ここは東京都千代田区にあるkudan house。 日本武道館からもほど近い東京の中心地に1927年に建てられたこの洋館は、2018年に「登録有形文化財」として登録されている。

今回、環境や空間と音楽体験の関係、そして可能性を探るべく、ここkudan houseにAlways Listeningで企画開発したオールインワンのアウトドア用サウンドシステム「OTOJU」を持ち込んだ。 協力してもらったのは、1stアルバム『ROMP』をリリースしたばかりのLAUSBUBの二人。 和と西洋の美意識が入り混じって共存するユニークな環境で、レコードを聴いたり、シンセサイザーやドラムマシンを鳴らしたりしながら話を聞いた。

※「高橋芽以」の「高」は「髙」(はしごだか)が正式表記となります

LAUSBUB(左から:高橋芽以、岩井莉子)
LAUSBUB(左から:高橋芽以、岩井莉子)

コロナ禍に結成され、音楽活動を通じて札幌の音楽シーンと出会い直すLAUSBUB

2021年初頭にSoundCloudにアップした「Telefon」が注目を集め、というLAUSBUBのブレイクポイントはよく知られるところですが、改めて当時のことを振り返ってみていかがですか?

岩井:本当に不思議な体験でした。 インターネット上で起こった出来事で二人とも実感が湧くまでにラグもありましたし、そもそも電子音楽があそこまでの規模で拡散されることってほとんどないと思うんです。 私たちの話というよりも電子音楽にまつわる現象として面白かったなと客観的に思います。

高橋:私は最初、「Telefon」がどれほどの可能性を持っているかも全然わかってなかったんです。 曲ができたときはすごくいい曲だなと思いましたけど、「友達が作った曲」という認識で、でもだんだん曲が広まるにつれて、(岩井)莉子がどういう文脈でこの曲を作ったのかを考えるようになって。 そういうことも含めて面白い体験でした。

そこから3年半の期間で、LAUSBUBの活動において一番印象的だったことは何でしたか?

岩井:まさにこれって感じではないんですけど、コロナ禍のすごくクローズな状況から世の中が全体的に開けていくのと同時に、LAUSBUBの活動範囲も広がっていった感覚があって、そうやって時代性を感じながら活動できたのはすごく貴重な体験でした。

私自身、音楽を作りはじめた頃はクラブとかライブハウスに行ったこともなかったので、だんだんライブ活動を活発にできるようになっていって「日本の音楽ってこんなに面白くて、本来こんなに盛り上がっていたのか」と感じていますね。

高橋:もともと私も、自分がクラブとかに行くなんて思ってなくて、札幌が音楽的にすごくユニークな街だってことも知らなかったんです。 でも今年、『札幌国際芸術祭 2024』のテーマソングをLAUSBUBで担当させてもらって、札幌という街を音楽活動を通じてもっと好きになれたことがすごく印象的でした。

AIR-G’ FM北海道でLAUSBUBの番組『Far East Disco』を持ったり、自分の生まれ育った土地と関係性が深まったり、というのはきっと音楽活動してなかったら体験できなかったでしょうね。

岩井:そうですね。 LAUSBUBの活動を通じて札幌の音楽シーンと出会い直している感じがあります。

築およそ100年の洋館にサウンドシステムを持ち込み、レコードなどを聴いてみた

1階・クラシカルルームにて(左から:岩井莉子、高橋芽以)
1階・クラシカルルームにて(左から:岩井莉子、高橋芽以)

今回、お二人にAlways Listeningで企画・開発したアウトドア用サウンドシステムOTOJUを体験いただきました。 会場として使わせてもらったkudan houseは、1927年に建てられたスパニッシュ様式の邸宅で、東京のど真ん中にありながら100年近くほぼ建築当時のままの姿を遺しているそうです。 建物の印象はいかがでしたか?

