「レコードは音質がいい」「レコードの音には温かみがある」とはよく耳にしますが、いまの令和の時代において発売されたレコード、その音質はいかに?ここではクラシックからジャズ、フュージョン、ロックやJ-POPなど、ジャンルや年代を超えて日々さまざまな音楽と向き合うオーディオ評論家の小原由夫さんに、最近<音がいいにもほどがある!>と感じた一枚をご紹介いただきます。

チャーミングで、真っすぐな歌声

2年前の前作『瞳へ落ちるよレコード』に 引き続き、この『猫にジェラシー』も2枚組 重量盤という体裁でリリースしたシンガーソングライターのあいみょん。通算5作目となる本作は、クリアーオレンジの重量盤仕様で、本LP以外にCD(DVDやブルーレイ付きもあり)と、なんとカセットテープも併売されている。ジャケットはモザイクアートで制作された彼女の顔だ。

ドラマ主題歌のタイアップ等5曲に加えて、CM曲なども織り交ぜた本盤は、全13曲の収録。このアルバムの音の良さが頭抜けているのだ。しかも素朴でナチュラルな、昨今のJ-POPの 大勢とは随分と趣きの異なる音作りとなっている点が大変興味深い。

『猫にジェラシー』は2枚組 重量盤という体裁でリリース

この音のよさに関して、クレジットを見て合点がいった。マスタリングエンジニアの木村健太郎は、オノセイゲンが主宰する「サイデラマスタリング」で研鑽を積んだ期待のホープ。これまでに電気グルーヴやクラムボンなどを手掛け、最先端のヒップホップやJ-ロック界隈では知る人ぞ知る存在。

カッティングエンジニアの松下真也は、ヴィンテージ機材にも造詣が深く、日本プロ音楽録音賞での受賞歴もあり、様々なジャンルの演奏家から近年引っ張りだこの若手エンジニアだ。この2人の手にかかったレコードが悪かろうはずがない。2枚組で片面当たり3曲〜4曲に収め、盤面の外周側を使ってカッティングされていることも、この音質のよさに奏功していそうだ。

2枚組で片面当たり3曲〜4曲に収め、盤面の外周側を使ってカッティングされている

何はさておき、あいみょんの声が持つオーガニックな質感がいい。とにかくチャーミングで、実直な真っすぐさが感じられる声なのだ。ティーンエイジャーの乙女心を歌っても不自然さはないし、結婚適齢期頃の女性の心理も巧みに映し出すことができる。自身のペンによる詞から醸し出されるそのオリジナルの世界観に共鳴する女性が多いのは納得だが、シニアの私からしても、何だか孫のデリケートな感情の起伏を見ているようで、愛おしくも切ないのである。

A-3「ラッキーカラー」は、素朴だけれども生々しい失恋の描写がユニーク。70年代フォークにも似た展開に現代的なアレンジを施すと、こんなイメージに近いかもしれない。

B-2「あのね」の声の質感の生々しさ、アコースティックギターのストロークのリアリティにも驚かされる。音色も実に優しい。

全体的に見ても、ひとつひとつの楽器の音色がナチュラルで、定位も明瞭。リズムがスクッと立っている。その中央に定位するヴォーカルには、張り出し具合とフォルムの克明さがあり、質感が瑞々しく若々しい。完全限定生産なので、完売になる前に是非!

Words:Yoshio Obara

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