旅先や日常を映像や写真ではなく、音で記録する「フィールドレコーディング」。 スマートフォンで始めるもよし、本格的な機材を用いて音を拾いに行くもよし。 どんな機材を使うにしても、できれば上手に録音したいものですよね。 そこで今回はフィールドレコーディングのコツについて、音楽家、録音エンジニア、オーディオ評論家の生形三郎さんに解説していただきました。

人間の耳と機械のマイクでは音の捉え方が違う

理想的なサウンドでフィールドレコーディングをするには、抑えておきたいポイントがあります。 それは大きく分けて2つで、「その場所で鳴っている音をしっかりと把握すること」と、「余計なノイズの混入を避けること」です。

実際に録音してみると分かりますが、いざ録音した音を聴いてみると、イメージと少し違った、ということが往々にして起きます。 これは、人間の耳の音の捉え方と、マイクの音の捉え方の違いによるものです。

人間の耳は、聴きたい音にフォーカスして取捨選択してくれる機能(カクテルパーティー効果)がありますが、マイクは、届いた音は取捨選択せず一律に拾います。 それによって、不要な音までが入ってきて、録ってみたらイメージと違った、ということが起きます。 それを避けるためには、注意深く音を聴いてみることが必要です。

鳴っている音をしっかりと把握しよう

いまその場に存在する音は、どんな種類の音が組み合わさって鳴っているのか? それらの音は、それぞれを分類していくといくつ存在していて、それぞれはどの場所から鳴っているのか、そして、その場所でどのように響いて全体の音を構成しているのか。 それらをしっかりと確認してから、イメージ通りの音のバランスで鳴っている場所にレコーダーやマイクを置いて録音すると、うまくいくはずです。


その場の音を把握するためには、まずは「目を瞑って」音を聴いてみてください。 視覚情報を遮断して音だけに集中すると、より客観的に音を把握できるはずです。 そして、場所を微妙に変えたり、立ったりしゃがんだりして高さを変えたり、自然音の場合は、時間や天候によっても大きく音や響きが変わってきますので、さまざまに試して聴いてみてください。

風による「吹かれ」音の対策をする

フィールドで録音すると、時として、望まない音が録音されてしまいます。 そのひとつで、フィールド録音の大敵であり難敵が「風」の存在です。 マイクは構造上、風の吹かれに弱く、僅かに風が吹いているだけでも、「ゴゴゴ」や「ボボボ」といった吹かれノイズが収録されてしまいます。

よって、これを軽減するための工夫やアイテムの使用が欠かせません。 風対策アイテムは、「ウインドシールド」や「ウィンドジャマー」などと呼ばれ、風の吹かれを軽減してくれます。 大概のマイク内蔵レコーダーやマイクには、ウレタンスポンジで出来たウインドシールドが付属しているので、もっともベーシックな対策としては、それをマイクの上から被せることで吹かれノイズを軽減します。

ZOOM「H1n」
ZOOM「H1n」

また、ウインドシールドの上から薄い布などを巻くことで、さらにノイズを軽減させることもできます。 布を被せるため音は少し籠もってしまいますが、透過性の良い薄くて目の粗い布(ネット状のもの)を巻くことで、物理的に風を軽減できます。 それから、ウインドシールドの一種として、「ウインドジャマー」と呼ばれる動物の毛皮のような細い毛がついたタイプもあります。

RODE「WS7」
RODE「WS7」

ウインドシールドでもっとも強力なのが、「鳥カゴ」と呼ばれるアイテムです。 テレビのロケなどで、音声さんが長い棒の先にマイクをつけて持っている風景を見たことある方も多いと思いますが、あれがまさに「鳥カゴ」と呼ばれるものです。 あの筒状のカゴの中には、マイクがゴムで吊るされた状態で収まっており、風や振動からマイクを守ってくれているのです。

