スピーカーのキャビネット(エンクロージャー)の種類や違いについて、オーディオライターの炭山アキラさんに解説していただく本企画。 前編ではさまざまある種類の中から、「平面バッフル」と「後面開放型」、「密閉型」の成り立ちについて紹介しました。 後編では、「密閉型」の進化と「バスレフ型」について解説いただいています。 ぜひ、前編も合わせてご覧ください。 スピーカーへの理解がいっそう深まります。

「アコースティック・サスペンション」は、密閉型の小型化と低域再生を両立した偉大な発明

今から70年近く前の1956年、「密閉型」はある技術によって、まさに革命といってよい激変を遂げます。

アメリカのAcoustic Researchという社のエンジニア、エドガー・ヴィルチャー(Edgar Villchur)とヘンリー・クロス(Henry Kloss)の2人が発明した「アコースティック・サスペンション」と呼ばれる密閉型のキャビネットは、ユニット振動による内圧変化も空気バネとしてユニットの動作へ取り込むことで、劇的なキャビネットの小型化と、それまで実現できなかった低い周波数までの再生、そして歪率の大幅低減という、従来密閉型の難点を一気に解決するものでした。

ヴィルチャーとクロスは、開発したばかりの自社の初商品をオーディオショーへ持ち込んで、皆が認める当時の最高峰スピーカー(従来タイプの大型密閉型)へ勝負を挑み、公衆の前で見事それを打ち破った、という武勇伝が伝えられています。

アコースティック・サスペンションは、あまりにも劇的なスピーカー界の進歩だったものですから、それ以来、密閉型に限らず事実上すべてのスピーカーがその理論を土台として設計されるようになった、といっても過言ではありません。 レコードの電気吹き込みと再生を可能にした真空管、そしてより低コスト/省電力の増幅回路を実現するトランジスター、アコースティック・サスペンションは、これらに匹敵する偉大な発明だと、私は考えています。

より低域を再生できる「バスレフ型」。 弱点の音漏れもチューニングで改善できる

皆さんも子供の頃、飲み終わったジュースの瓶などに息を吹き込んで、「ポーッ」と音を鳴らしたことはありませんか?あれは「ヘルムホルツの共鳴」と呼ばれる現象です。 19世紀ドイツの大科学者ヘルマン・フォン・ヘルムホルツ(Hermann von Helmholtz)が発見し、数式化しました。

19世紀ドイツの大科学者ヘルマン・フォン・ヘルムホルツ(Hermann von Helmholtz)

空気の満たされた容器に筒を取り付けることで、一定周波数の共鳴が起こるというのがヘルムホルツの共鳴で、容器の空気容量と筒の断面積、長さによって共鳴周波数が違ってきます。

その原理をスピーカーへ応用したのが、「バスレフ型」です。 密閉型スピーカーの再生できる周波数の下限からさらに下の周波数で、キャビネットへ取り付けた筒によるヘルムホルツの共鳴を起こし、低音をより低い周波数まで再生するために発明された方式です。

バスレフ型

バスレフ = bass refrex = 低音を反転させるという言葉の意味は、ユニットの背面側の音波を利用して作った低音が、正面側の音と同じ位相で放射される = 位相が反転しているという意味です。 最初の方で解説した通り、位相が逆の低音はお互いを打ち消し合い、むしろ聴こえづらくなってしまうものですからね。 それで、日本語でもバスレフ型を「位相反転型」と呼ぶことがあります。

密閉型は、公称再生周波数の下限より下へも、再生レベルが下がりながらダラ下がりに伸びています。 一方バスレフ型は、ヘルムホルツの共鳴(ある程度の幅がある)より下の周波数は、ほぼ出ていないといっていいでしょう。 ダラ下がりでも、低域が伸びているとそれなりに耳へは届くものですし、そういう意味で密閉型は、バスレフ型にかなわない方式、というわけではありません。

密閉型と位相反転型の低音特性の傾向
密閉型と位相反転型の低音特性の傾向

また、ダクト(筒)をキャビネットの裏側へ設けるなど、バスレフ型もいろいろ工夫はしていますが、ダクトからキャビネット内部の音が漏れ出してくる現象は避けられません。 キャビネットの内部というのは、概して猛烈に音が渦巻いているものですから、あまり外へは漏らしたくないものなのですね。 バスレフのそういう現象を嫌う、密閉派のオーディオマニアも少なくありません。

そんな密閉とバスレフの、中間的というべき方式があります。 俗に「ダンプドバスレフ型」といって、例えばダクトを効率の良い円柱形から平たいスリット型にしたり、ダクト内に発泡ウレタンやウールなどの詰め物をしたりする方式です。

ダンプドバスレフは、バスレフとして低音を放射する効率は下がりますが、チューニング次第でキャビネット内の汚い音が漏れ出すことを防ぎ、そこそこの低音も稼ぎつつ、若干のダラ下がりで超低域方向へも伸ばすことが可能になります。 それで、結構多くのメーカーが採用する一方、ダクト内へ着け外しすることができる発泡ウレタン(円柱型のスポンジ)を標準装備したスピーカーも結構あります。

そういうスピーカーは、自分の好みで調整することが可能となります。 具体的には、ウレタンをダクトへ詰め込む長さを変えてやることで、低域の量感と全体のクリアさ、開放感などが変わってきますから、もしお使いのスピーカーにそういう調整用ウレタンがついていたら、一度実験してみられることを薦めます。

Words:Akira Sumiyama
Edit: Kosuke Kusano

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