岩井:「木の梁と西洋のゲートがこんなにも両立するんだ」って衝撃が入口に入ったときにあって。 建物の中に入っても、あちこちから日本と西洋のいいとこどりな感覚が見て取れますし、ゆったりした空間に当時の持ち主の方のゆとりを感じますね。

高橋:各階の構造もすごく気になりました。 3階は空間を広く使っていて、2階は部屋数があって各部屋のインテリアにもすごいこだわりが感じられて。

岩井:たしかに、全体と細部が繋がっている感じがあったよね。

1927年に建てられた当時の人たちは今よりも海外との距離を感じながら生きていただろうに、この和と西洋のハイブリッド感は現代の視点から見ても先鋭的だし、すごく不思議な感じですよね。

岩井:すごい進んでいるなと思いました。

kudan house(写真提供:東邦レオ)
kudan house(写真提供:東邦レオ)
1927年竣工。 設計:内藤多仲、木子七郎、今井兼次。 登録有形文化財である「旧山口萬吉邸」をリノベーションした会員制のビジネスイノベーション拠点。 次世代のビジネスリーダー層を対象としたビジネスサロンの開催や会員企業の研修会、オフサイトミーティングなどの場として利用される。

そういった場所でOTOJUを使って音を鳴らした感想はいかがですか?

岩井:地下室でOTOJUを鳴らさせてもらって、音の反響感から部屋全体をもう楽器として扱っているみたいな感覚になりました。 シンセサイザーを鳴らしたときは、この空間そのものがプラグインみたいな印象もありましたね。

リスニングのときは音の指向性をこんなにも感じずに、でもLとRの定位感はあって、一体どこから音が鳴っているのかわからないけど、全体的に包まれている感覚になってすごく気持ちよかったです。 今まで何回も聴いてきた音源も新鮮に聴けて、新しい楽しみ方ができました。

高橋:莉子が言ったことは本当にそうだなって私も思って。 今までLとRで意識して聴いていたものが地下室の空気の音を含みながら聞こえて、それがすごく柔らかい質感だったので心地よかったです。

岩井:その空間の鳴りに合わせた曲をチョイスしたくなるというか、やりながら空間の特徴がつかめてきて、鳴らしたい音、曲も変わっていきました。

OTOJUは重箱をデザインソースに、Taguchiのスピーカー「HACHIDORI-REX」をベースにした4基の無指向性スピーカー、オーディオテクニカのレコードプレーヤー「AT-LP2022」、オーダーメイドで制作されたVUメーター付きのロータリーミキサー、サブウーファーを格納したオールインワンのアウトドア用サウンドシステム。 開発には、2010年から音響設計・サウンドシステム領域で活動するWHITELIGHTが携わった
OTOJUは重箱をデザインソースに、Taguchiのスピーカー「HACHIDORI-REX」をベースにした4基の無指向性スピーカー、オーディオテクニカのレコードプレーヤー「AT-LP2022」、オーダーメイドで制作されたVUメーター付きのロータリーミキサー、サブウーファーを格納したオールインワンのアウトドア用サウンドシステム。 開発には、2010年から音響設計・サウンドシステム領域で活動するWHITELIGHTが携わった

KAKUHANをはじめ、iPhoneやレコードからいろいろかけていましたが、体験としてどうでしたか?

岩井:KAKUHANはパンの振りが激しい曲を選んだので、LRというより「音の鳴る地点」がそこにあって、その周りで音が撹拌されてるような感覚になりました。 新しいインスタレーションみたいだなって。

アルバムのサウンドとシステムの相互作用で新しいふくよかさが生まれていましたし、無指向性スピーカーを使ったサウンドシステムのコンセプトにぴったりなリスニング体験でした。

高橋さんはupsammy(アプサミー)を選んでいましたね。

高橋:高音のシンセがスーっと鳴ってて、ベースの刻みが展開によって一気に入ってきたときに、部屋の中心で聴いていると飲み込まれるような感じがあって心地よかったです。

高橋:今日聴いたなかでは、アナ・ロクサーヌ(Ana Roxanne)が一番よかったなと思いました。

岩井:そうだね。 アルバムのなかで一番長いポエトリーリーディングが入っているドローンっぽい曲(「Venus」)をかけたんですけど。

高橋:低音がすごく気持ちよかったです。

なるほど。 レコードでかけたのも大きいかもしれないですね。

岩井:若干低音域が削られてたと思うんですけど、削られてなくなった部分が空間の鳴りによって復活したり、ちょっとイコライジングも変わっていて聴こえる部分があって面白かったです。

