなぁ)で出会った1枚。
ジャケットがまず素晴らしい上に、ジャケ裏に “Produced by HIROSHI KAMAYATSU” とあって、こいつはキタな、と更にインナースリーブのクレジットを見ると「MONDO UNO……..Electric Bass」の文字があり、試聴もせずに引き取ることを決めた記憶。で、聴いてみたらクレジット買い成功イェイ。1973年リリース、なんだけど「窓を横切る雲」という曲が自分(1975年生まれ)の子供の頃の景色や空気、匂いとどうにもシンクロしてしまい、とても好き。笠井紀美子さんの歌声は、今は彼方でも確実にあったあの頃の色をしている。この曲の、窓の外の遠い喧騒、みたいなギター、クレジットはHOSHIIMOKOZOUでこちらは鈴木茂さんの変名名義。その後、この曲が好きすぎて、SCOOBIE DOリーダー・ギターのマツキくんとやっているハード・フォーク・デュオ、SCOOBIE TWOでもカバーしてしまったり。わーい。嬉しい。
RCサクセション『ハードフォーク・サクセション』
「ナンカー・フェルジ(Nanker Phelge)っていうのはローリングストーンズ(The Rolling Stones)がみんなで曲を作った時に使う名前らしいよ」と教えてくれたのはマツキくんだったか、なんにしろ “共同名義” というクレジットが存在すると知っていたおかげで、その後、初期RCサクセションのレコードに「作曲:肝沢福一(キモサワフクイチ)」という奇妙な名前を見つけた時も「お!これはきっとキョウドーメーギだな」と推測し、それは当たっていたのだけれども、その由来までは全く想像がつかず。が、後年、清志郎さん自身がインタビュー記事で話していたこの名前の由来が大好きなので以下、記憶のままに。
清志郎さんが子供の頃、居間でテレビを観ていた彼の父が「おーい!お前の好きなキモサワフクイチ出てるぞー」と部屋にいた清志郎さんを呼ぶので「???」となりながら居間にいくと、テレビでは歌番組が始まっており画面に映っていたのは「沢田研二だった」という話。「キモサワフクイチって誰なんだよ!って話なんですけど(笑)」と語っていた清志郎さんだが、この世のものとは思えないネーミングが、お気に入りだったのかもしれない。
このLPは初期曲の編集盤でアルバム未収録曲もあったり。1stシングルのB面曲「どらだらけの海」の、歌詞メッセージ以上に胸が締めつけられる音像と歌声とその空気が好き。清志郎さんにお会いした時に「『どろだらけの海』が好きです!」とお伝えしたら「古いね!」と真顔で言われたのも、自分の中のとても好きな思い出。
Soul Syndicate『Harvest Uptown』
SCOOBIE DOをやりながら、都内某広告代理店でメールボーイとして働いていた時期に知ったアルバム。
「コヤマくん、バンドやってるんだって?どんなバンド?」とおとなしく繊細そうな営業のMさんが自分の持ち場であるメールルーム(オフィスから隔離された物置き場を改良した部屋)にずずぃと入ってきたのに、すこーし驚きつつも、「マキシマムなリズム&ブルースバンドです」と間髪いれずキリッと答えると「へー、カッコよさそうだね!」と微笑みと共に好反応。おおなんか嬉しい。矢継ぎ早に放たれた「最近はどんな音楽聴くの?」という質問に「JamaicaのMellowなソウル、ラバーズまでいかないんですけどその谷間の感じが最近好きなんですよね〜」とその時期の自分の好みをできる限りスムースに整えて答えてみると、「へー!僕もそういうの好きだから今度CD持ってくるよ、貸してあげる!」と思いもしない答えが。
「本当ですか!?ありがとうございます!」と言いながら、なにしろ友人が1人もいない職場だったもんで(皆さん優しい方々でしたが)、CDを持ってくることも、その内容もさして期待してはいなかったのですが、翌日には3枚ほどのCDを「返すのいつでもいいから!」と持ってきてくれた上に、1枚も知っているものはなく、その中の1枚がどえらくど真ん中のドストライクでミット突き破る系のカッコ良さだったもんで早速MDにダビング、そして永遠の愛聴盤になったのはMさんのおかげでしかない。
このレコードで、FunkyかつMellowなギターを弾いているグループのリーダー、アール・チナ・スミス(Earl “Chinna” Smith)は他にも色々な所でギターを弾いていて、そのクレジットをジャケット裏に見つけると、漏れなく気になるレコードに早変わり。で、結構色々と聴いたような気もするのだが、やはり一番Eのはこの『Harvest Uptown』。 “鳴っている音” だけで飛べるFunky Mellow Soul Tune「Mariwana」をはじめ、肉体を使い汗をかいてぶっ飛ぼうとしている痕跡=Rawなバンドサウンドがレコードに刻まれていて好き。
CALVIN ARNOLD『SCOOBIE DO』
1995年の春先。「この中からバンド名決めるのがいいと思うんだよね」とマツキ君が、DOPEなMODS御用達のレコード屋・大阪ジェリービーンのカタログを広げると、小さな文字が上から下までびっしりと。真っ白な紙っ切れ、左右のページに30枚づつくらいはあっただろーか。全てシングル盤。左から、曲名、アーティスト名、値段、盤質、そして “MODS R&B” とか “ORGAN INST” とか極々わずかな情報だけが書かれたレコメンドコメント、という順番。知らないアーティストの知らない曲しか載っていないカタログ。しかしここからバンド名を決めるっていうのは、その時に考えられる方法の中で一番カッコEやり方だったように思えたし、今思い返してみてもそう思う。未来のオレも意義なし。「そうしよう!」頭から二人でダーッと見ていって、一度 “STEREOS(ステレオズ)” というのもシブいな、となったものの一旦キープ、で見つかったレコードが 「SCOOBIE DO」。
「スクービー、、ドゥー、かな?」「Funky Stomper、ってことは良さそうだけどCalvin Arnold、、、って誰?」がしかし。SCOOBIE DOというその言葉には、過去の何にも属していないのにあらかじめカッコE、HIPな響きがあった。「これバンド名、いいんじゃない?」何回かスクービードゥーと口に出して反芻する。二人が何度口にしてみてもそのキラキラが消えないように思えた。「スクービードゥー!いいね。いいじゃん。このレコードも買ってみよう」マツキ君がそう言ってその日はお開き、となって後日。「あのシングルカッコよかった」と報告があった時には、もうスクービードゥーという名前のバンドを組んでいたつもりになっていたので、あぁそうだった!で聴かせてもらうと、ちゃんと「スクービードゥー!」と歌っていてなんだか安心したのを覚えている。
塩っ辛い歌声の裏で鳴るオルガンが効いたFUNKY R&B、AtlanticやStax、MOTOWNにはないガレージソウルフィーリン、そしてオリーブとホワイトのレーベルがローカル感バリバリでイカしていて、このレコードを見るたびに「こっから名前つけといて良かった〜」と嬉しくなる。カワイイやつ。この名前をいただいてそろそろ30年。STILL DOING。まだまだやる。
コヤマシュウ
1975年4月21日生まれ。神奈川県西湘二宮町に生まれ育つ。1995年結成のバンド・SCOOBIE DOのボーカル / スウィート・ソウル・スウィンガー。白スーツ。好きな食べ物はカレーライス。
SCOOBIE DO
ROCKとFUNKの最高沸点 ”Funk-a-lismo!” 貫くサムライ4人衆。
2025年9月6日にLINE CUBE SHIBUYAにて結成30周年記念ライブ「ダンスホール渋公」を開催。
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Coordination:Yuki Tamai
Edit: Yusuke Ono