スピーカーやレコードプレイヤー、真空管アンプなど音響機材を環境の変化や故障などで手放さなければならないとき、ただ捨てる以外の方法を検討してみませんか?今回は使わなくなった、使えなくなったオーディオはどのようにしたらよいか、オーディオライターの炭山アキラ先生に伺いました。
ですがその前に、動かないのは故障や不具合という可能性もありますよね。そんな時はこちらの記事をチェック。
そのオーディオ、リサイクルでつなぎませんか?
「使わなくなったり、使えなくなったりしたオーディオは、どのようにしたらよいのでしょうか?」と編集部からお題をもらいました。身も蓋もない話ですが、実際にオーディオ機器を捨てるなら、比較的小型の機材なら各自治体の規範へ沿って、例えばわが家のある自治体なら、「規定の袋へ入る大きさまでなら」という限定付きで、不燃ごみへ出すことができます。大型の機器やスピーカーは、粗大ごみへ出すこととなるでしょう。
私たちオーディオ業界へ棲息する者にとって、新しいオーディオ製品をお買い上げいただくことは、とてもありがたいことです。しかし、その前提はいったん措き、お手元のコンポーネントを捨ててしまう前にちょっとだけ、立ち止まってもらえると嬉しいのです。
例えば、10年ほど前にスピーカーまで含めて数万円で買ったミニコンポが動かなくなった、といった状況なら廃棄するのも仕方ないでしょう。それでも、もし同じような製品へ買い替えられるのなら、ほとんどの販売店は(有償・無償はあるでしょうけれど)古い製品を引き取ってくれると思います。
一方、いわゆる単品コンポーネンツを組み合わせたステレオセットなら、古い商品でも捨ててしまう前に、リサイクルを考えてみませんか?
それ、ひょっとするとヴィンテージの名機かも?
これはもう「ものによる」としかいいようがないのですが、一部のオーディオ機器はある程度の価格で引き取ってもらえるものです。
これまで何機種か紹介してきた、いわゆるヴィンテージ・オーディオと呼ばれる機器なら、ある程度しっかりした市場が形成されていますから、よほど手荒に扱われた製品でない限り、そこそこの買い取り価格がつきます。
それに対して、例えば日本のオーディオ華やかなりし頃の国産オーディオ機器は、びっくりするような価格で取り引きされているものから、却って処分料を取られかねないものまで、ピンからキリまで存在しています。残念ながら、後者に近い製品が多数派といわざるを得ないのですけどね。
昭和では”定番”、令和では”希少”なオーディオ製品
だったら、安物は全部粗大ごみ行きかというと、そうと決まった話でもありません。例えば、1970年代に一斉を風靡したけれど、今はごく細々とその末裔が生産されている製品ジャンルに、「ラジカセ」があります。AM/FMラジオとカセットレコーダー、そして大ぶりのスピーカーが1つの筐体へ収まり、多くの製品は持ち運びできるよう、電池を収めることができて、取っ手もついたものでした。
ここ数年、カセットテープ関連がちょっとしたミニブームの様相を呈していて、外観が比較的美麗でしっかりメンテナンスが行き届いていれば、全盛期のラジカセは結構な価格がつくようです。
さらに、スピーカーやラジオを内蔵せず、オーディオ・コンポーネントへ組み込んで使うためのカセットデッキは、全盛期のものなら比較的廉価な製品でも、今はいくらか価格がつくようですね。
これには理由があって、カセットデッキは今も少数のメーカーで生産が続いているのですが、かつてごく当たり前に装備されていた「ドルビー・ノイズリダクション(NR)」という雑音を減らすための機能を持つチップが生産完了となってしまったためです。
このチップが搭載されていないカセットデッキを使用すると、ドルビー・ノイズリダクションを使って録音した昔のテープは再生するときに問題が起きたり、新しく音源をテープに録音して、それを録音したものと同じデッキで再生する場合でも、テープの雑音(ヒスノイズ)が耳障りになってしまうのです。
また、現在よりひょっとして2ケタくらい生産量が多かったであろう往時のカセットデッキは、作り込みが効いていたからでしょう、廉価な製品でも回転系の精度が驚くほど高く、ワウフラッター*などほとんど感じることはありませんでした。それで、程度の良い全盛期のカセットデッキが人気を博しているのです。