アナ・ロクサーヌの音源は特に、音の指向性が曖昧になったことでより引き立つところがあったというか、ヘッドホンではなく、こうした空間を感じられる場所でスピーカーから聴くことを想定した音楽かもしれないとすら思いました。

岩井:オープンな環境で聴いたのにかえってパーソナルに聴こえましたよね。 包まれているというか、膜に覆われているみたいな親密な感覚があって、「環境音楽」っていう音楽のあり方を考えさせられました。

レコードに教えてもらった、音楽そのものを大切にする感覚

そもそもスピーカーとヘッドホンでは音楽の聴き方も感じ方も、体験として別のものという感覚がありますよね。 最近、岩井さんは自室にGenelec 8010Aを導入されたそうですが、導入後どんな変化がありましたか?

岩井:今まで明らかに聴こえてなかった部分があったことに気づいて、すごいショックだけど感動、みたいな感じです(笑)。 「このスピーカーの前になるべくいたいな」って気持ちがあって、家で音楽を作る時間も聴く時間もすごく長くなりました。 ベストで聴けるポイントが定まっているのもあると思うんですけど、より音楽と距離が近くなったというか。

高橋:莉子の家のスピーカーで聴いたり、クラブで聴いたりとかすると、音楽体験として音が頭の中でどうイメージとして結びつくかの過程も全然違うと感じて。 スピーカーだとそうやって「自分が今、音楽を聴いている場所」に目が向きますよね。 私は普段はヘッドホンで聴いているので、やっぱり音楽体験として全然違うなって思います。

OTOJUのロータリーミキサーはライン入力も備えており、レコードプレイヤー以外にもスマートフォンやシンセサイザー、ドラムマシンなどのサウンドソースの接続にも対応している。 たとえば、iPhoneを2台接続したDJプレイも可能
OTOJUのロータリーミキサーはライン入力も備えており、レコードプレイヤー以外にもスマートフォンやシンセサイザー、ドラムマシンなどのサウンドソースの接続にも対応している。 たとえば、iPhoneを2台接続したDJプレイも可能

岩井:ヘッドホンはリバーブなどで広がりを感じることもできますけど、耳に直で入ってくるから情報的というか、よりマクロな印象で聴けると思うことが多いですね。 スピーカーやサウンドシステム、クラブのような場所で聴くと、空間とジャストで音がハマる瞬間もありますし、やっぱりヘッドホンで聴いたときとは違う新しい印象も発見できて作品の意図を新たに見つけ出せるなって思います。

今日はレコードもたくさん聴きました。 お二人とレコードの関係について教えてほしいです。

岩井:二人とも高校生のときから一緒にレコ屋へ行って買ったりしていたんですけど、そのときの好きってまだ好きじゃなかったんだなってぐらい今、好きですね。 札幌にはレコードをかけられる場所、「レコードをかける」という行為について考えさせられるようなイベントや空間がたくさんあるんです。

そういう場所での体験を通じて、音楽に対して正しい音量で、正しいタイミングでかけるだけのことがこんなに難しいんだってことが改めてわかりましたし、レコードというものを通じて音楽そのものを大切にする感覚を教えてもらいました。



レコードを交換したり、iPhoneから流す音源を切り替えるときも岩井さんは毎回ミキサーのつまみを絞って、レコードプレイヤーのアームも丁寧にあげていましたよね。 そういう所作に宿る何かがあるなと見ていて感じました。

岩井:レコードの溝に宿る想いというか、レコードって作家やカッティングした人のことを尊重したいなって気持ちにさせられる特殊な媒体だなと音楽を作る身として思いますね。

高橋さんはどうですか?

高橋:家でレコードを聴くのは私にとって日常のなかで特別な出来事で。 特別だからこそ私の場合は頻繁ではないんですけど、家でレコードを聴こうと思ってそこに至るまでの過程も特別なんです。

レコードで音楽がかかっている時間は家のなかで音楽が中心になりますし、そういうふうに普段の暮らしのなかに音楽があるという体験そのものが好きですね。

岩井:めっちゃいいね。



空間の響きや部屋の作り、建物そのものに影響を受けて即興マシンジャム

今回、こちらで持ち込んだハード機材をお二人に演奏してもらいました。 即興セッション的に10分ほどやられていましたが、kudan houseの環境でやってみてどうでしたか?