(上)「鳥かご」ことウインドシールド。 写真は、RODE「Blimp」。 持ち手の部分を手で持つことはもちろん、細長いポールを取り付けて持つことも可能。 この上にウインドジャマーを被せて使うことで、さらに風を軽減できる。 (下)ウインドシールドの中に吊り下げるガンマイク。 写真はSENNHEISER「MKH416-P48U3」。
(上)「鳥かご」ことウインドシールド。 写真は、RODE「Blimp」。 持ち手の部分を手で持つことはもちろん、細長いポールを取り付けて持つことも可能。 この上にウインドジャマーを被せて使うことで、さらに風を軽減できる。 (下)ウインドシールドの中に吊り下げるガンマイク。 写真はSENNHEISER「MKH416-P48U3」。

このアイテムはお値段が高くなりますし大きさも大きいため、筆者は同様の効果が得られるものを自作してフィールドレコーディングに使っています。

物理的に、あるいは電気的に吹かれ音を軽減する

それらをもってしても強い風には対応しきれない為、そのような場合は、物理的にまたは電気的に軽減する方法が手軽です。 物理的に軽減する方法は、手軽なやり方としては、風に吹かれにくい場所を探すことです。 例えば、高さを低くして地面から近くにレコーダーやマイクを置くことで風は少し弱まります。


電気的な軽減方法としては、レコーダーのローカット機能を使うやり方がもっとも手軽です。 機種にもよりますが、例えば80Hz以下、100Hz以下、120Hz以下を軽減するローカット機能がついています。 この機能をONにすることで、風の吹かれを軽減させることができます。

この周波数が上がるほど軽減効果が強まりますが、その反面、低い音がカットされることになるので、音としては軽くなります。 よって、実際にローカット機能をONにして録音し試してみてから、求める音質や録音対象によって切り替えるとよいでしょう。 編集操作が可能な人であれば、録音後にイコライザーやフィルターなどのエフェクトを適用することでも対応可能です。

自分がノイズにならないように注意

一方で、録音者自身が出してしまうノイズも不都合な場合があります。 それが、「ハンドリングノイズ」などの人為的なノイズです。

その名の通り、レコーダーやマイクを手に持ったときに発生してしまうノイズです。 手で握っている振動そのものが伝わって、低い音として記録されてしまいます。 人間の皮膚には、血流や筋肉の動きなどで、常時、微かな振動が起きているからです。


これを避けるには、レコーダーやマイクを三脚に固定するといった方法が手っ取り早いです。 また、どうしても手に持たなければならない場合、タオルを介して持つなどでも軽減可能です。

また、同一場所で長時間録音する場合、静かな場所では、レコーダーやマイクの側にいると、僅かな衣擦れや動作の音、呼吸の音などが記録されてしまいます。 これも、三脚に固定して、録音中はレコーダーやマイクから距離を取ることで解消できます。 とりわけ長尺の素材を録音する時は、これらの対策が必須となるでしょう。

その他のノイズにも気をつける

その他のノイズとして、クロマやバイクのロードノイズの存在が挙げられます。 録音を実践してみるとわかると思いますが、よほどの山奥や孤島のような場所にいかない限り、遠くを走る車の音などが意外にも大きくマイクに入ってきてしまうと思います。 とりわけ、小さい音を録ろうとすればするほど気になってきます。

これは、以前の記事でご紹介したマイクの「指向性」とも強く関係してきて、すべての方向から音を拾う「無指向性」のマイクほど、車の音なども拾い易くなります。 逆に、ショットガンマイクのように、指向性が強いほどマイクの向きで対処しやすくなります。

よって、車の音などがどうしても入りやすい場所では、「無指向性」以外のマイクを使って、なるべく上方、つまり空にマイクを向けることで軽減することが出来るので、車やバイクの音で悩まされる場合はお試しください。


以上のように、イメージ通りに音を記録するためにまずは音をよく聴くこと、そして、様々なノイズを避けることで、理想のフィールドレコーディングが可能になります。 ぜひとも実践してみてください。

Words:Saburo Ubukata

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