*ワウフラッター:アナログのテープレコーダーは、どれほど精度を詰めてもごく微弱な音揺れが残ります。 ”ワウ” というのは文字通りワウワウいうような周期の大きな音揺れ、”フラッター” というのは周期の短い揺れで、これらが大きいとビリビリ耳障りな音になります。
もっと古い話をすると、かつてよく売れたオーディオ製品に、「コンソール型」と呼ばれるものがあります。レコードプレーヤーとラジオ、アンプとスピーカーが横長の1ボディへ収められ、昔のテレビと同じように、4本の細い脚で床から持ち上げられた格好の一体型ステレオ装置です。
こういう製品や、あるいは「セパレート・ステレオ」と呼ばれる、センターにプレーヤーとラジオ、アンプが収められた一体型キャビネットを置き、その両脇に別体となったスピーカーが配されたセット・ステレオ製品もありました。
こういった製品群は、以前はよくご家庭の応接間などで見かけられたものですが、さすがにもう撤去されてしまったものが多く、残存個体が極めて少なくなっています。
ところが、若い人たちの中でああいう時代のステレオ製品を、「木目調がレトロで格好いい」と見立てる人が出てきたのです。それで、修理可能な程度の個体は、一部ショップで買い取りの対象となっています。
現在最も価格がつきにくいのは、20〜30年前の普及クラス機器でしょう。しかしそういう製品たちでも、まだまだ実働可能なコンディションなら、欲しい人が現れる可能性はあります。
中古で手に入れる際の注意点
今はオーディオ製品がどれも高くなってしまい、大学のオーディオ研へ所属している若者たちなどから、悲鳴にも似た嘆息が聞こえてきます。そういう人たちへ、幾許かの金額で使っていないオーディオ機器を届けるなら、フリマやオークションサイトなどに出品する、という方法も考えられますね。
ただし、こういう個人売買で古い商品をやり取りすると、自宅では問題なく動作していたのに、輸送中の振動などで故障が発生することがあります。そういったリスクは、出品側も落札側もしっかりと認識しておいてほしいものですね。
オーディオ機器というものは、純然たる工業製品ではあるのですが、”音楽”という情動を直接刺激するものを扱う媒体であるだけに、分かち難く”文化”と結びついています。自分がこれまで音楽を楽しんできたオーディオ機器は、捨ててしまうよりまた誰かに愛用してもらいたい。冷蔵庫や洗濯機より、遥かにこういう思いが強くなってしまうのは、当然なのかもしれませんね。
オーディオと終活
オーディオショップの中古フロアで勤務している友人がいます。そこのお店では、ごくたまにびっくりするくらい豪華で希少価値の高い製品群が、ドカッとまとめて入荷することがあります。「何があったの?」と話を聞くと、それらの大半は遺品なのだとか。オーディオマニアが亡くなられ、ご遺族がそのショップを呼んで処分してもらう、ということだそうです。
オーディオマニア自身にとっては、自分がいなくなってしまった後のことですから、あまり現実的にお考えではない人も多いかもしれませんが、「明日ありと思う心の仇桜、夜半に嵐の吹かぬものかは」と親鸞聖人*も仰っている通り、特に私自身を含めた中高年オーディオマニアは、自分が旅立った後の機器をどう整理するか、ご家族に伝えておくべきでしょう。
*親鸞聖人:浄土真宗の開祖。歌の意味は「今咲いている桜は明日も咲いているだろうと安心していると、夜のうちに強い風が吹いて散ってしまうかもしれない」ということ。
先述のとおり、オーディオ製品の中には歴史的にも価値の高いヴィンテージ名機や、現在では手に入れることが困難な代物があります。一番恐れるのは、その機材の「嫁ぎ先」をどなたにも伝えないまま旅立たれた結果、オーディオに詳しくないご家族が廃品回収業者を呼んでしまうことです。オーディオに明るい業者であればまだ良いのですが、場合によっては二束三文で引き取られた挙げ句、多くはそれこそ粗大ゴミになってしまう、などという可能性が極めて高いのです。
キャリアの長いオーディオマニアなら、地元のマニアックなオーディオショップとは少なからずお付き合いがあることと思います。そういうお店へあらかじめ話をしておき、ご家族へも「何かあったらここへ電話して」と伝えておくのが、最良の解決法であろうと思います。
Words:Akira Sumiyama