高橋:ノイズをああいう場所で鳴らすのがすごく新鮮でした。 あの空間で鳴らすなら声を使った表現、空間を活かした音楽を聴きたいなとイメージして、音楽を聴いていたんですけど、意外とノイジーな音も合うなと思いました。

岩井:最初、(高橋)芽以がシンセサイザーで音を出した音に喰らってしまって。 室内に入り込んできたセミが鳴いてる音と混ざり合って、シンセが鳴っているはずなのにジャングルにいるみたいな感覚になってすごく印象的でした。

高橋が使用したのは、Make Noise Stregaとstrymon NIGHTSKY
高橋が使用したのは、Make Noise Stregaとstrymon NIGHTSKY

高橋さんにはノイズ、ドローン系のシンセを使ってもらいましたが、ご自身のノイズや実験的なサウンドへの関心の背景について教えてください。

高橋:Ableton Liveを使いはじめたのと同時ぐらいにコラージュミュージックにハマって、ノイズとサンプリングがどう合わさると美しくなるのか、というところはWobbly(ウォブリー)とLesser(レッサー)っていうアーティストに影響を受けているなと思います。

すごく長い曲とかも多くて、あまり変化のない中にも突然ノイズの中にすごく美しいボイスサンプリングの繰り返しがあるとか、長い時間の中での流れの作り方がすごく好きですね。

高橋:あとは、90年代から活動しているフェリックス・クービン(Felix Kubin)っていうドイツのアーティストがいて、中学生くらいから音楽を作っている人なんですが、その人の初期作品のインダストリアル感はすごく自分の中でハマったというか。 最近の作品でも歌がすごく呪術的な雰囲気を帯びていて、その声とサウンドのインダストリアル感のバランスがすごく好きです。

岩井:全体的にキュートだよね。 キュートさのなかで成り立つハードコア、みたいなことを私も聴いていて感じます。

岩井さんはドラムマシンを使っていただきましたが、いかがでしたか?

岩井:触らせていただいた機材はシーケンスを組み上げていくのが正しい使い方かなと思ったんですけど、この場所で鳴らすならあえて音数を減らして、1音だけドンとキックを鳴らすのが楽しいというか。 ミニマルであればあるほど鳴りが映える空間だなと思って、普段とは違う音響にフォーカスしたドラムマシンの遊び方になりました。

機材を目の前にしたときはそこまで言語化できてないですけど、機材を触る前にレコードを何枚か聴いたなかで、リリースの短いエッジの効いた音のほうがこの空間をより感じられるなと気づいて、直感的に音を鳴らしていました。

岩井が使用したのは、Elektron Analog Rytm MK II
岩井が使用したのは、Elektron Analog Rytm MK II

LAUSBUBの楽曲制作においてハード機材の音はどのような位置付けですか?

岩井:アナログシンセサイザーは曲の中で本当に強調したい部分、メインの要素など使うべき箇所だけで使うようにしていて「使う意味」は常に考えます。

今はAbleton Liveの内蔵のシンセサイザーで作ることが多いんですけど、アナログシンセサイザーはパソコンで作る音だと出ないような、えぐみのあるフィルターの要素とかが魅力です。

あと脳とその機材がどれだけ結びついているかが大事で、そういうところもハード機材ならではの魅力だなと思います。 ハード機材を使うとアレンジ、演奏にも身体性が出るので、レコーディングでもリアルタイムで作ったものは大切にしたいですね。

岩井:私が音楽作りを始めたきっかけが、映像で見たハード機材のクローンのアプリケーションを動かして録音したいって思ったことで、やっぱりハード機材は最初の原点なので、ずっと使い続けたいなと思っています。

kudan houseという和と洋のハイブリッド感のある建築物のなかで演奏していただいたことで、何か感じられたことはありますか?

