渋谷区宇田川町を皮切りに日本全国、そして海を越えてニューヨークにも店舗を展開し、日々レコード文化を発信し続ける〈Face Records〉は今年6月に創業から30周年を迎えた。
Always Listeningでは毎月、Face Recordsからのおすすめレコード情報をお届けしている。 前編に引き続き今回も、創業当時から30年(開業前を含めるとそれ以上)もの間、常にレコードに携わってきた代表取締役社長の武井進一さんにとって、特に印象深いレコードをご紹介いただいた。
前編はこちら
Earth, Wind & Fire「Runnin’」(1977年)
アース・ウィンド・アンド・ファイアー(Earth, Wind & Fire)といえばディスコというイメージが強くて、レコードの知識が無かった若い頃はなんだか軟弱な感じがして真剣に聴こうとしなかったですね。 リアルタイムな世代でもなかったのでずっと聴かず嫌いだったんだけど、「あれ?これ聴いてみたらめちゃくちゃいいじゃん!」と気づいたんです。
「Brazilian Rhyme」とか、「Zanzibar」とか、ブラジルのカバーを演っていることも分かって、勉強不足だったことを思い知らされました。 アース・ウィンド・アンド・ファイアーほど影響力があって奥深いバンドは無いなと思った。 「Get Away」とか、めちゃくちゃかっこいいファンクで、例えばどこか知らないレーベルから7インチで出ていたら本当に何十万円も値段がついてもおかしくないくらいレベルが高い。 レコードは見た目で判断しちゃダメだなと、実際に聴いてみたりしないとレコードって分からないということが良く分かりました。 先入観に惑わされず聴いてみることの大切さを学んだアーティストです。
The Marvels「Rock Steady」(1971年)
ソウルやジャズをカバーしたレゲエが大好きなんです。 これはファンキーなレゲエだけど、こういう楽曲って結構あるんです。 その中でも一番好きな曲です。 マーヴェルズ(The Marvels)はジャマイカ出身でイギリスで活動するレゲエアーティストで、これはアレサ・フランクリン(Aretha Franklin)のカバーです。
DJをよくやっていた30年前ごろ、よく私自身のDJでかけていましたね。 その他にもジェニファー・ローラ(Jennifer Laura)の「Sukiyaki」など、カバーのレゲエが大好きでカバーばかり買っていました。
ところで、ジャマイカのレゲエのシングルレコードはB面にDUBバージョンやインストバージョンが入っていることが多いですが、そのB面を使って、勝手にボーカルやラップ風な韻を踏んだ歌詞を乗せて(トースティングと呼ばれる)いるものが沢山あります。 これがラップの元祖とも言われています。
Ben Sidran「About Love」(1971年)
ベン・シドラン(Ben Sidran)はロックだけどブラックフィーリングのあるグルーヴィーなアメリカのシンガーソングライターです。 この曲はロンドンを拠点に活動して世界中に大きな影響力を持つDJ、ジャイルス・ピーターソン(Gilles Peterson)がラジオでかけたりして人気が出ました。 また、日本のクラブ音楽シーンに重要な影響を与えた「Free Soul Underground」というイベントでもすごく人気がありました。 このレコード、前はよく見かけたけど、最近は見つけるのが難しくなりましたね。
The Lyman Woodard Organization「Creative Musicians」(1975年)
90年代、デトロイトの小さなレーベルStrata Records(ストラタ・レコード)からリリースされたレコードです。 このライマン・ウッダード・オーガニゼーション(The Lyman Woodard Organization)のように、まだ世に知られていない小さなインディレーベルのレコードをアメリカで見つけて仕入れることがチャレンジで楽しかったんです。 アメリカでも当時このレコードを知っている人はあまりいませんでした。
ジャケットが白黒デザインで情報もほとんど書かれていないからなんだかよく分からない。 「ジャケットがかっこいいけどなんだろうこれ?」と思って買って聞いてみたらすごくかっこ良くて仕入れたのが最初だった。 その後UKのDJも掛けるようになって広まったんだと思います。 30年前は1万円くらいで売っていたけど、いまは10万円以上はする相場になっていますね。
Edna Wright「Oops! Here I Go Again」(1977年)
アメリカの R&B、ソウル・ガール・グループ、ハニー・コーン(Honey Cone)のリードシンガーエドナ・ライト(Edna Wright)のソロ作品です。 30年前ソウルを勉強していたときにソウルコレクターの人から教えてもらって扱うようになりました。 Face Recordsを法人化する苦労した時期の思い出と重なる、思い出深い曲なんです。
Archie Whitewater「Cross Country」(1970年)
ロック寄りのエッセンスを持った曲です。 HIP HOPアーティストのコモン(Common)が”Chapter 13 (Rich Man Vs. Poor Man)”という曲でサンプリングしています。 1990年代、HIP HOPやサンプリングによる楽曲制作が一般的に認知、人気を集めだすと、サンプリングのネタ元レコード探しをする人が増えました。 僕がFace Recordsを立ち上げた頃、先輩のレコード店で夜にバイトしていたんですが、夜9時になると現れる「夜9時の男」と呼ばれていた人がいて、いつもロックのレコードを何か1枚買っていく。
