「OOカルテット」と呼ばれる演奏家グループの名前や「OO五重奏曲」など、クラシック音楽では色々な楽器編成や楽曲を耳にすることが多いです。 しかも、中には「ピアノ四重奏曲」というものもあり、ピアノが4台で同時に演奏するの?といった、聞いただけではよく分からない編成が存在します。 また、オーケストラは一体、何人からオーケストラになるのでしょうか?そんな素朴な疑問を音楽家、録音エンジニア、オーディオ評論家の生形三郎さんに解説していただきました。
デュオ、トリオ、カルテットについて解説した前編はこちら
五重奏曲、クインテット(Quintet)
5人の編成ですが、「弦楽四重奏に楽器を一つ加えたタイプ」と、「同属楽器5人によるタイプ」の2パターンに分かれます。
弦楽四重奏(2本のヴァイオリン、ヴィオラ、チェロでの構成)にプラスワンした編成で、ピアノを足した「ピアノ五重奏曲」、クラリネットを足した「クラリネット五重奏曲」、ギターを足した「ギター五重奏曲」などが代表的です。 ヴィオラが2本でホルンを足した、「ホルン五重奏曲」もあります。
同属楽器5人のパターンは、弦楽四重奏のヴィオラが2人になった「弦楽五重奏」、フルート、クラリネット、オーボエ、ファゴット、ホルンによる「木管五重奏曲」、トランペット2人、トロンボーン、ホルン、チューバによる「金管五重奏」などがあります。
同属楽器のみによる編成ではそれぞれが対等関係に徹することが多いのに対し、ピアノが入る編成では、やはりピアノは音域や音量幅が広いため、一つの楽器以上の働きをするパートとして扱われます。 とりわけ、同時発音数が多いので、厚音の厚みやハーモニーの拡がりを出すことが容易で、音の充足感を大いに拡充することができます。
ちなみに、木管五重奏曲なのに、なんで金管楽器のホルンが入っているの? と思われた方もいるかもしれません。 これは、ホルンの持つ音色の柔らかさが、木管楽器の音色と融和性が高いからです。 また、ホルンは朝顔と呼ばれるラッパの部分が奏者の後方に向くため、音が全体に広がること、そして直接音が耳に届かないことも柔らかさの秘訣です。
さらに余談ですが、サックスは見た目も金属製でいかにも「金管楽器」に分類されそうです。 しかしながら、「木管楽器」に類されます。 サックスはリードと呼ばれる歌口の部分が木(葦の一種)で出来ているので木管楽器に分類されるのです。 加えて、クラリネットも本体は木ではないですがリードが同じく木で、フルートは本体が金属でリードも金属ですが、かつては木で作られたものが主流で、木管楽器です。 実にややこしいですね…。
6重奏曲、セクステット(Sextet)
最もポピュラーなのが「弦楽六重奏」で、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロが2人ずつの編成で、ブラームスの作品が特に有名です。 他に、そこにピアノを加えたり、ピアノと木管五重奏による、「ピアノ六重奏」などがあります。
6人で演奏する六重奏曲からは作品数がぐっと少なくなります。 これは、作曲的に構成要素が多くなり過ぎてしまうからかもしれません。 異なる要素を増やしていくよりも、後述する、同じ要素の厚みを増していく「オーケストラ」に移行するほうが作曲はし易いでしょう。
7人以上
7人以上の作品はさらに少数派になりますが、7人編成のセプテット(Septet)/七重奏、8人編成のオクテット(Octet)/八重奏、9人編成のノネット(Nonet)/九重奏、10人編成のデクテット(Dectet)/十重奏などがあります。 この規模となると、金管楽器によるアンサンブル作品が多くなる印象です。
何人からオーケストラになるの?
そもそも「オーケストラ」という語は、日本語に訳すと「管弦楽」となるのですが、必ずしも管楽器と弦楽器だけで構成されるわけではなく、やや曖昧な定義の言葉となります。 一般的にオーケストラといった場合は、楽器で区分するのではなく、「一群の奏者からなる合奏体」や「一群の楽器の集合体」というように解釈されます。
もう少し具体的に言うと、「同じ演奏を行なう楽器群(パート)の集まりを持った編成」をオーケストラというのです。 例えば、一般的なオーケストラの楽曲は、ヴァイオリンのパートは14人から18人などで演奏されます。 また、弦楽器だけのオーケストラ(弦楽合奏)も存在して、それらを「弦楽オーケストラ」と呼びます。
従って厳密には、ひとつの楽器だけでも同じパートを2名以上で演奏する楽曲や編成の場合は、「管弦楽曲」や「オーケストラ」に分類されることになります。
逆に、それぞれのパートが1名ずつの場合は「室内楽」という定義になるのです。 例えばピアノトリオの場合は当然、それぞれの楽器が1名となります。 また、弦楽四重奏はヴァイオリンが2人いますが、これは、両者が異なる演奏をするため、同じ「パート」には属さない、ということになるので「室内楽」なのです。
以上、なかなかややこしい室内楽と編成のお話でした。 楽器の編成から作品を探してクラシック音楽を聴いてみるのも面白いものです。 とくに、少数派の編成は個性的な作品も多く、新鮮な響きが味わえることも多いので、室内楽に馴染みの無い方もぜひ探して聴いてみてください。
Words:Saburo Ubukata