岩井:音を鳴らした地下室は建物のなかでも特に西洋と日本の要素が混じり合った空間で、掘り込まれた角ばった感じ、ボイラールームが隣にあったりしてインダストリアルな雰囲気もあって。 それに地下のちょっと湿った空気もあって、そういう環境に影響を受けたアレンジというか音の出し方になっていたのかなと思いました。

2階は区切られた部屋がたくさんありましたけど、そこでやっていったらもう少し箱庭的な表現というか、シーケンサーを組み立てるようにドラムマシンを使っていく感じになったかもしれないですね。

2階・和室にて
2階・和室にて

高橋:私は建物の第一印象として空間的なゆとりや新しさがあるなと感じたんですが、そこに日本人の視点、日本の建築家の感覚のようなものを感じて。

岩井:不思議な居心地のよさがあったよね。 ただ広いだけじゃなくて、「狭いところも好きだよね」みたいな感覚が感じられて、それってもしかしたら日本的なものなのかなって芽以の話を聞いて思いました。

高橋:あと半地下っていうのもありますけど、莉子が言うように冷たい感じもありましたし、奥に茶室があったじゃないですか。 空間としてすごく異質だなと思いましたし、そういう環境で音楽体験できたのはすごく面白かったです。

岩井:やっぱり西洋と日本の要素のミックス具合がすごく独特で、建築だけどリファレンスになるというか。 もしkudan houseに滞在させてもらって制作したら、新しいのか古いのかわからないみたいなサウンドになりそうだなと思いました。

地下にある茶室にて
地下にある茶室にて

kudan houseからは「日本の建築とは何か」を追求する当時の建築家の野心、思想や視点も感じられて、その感覚は音楽に落とし込むこともできそうですよね。

岩井:たまたま昔から親しまれてきた和楽器と関わる機会もあって、そういうことを最近より考えるようになったんですが、「外側から見た日本」みたいなものはもう十分表現され尽くしているような気がするんです。 だからむしろ、「実はこうだったんだよ」みたいな日本の側面を出すことで、新しくが開ける何かがあるのかもしれないなってことも今すごく考えています。

「札幌の風土感」が無意識的に溶け込んだ1stアルバム『ROMP』

2階・バスルームにて
2階・バスルームにて

LAUBUBは1stアルバム『ROMP』を発表されたばかりですが、ここに至るまでで、岩井さんと高橋さんに影響を及ぼした作品や作家など、指針になったものについて教えてください。

高橋:レコーディングに向けて「どう自分のなかでエネルギーを膨らませるか」という点で、トーキング・ヘッズ(Talking Heads)のライブ映画『ストップ・メイキング・センス』を観たのは大きかったです。 アルバムを作るっていう目標があるなかでこの作品を観て、自分の中の音楽への愛情とか、音楽に向かうエネルギーが爆発して。 歌はそれぞれリファレンスがあるんですけど、精神的な部分では大きい体験でしたね。

岩井:「Sweet Surprise」は私が入れた仮歌がデヴィッド・バーン(David Byrne)のものまねみたいな感じで、「ちょっと違うよね」ってなってテンションを落として今の形になっています(笑)。

岩井さんはいかがですか?

岩井:私はフットワークとの出会いが大きかったです。 成人して初めて芽以と一緒に「Salon タレ目」っていう札幌のバーに行って。 今年の初めあたりだったと思うんですけど、たまたまDJ Manny(DJマニー)っていうシカゴフットワークの人の最新作が流れていて、それを聴きながらお酒飲んでいたら、「なんだこれ、すごい!」ってお酒どころじゃなくなってしまって。

スピード感と情緒というか、ドラマチックな瞬間がありつつもすごく速くて踊れる、みたいなフットワークの魅力にそのとき初めて出会ったんです。

どうしてフットワークがそんなに響いたんでしょうね。

岩井:フットワーク / ジュークに入ってるサンプリングのパンの振り方もそうですし、あと最近、生音のパーカッション系とか、南米の音楽とか、風土的な要素を含んだエキゾチカ的なものを改めて掘り進めていたなかで「新しい回答」を感じたんだと思います。

