Face Recordsからのおすすめレコードを毎月お届け。 「Face Records 創業30年を振り返って」という記事を7月・8月にご紹介しましたが、2018年、Face Recordsはニューヨーク・ブルックリンにも店舗を構えました。 海外のお客様にはどんな邦楽レコードが人気なのでしょうか?

また、国内の人気盤と違いはあるのでしょうか?ニューヨーク編と国内編に分けて、Face Recordsの藍隆幸さんがご紹介します。

外国人から注目されている邦楽

世界中での邦楽人気の高まりを受けて、Face Records NYC店では邦楽のレコードがとても人気です。 お客様の99%くらいがアメリカ国内や海外からわざわざ来店される外国人の方です。 海外での邦楽人気は5~6年前からずっと高いのですが、人気のタイトルには年々変化が見られます。 YouTubeやTikTokで紹介された影響がある他、Spotifyなど配信サービスのAIによるレコメンド機能が邦楽注目の一助になっているのではと思われます。

Face Records NYC店 人気のトップ5
1.山下達郎 『FOR YOU』
2.杏里 『Timely!!』
3.竹内まりや 『ヴァラエティ』
4.松原みき 『Pocket Park』
5.CASIOPEA 『MINT JAMS』

これらのアルバムが当時発売された頃の日本での状況や印象などと共に曲をご紹介します。

1位 山下達郎 『FOR YOU』(1982年) より、「LOVE TALKIN’ (Honey It’s You)」

山下達郎 『FOR YOU』(1982年) より、「LOVE TALKIN' (Honey It's You)」

Wikipediaによると、リズム制作先行で作曲されたとのこと。 山下達郎のリズム隊と言えば、真っ先に青山純(ドラム)、伊藤広規(ベース)の名前が出るくらい、山下達郎の楽曲を象徴する存在です。 この鉄壁のリズム隊が誕生したのは1979年、翌年のアルバム『RIDE ON TIME』から本格的に参加。

この曲のリズムはスタジオにこもって毎日の様にリズム・パターンを考えている中から生まれてきたものだそうで、繰り返されるねばっこいリズムは何度聴いても飽きません。

2位 杏里 『Timely!!』(1983年) より、「WINDY SUMMER」

杏里 『Timely!!』(1983年) より、「WINDY SUMMER」

アルバム1曲目「CAT’S EYE」から2曲目の「WINDY SUMMER」へのつなぎ部分にサウンド・プロデュースを手掛けた角松敏生のセンスが光るエバーグリーンな夏ソング。

発売された当時はもちろん「シティポップ」などといったこれらをくくるカテゴリーのネーミングは無かったものの、センスのある音楽通の間では「日本版AOR」「日本版アダルト・コンテンポラリー」的な感じで受け止められていました。 この頃のおしゃれな曲には、ファンの中心だったサーファー達が好む夏や海をテーマにした曲が多いのです。 「夏だ!海だ!タツローだ!」も当時日本にサーファーやアメリカ西海岸のカルチャーが根付いて無かったら存在しなかった言葉だと思います。

3位 竹内まりや 『ヴァラエティ』(1984年) より、「Broken Heart」

竹内まりや 『ヴァラエティ』(1984年) より、「Broken Heart」

竹内まりや、杏里、松原みきはデビュー当時、歌謡曲なのかニューミュージックなのか、シンガーソングライターなのかリスナー側では受け止め方が分からず、これからどんなアーティストになるのか想像がつかない存在という印象でした。 竹内まりやは4枚目のアルバム『Miss M』でロサンゼルス録音を行い、AOR系のジェイ・グレイドン(Jay Graydon)とデイヴィッド・フォスター(David Foster)が参加したあたりからカッコいいポップスのベクトルがはっきりしてきたように思います。 その後、音楽活動休止があって復帰した本作『ヴァラエティ』では山下達郎をプロデューサーに迎えて、本格的にシンガーソングライターとしてのスタンスが明確になりました。

4位 松原みき 『Pocket Park』(1980年) より、「愛はエネルギー」

松原みき 『Pocket Park』(1980年) より、「愛はエネルギー」

「真夜中のドア~stay with me」はもう語る必要が無いほど有名になってしまっているので、同アルバムの中から別の名曲「愛はエネルギー」をご紹介します。

松原みきはデビュー当時、一部の音楽通の間では有名でしたが、誰でも知っているという存在では無かったと思います。 当時、私が女子大の学園祭に遊びに行った時、学生バンドが「真夜中のドア~stay with me」をカバーしているのを聴いて同曲が好きになり、すぐにレコードを買いに行ったのを思い出します。 その後、「ニートな午後3時」が資生堂 ’81春のキャンペーンソングに使われてかなり知られる存在になりましたが、同曲が収録されている3枚目のアルバム『―Cupid―』では、アメリカのレーベルMotown(モータウン)のフュージョン・バンド、ドクターストラット(Dr. Strut)がサポート。 ジャージーな歌声と曲のカッコ良さと併せて更に大人の音作りが完成しています。

5位 CASIOPEA 『MINT JAMS』(1982年) より、「Take Me」

CASIOPEA 『MINT JAMS』(1982年) より、「Take Me」

シティポップ人気の流れから、最近外国人の方の人気に火が付いているのは邦楽フュージョン。 中でもCASIOPEA、高中正義はとても人気です。 当時の邦楽フュージョンはライトなものが多い中、カシオペアの曲はグルーヴ感のあるノリが心地よい。 その魅力が外国人にも受けているのではと思います。 同アルバムに入っている「Midnight Rendezvous」「Swear」のグルーヴ感もいい感じです。

NYC店の人気タイトルを眺めて分かってきたこと

NYC店で売れている5位までのアルバムを聴くと共通して「グルーヴ感」を感じるものが多い印象です。

もう20年近く前、音楽を聴くツールとしてiPodが主流だったころ、アメリカのヒットチャート「Billboard」の1964年1月から1983年12月までの20年間にトップ40にチャートインした曲を全てiPodに入れるという挑戦をしたことがあります。 6,000曲くらいあったと思いますが、それらを集めて聴いてみて「想像している以上にブラックミュージックの存在・影響は大きい」ということを感じました。 (他にも興味深いことが分かるので、また詳しいことをご紹介する機会を作ってみたいと思います)

多様性の国、アメリカのポピュラー音楽はどんな時代でもブラックミュージックの存在抜きでは語れませんし、グルーヴ感のあるリズムが好まれることも事実だと思います。 (もちろん例外もありますが)さらにそのアメリカのポピュラー音楽に影響を受けた邦楽アーティスト達が作った70~80年代の音楽に独特のグルーヴ感を感じて、それが魅力となっているのでしょう。

今、アメリカ人を中心とした外国人が邦楽中古レコードに求めているものは「80年代邦楽のグルーヴ感」ではないかというのが私の仮説です。

後半【国内編】に続く

Face Records

Face Records

”MUSIC GO ROUND 音楽は巡る” という指針を掲げ、国内外で集めた名盤レコードからコレクターが探しているレアアイテムまで、様々なジャンル/ラインナップをセレクトし、販売/買取展開している中古盤中心のアナログレコード専門店。 1994年に創業し、現在は東京都内に3店舗、札幌、名古屋、京都に各1店舗、ニューヨークに1店舗を展開。 廃棄レコードゼロを目指した買取サービスも行っている。

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Words: Takayuki Ai