クラシック音楽は、人数の編成によって「カルテット」や「トリオ」など色々な編成を耳にしますが、一体それぞれはどういう意味で、他にはどんな編成や呼び名があるのでしょうか。 そんな素朴な疑問を音楽家、録音エンジニア、オーディオ評論家の生形三郎さんに解説していただきました。

「一人より多い演奏者」による「室内楽」

まず、クラシック音楽では、以前の記事で、使われる楽器の種類や編成によって、大まかなジャンルに区分けされることをご紹介しました。

そのジャンルの中に「室内楽」というジャンルがあり、さらにその中にカルテットなりトリオなりの編成が含まれています。 よって、「カルテット」や「OO重奏曲」といった場合は、室内楽の楽曲と考えてくださって間違いありません。

人数的に室内楽は、一人より多い編成を指します。 よって、「ソロ(=独奏)」は室内楽に含まれません。

少ない人数から順に見ていきましょう。

二重奏、デュオ(Duo)

二重奏、デュオ(Duo)

デュオは、クラシック以外の音楽では単に2人組のユニットを指す場合も多いですが、クラシックの場合は、「ソナタ」と呼ばれる風習があります。 ソナタとは、音楽の形式(構造)を表す名称ですが、デュオ編成の場合はソナタ作品が多いため、ここでは編成を言い表すために使われます。

例えばヴァイオリンとピアノによる、ベートーヴェンの通称「スプリング・ソナタ」であるヴァイオリン・ソナタ第5番や、同じくヴァイオリンとピアノによるブラームスの「雨の歌」ヴァイオリン・ソナタ第1番などがそれです。 おもに鍵盤楽器と何らかの楽器を組み合わせた2人編成です。

ほかに、ソナタとは関係ない2人編成向けの作品も勿論多く存在します。 また、「重奏」という言葉には、同じ楽器や同属楽器を重ねて、音色を調和させる方向性の音楽傾向もあります。 ピアノとヴァイオリンなどでは、調和というよりも両者の対比を音楽へと有効に活用しますが、弦楽の二重奏などは、ヴァイオリンとヴィオラを重ねたり、ヴァイオリンやチェロを組み合わせることで、音色の融和をベースに表現を拡大させる方向性の作品が作られます。

なお、ソプラノなどの歌唱とピアノ伴奏なども、人数的にはデュオや二重奏と言えるのですが、クラシック音楽では、声を伴う楽曲は原則的には「声楽曲」に分類されるので、これらを二重奏と呼ぶことは基本的にはありません。

三重奏、トリオ(Trio)

3人編成のトリオは、ピアノとヴァイオリンとチェロの編成による「ピアノ三重奏」がもっともポピュラーで、次に紹介する弦楽四重奏と並んで作品数が多く、室内楽のジャンルでも重要な位置づけとなっています。

三重奏、トリオ(Trio)

役割としては、3人が独立かつ対等関係にある楽曲や、ピアノが主体となったもの、ヴァイオリンが旋律を担当する楽曲など、時代によって楽曲内での役割分担が異なってきます。

ほかの編成としては、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロによる「弦楽三重奏」や、オーボエ、クラリネット、ファゴットによるトリオ・ダンシュと呼ばれる「木管三重奏」、トランペット、トロンボーン、ホルンによる「金管三重奏」などがあります。

また、細かく言うと、楽章を指す場合の「Trio」という言葉も存在するのですが、今回は説明を省略します。

四重奏曲、カルテット(Quartet)

こちらは大変よく耳にする編成です。 「弦楽四重奏」が代表的な存在で、通常「カルテット」と言うと、真っ先に思い浮かぶ編成です。 略して「弦カル」と呼ばれたりもします。

西洋クラシック音楽の和声と呼ばれるハーモニーの基本的な考え方は、4声体という4つの音によるハーモニーを基盤としています。 それだけに、2本のヴァイオリンとヴィオラ、チェロの4人で構成され、極めて融和性の高い同属楽器によって低音から高音までを均質な音色や発音でカバーできる弦楽四重奏は、作曲家の創意工夫を十全かつ必要最小限に受け止める完成度の高い編成として、古典派の時代から現代音楽まで、数多の作曲家が取り組んでいます。

四重奏曲、カルテット(Quartet)

とりわけ、古典派のハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンの3人の作曲家の弦楽四重奏は、特に著名で演奏機会も多い作品です。

他に、同属楽器編成では、「サクソフォン四重奏」のほか、「フルート四重奏」、トランペットやトロンボーン(どちらかが2人)、ホルンによる「金管四重奏」、「ホルン四重奏」や「トロンボーン四重奏」などがあります。

また、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロにピアノを加えた「ピアノ四重奏」や、同じく3つの弦楽器にフルートを加えたバージョンの「フルート四重奏」もあります。

以上、四重奏=カルテットまでのご紹介でした。

続く後編では、五重奏=クインテット以上の編成や、オーケストラ編成の定義の解説をしていきますのでお楽しみに。

Words:Saburo Ubukata

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