LAUSBUBとして日本の風土、あるいは札幌、北海道の風土と音楽みたいなことを意識することはありますか。

岩井:意識することが本当に最近増えてきました。 一歩引いて外側から北海道のシーンを見つめるようになったのもありますが、今作はあまりそういったことを考えずにやっていて。 でも考えずにやってもやっぱりどうしても札幌っぽくなってしまうんです。 東京で制作した曲もあったんですけど、それを聴いてもなんだか冷たくて、ちょっと暗い質感があるんですよね。

YMOをひとつの原体験によりエクスペリメンタルなものや、クラブミュージックからの影響も加わって今のLAUSBUBのサウンドが構築されていると思うのですが、『ROMP』を聴くと、「歌」がある曲でも「声」の扱い方が独特に感じました。 LAUSBUBにおける「声」や「歌」はどのような位置付けなのでしょうか。

岩井:楽器やシンセサイザーの音と歌をかけ合わせるにあたって、楽器とすべてのアレンジ込みで聴いてもらいたいと活動をはじめたときから考えています。 歌とバックトラックみたいな考え方ではない、というか。 それは芽以のボーカルだから何とかなっているところもあるんですけど。

たとえば「Michi-tono-Sogu」だと、中盤から後半にかけての展開で、ベースシンセと高橋さんの歌がセンター付近でせめぎ合っているように受け取れました。

岩井:そこはただのフェチなんですけど、アートポップとかアヴァンポップあたりの人がやるような「歌を余裕で邪魔する要素を入れる」みたいな瞬間が好きで、それもボーカルがしっかりしている曲であるほど個人的にグッとくるんですよね。

岩井:私の好みで今こういう状態になっていますけど、しっかり歌として聴かせるタイミングはもう少し後でも許されるんじゃないかなと思っていて。 アルバム全体で言うと、「Telefon」とか「TINGLING!」は印象的なメロディーがあって、歌のパワーは十分に表現できているし、『ROMP』では歌とサウンドが対等にあるような曲作りを意識していました。

高橋:自分で聴いていても、すごく絶妙なバランスだなと思います。 もともと曲を作る段階、レコーディングの段階で、「ここは歌だ」ってところは一生懸命歌うんですけど、意識としては「アクセントをこうつける」「ここはこういう緩急で歌う」っていう細かい要素がすごく大きいなと思っていて。

レコーディングでも莉子が私の歌を「音」として扱っているのは感じますね。 歌が曲のなかで他の音と同等の位置づけられていることによって、自分の歌に対してまた違った視点を与えてもらいます。 難しいところなんですけど、すごく気に入っています。

インタールードを織り交ぜたDJ的な視点が入った構成であったり、声の扱い方であったり、『ROMP』で現時点でのLAUSBUBのサウンドの個性が確立された感があります。 今後、LAUSBUBはどうなっていきそうでしょうか?

岩井:1stアルバムを作り終えて、今はもう「曲」というよりは歌にフォーカスして作ろうってタイミングでもありますね。 あとはモニタースピーカーを導入したおかげで「聴こえること」にすごく楽しさを覚えて、音楽作りでもクリーンに聴こえるからこそ、細かい部分に気を配って、もっと作り込んでいきたいです。 制作の段階からミックスを意識したほうがいいんだなということに気づいて、作曲する人間として「どう聴かせるのか」ってところまで関わるべきだし、ちゃんと音響の勉強をしていきたいなと思っています。


LAUSBUB

2020年3月、北海道札幌市の同じ高校の軽音楽部に所属していた岩井莉子と髙橋芽以によって結成されたニューウェーブテクノポップバンド。 2021年1月18日、Twitter投稿を機に爆発的に話題を集め、SoundCloudで全世界ウィークリーチャート1位を記録。 AIR-G’ FM北海道でオリジナルプログラム『Far East Disco』の担当、『札幌国際芸術祭2024』テーマソングを担当するなど活動の幅を広げる。 2024年7月、1stアルバム『ROMP』をリリースした。 9月には初めてのワンマンツアーを東京、愛知、大阪、北海道の4カ所で開催する。

X

OTOJU by Audio-Technica
Product & Sound Design:WHITELIGHT
Mixer Design:Katagiri Repair&Remake Service
Production:Taguchi
Concept Design:epigram inc.

Interview & Edit:Shoichi Yamamoto
Photo: Hayato Watanabe
Cooperation:kudan house