ある時、「その人が買っているレコードって何なんだろう?」と興味がわいて、聞いてみたら全てサンプリングネタ元のレコードだったんです。 そのお客さんは、デヴィッド・アクセルロッド(David Axelrod)や、このアーチー・ホワイトウォーター(Archie Whitewater)など、ロックでサンプリングネタになっているものをいち早く探していました。
アーチー・ホワイトウォーターはCadetというブルース主体のレーベルから出ていて、もともとのプレス枚数が少なくてアメリカでもなかなか見つけるのが難しかった1枚です。
サンプリングといえば、U.F.O.(United Future Organization)というグループがいて、先日メンバーの矢部さんがお亡くなりになられたんですが、松浦さんという方と、ラファエル・セバーグ(Raphael Sebbag)というメンバーがいて、皆凄くおしゃれで、凄くレコードに詳しかったんです。 そのU.F.O.に「Loud Minority」という超名曲があって、ミシェル・ルグラン(Michel Legrand)の「La Pasionaria」をサンプリングしています。 そのトークの部分はまた別のアーティスト、フランク・フォスター(Frank Foster)の「The Loud Minority」からサンプリングしている。 さらにロニー・スミス(Lonnie Smith)の「The Call of the Wild」からリズム部分を、トランペットソロはアート・ブレイキー(Art Blakey & the Jazz Messengers)の「A Night in Tunisia」の後半のパートのリー・モーガン(Lee Morgan)のソロの一部のを「よくこれ見つけたよな!」という部分をサンプリングして印象的なフレーズに仕上げていて、ジョージ・クレーター(George Crater)の「The Jazz Night Club Scene」からスピーチ部分をサンプリング。後半のドラムブレイクの部分もグラント・グリーン(Grant Green)のサントラ「The Final Come-Down」から使われていて、ジャズの曲のサンプリングだけで作っている曲なのにとにかくかっこよかった。 こんな古いジャズの曲の一部だけをサンプリングして再構築したジャズの曲は、他に無いと思います。
このサンプリングの元ネタを集めたプレイリストを作りました。 気になった方はぜひ聴いてみて下さい。
その後、Kyoto Jazz Massiveの沖野さんはサンプリングだけじゃなく、そこに生演奏を入れて曲を作った。 2023年10月にFace Recordsの京都店がオープンした時、沖野さんにDJをしていただいたのですが、その時、沖野さんと一緒に記念撮影しました。 その時、僕はマンハッタン・フォーカス(Manhattan Focus)のレコードを持って写ったんだけど、それには意味があって、沖野さんが監修をしたコンピレーションアルバム『Kyoto Jazz Massive』に入っているMondo Grossoの「Vibe・P・M (Jazzy Mixed Roots)」という曲でマンハッタン・フォーカスの「Mixed Roots」という曲がサンプリングされている。 沖野さんは80年代後半からレコードをむちゃくちゃ持っていて詳しいし、この人は本当にすごいなと思っていた。 沖野さんとラファエル・セバーグは本当にすごかった。 彼らのようなすごい人に認めてもらいたくて頑張ってきた30年でした。 こんなすごい人よりもレコードに詳しくなりたいと思って、ジャズ、フュージョン、ソウル関連はとにかく聴きまくって勉強してきて、だから今の僕があるんです。
Face Recordsを象徴するレコード
前編と後編にわたり、11枚のレコードを紹介してきました。 これまでの歴史で星の数ほどのレコードに出会ってきた武井社長からこれまでにご紹介いただいたストーリー以外にも、このレコードたちには特別な縁があるのだとか。 改めて11曲のリストを眺めてみて…その ”縁” がわかる ”仕掛け” が隠されていることにお気づきでしょうか?
「Free Soul」
「About Love」
「Cross Country」
「Everybody Loves The Sunshine」
「Runnin’」
「EL BOBO」
「Creative Musicians」
「Oops! Here I Go Again」
「Rock Steady」
「Dominoes」
「Sweet Power of Your Embrace」
気づいた人もそうでない人も、レコード探しの際はFace Recordsをチェック。
武井進一
1994年、24歳で中古レコードの通信販売を個人でスタート。 1996年、渋谷に中古レコード店Face Records1号店をオープン。 2001年に法人化し、2016年からFTF(エフティエフ)株式会社に商号を変更。 2018年にはニューヨークに出店。 国内でも2023年以降、札幌、名古屋、京都に店舗を展開。 好きなジャンルはレゲエとジャズ。 2024年6月に創業30周年を迎えた。
Face Records
”MUSIC GO ROUND 音楽は巡る” という指針を掲げ、国内外で集めた名盤レコードからコレクターが探しているレアアイテムまで、様々なジャンル/ラインナップをセレクトし、販売/買取展開している中古盤中心のアナログレコード専門店。 1994年に創業し、現在は東京都内に3店舗、札幌、名古屋、京都に各1店舗、ニューヨークに1店舗を展開。 廃棄レコードゼロを目指した買取サービスも行っている。
Words: Shinichi Takei
Words: Takayuki Ai & May Mochizuki