近年、費やした時間に対してどれだけの効果を得られたかを示す「タイパ(タイムパフォーマンス)」が話題となっています。 とりわけ、仕事や学習においてタイパは重要なポイント。 タイパを高めることが、生産性や成果の向上にもつながります。 タイパと生産性を高める手段はいくつかありますが、多くの方にとって身近で実践しやすいのが「音楽を聴くこと」です。 実際に「お気に入りの音楽を聴きながら仕事や学習をしたら効率がよかった」という経験がある方もいるのではないでしょうか。 これは、気のせいでもなんでもなく、脳科学と心理学の研究からも正しいことが明らかになっています。 ここでは、音楽とパフォーマンスの関係を、仕事や勉強で成果を上げた実例とともに紹介していきます。

音楽が与えるポジティブな影響

いきなりですが、あなたのデスクには、どんな音楽が流れていますか? 作業中の音楽が脳の働きに影響を与え、生産性を左右することが科学的にも明らかになっています。 具体的にどのような効果があるのでしょうか。

1:集中力の向上

音楽や環境音などを流すことで、騒音を聴こえにくくする「マスキング効果」と、音楽自体に意識が向く「注意の移転」が働くことで、集中力を高められます。 音楽が騒音をかき消して、集中しやすい環境を作ってくれるのです。 日本の研究チームの調査では、作業内容や個人差によって効果は異なるものの、歌詞のない音楽や雨音、波の音のような自然音はマスキング効果が高いことが分かっています。 また、クラシック音楽は小音量で高いマスキング効果が得られるという実験結果も出ています。

2:モチベーションアップ

音楽にはモチベーションをアップしたり、幸福感を高めたりする効果もあります。 海外の研究では、聴く楽曲のタイプによって感情的に影響を受けることが分かっています。 具体的には「楽しい楽曲」には、聴くことで自信を高めたり、マインドやモチベーションを高めたりする効果があるそうです。

音楽にはモチベーションをアップしたり、幸福感を高めたりする効果もあります

3:想像力の向上

音楽を聴くと、脳全体が活性化されます。 特に思考を司る「前頭前皮質」、学習に影響の大きい「海馬」、感情に関わる「扁桃体」などの領域が活性化され、これが新しいアイデアや創造性につながります。 絵や文章を書いたり、アイデアを考えたりといった、想像力を働かせたいときに音楽を聴くと良いものが生まれるかもしれません。

音楽がネガティブに影響することも

音楽を聴くことでタイパや生産性にプラスに働くことばかりではありません。 使い方を間違えるとマイナスに作用することもあります。

1:集中力の低下

歌詞のある音楽を聴いている場合、歌詞に意識が向いてしまい、注意力が散漫になる可能性があります。 特に次のようなケースでは要注意です。

・内容が複雑な歌詞
・覚えやすいメロディーにのせた歌詞
・感情移入しやすい歌詞

2:作業スピードの低下

作業内容と音楽のジャンルやテンポが合わない場合、作業効率やスピードが低下する懸念があります

作業内容と音楽のジャンルやテンポが合わない場合、作業効率やスピードが低下する懸念があります。 例えば、事務作業のように落ち着いて作業したい場面でアップテンポな曲をかけると、せっかくの音楽が邪魔になってしまいます。

3:人によっては不快に感じる

音楽によるタイパや生産性アップの効果は、個人の感覚や感情に大きく左右されます。 仮に自分が好きだと感じる曲も、人によっては不快に思うことが。 オフィスのように、複数人が同じスペースで作業する場合は、好みを考慮して音楽を流す必要があります。

音楽を上手に活かしてタイパや生産性を高めた実例

音楽によるタイパや生産性向上を狙い、実際に効果を高めた実例を紹介します。 ぜひ、音楽を上手に活用して、より良いパフォーマンスを発揮しましょう。

(1)トランスコスモス

コールセンターの受託事業を手掛けるトランスコスモスは2019年と2021年にUSEN、大妻女子大学と共同でBGMがコールセンターで働くオペレーターに与える効果について共同研究を実施しました。 2019年の調査では、BGMを流した期間は、流さなかった期間より「抑うつ」や「怒り」が低く、「やりがい」も高かったことが分かりました。

続く2021年の調査では、各フロアの「執務室」「廊下」「リフレッシュルーム」で異なるタイプBGMを流して、気分や業務へのワークエンゲージメント(仕事へのモチベーション)を調べています。 結果は、音楽があることで全体的に「緊張」が緩和しました。 部屋別にみると執務室は落ち着いた曲、廊下やリフレッシュルームでは快活な曲がより効果が高いことが分かりました。 ワークエンゲージメントについては、執務室においてBGMが好きな程度が高いほど、高い傾向でした。 これらの結果をもとに、トランスコスモスではコールセンターにおけるBGM導入を積極的に推進しています。

(2)キラックス

食品包装資材のメーカー/総合商社であるキラックスは、2019年にオフィスBGMを導入しました。 きっかけは、同年に本社を新社屋に移転するのを機に発足したワークスタイルの変革を目指した、社内プロジェクト。 さまざまな検討を重ねる中で「社内の雰囲気を変えるために音楽を流してはどうか」という意見が出て、導入に至ったといいます。

BGMが流れるのは「執務室(事務所)」「ダイニングスペース(食堂)」など、会議室と倉庫を除く全フロア。 始業前は小鳥のさえずりが入った音楽、午前は集中力が高まる音楽、昼休憩はジャズ、午後は眠気や集中力の低下を防ぐアップテンポな曲と時間帯ごとに流す曲のタイプを変えているそうです。

当初は音楽によって「集中力が低下するのでは?」という心配の声もあったそうですが、いざ始めて見ると「雰囲気がよくなった」「コミュニケーションが取りやすくなった」とポジティブな意見が大半だったといいます。

2019年にオフィスBGMを導入

(3)ソフィー学習塾

新潟県長岡市にあるソフィー学習塾では、小学生から高校生まで幅広い学年の生徒が学んでいます。 昨今、情報過多と言われる中、子ども達の頭の中にもたくさんの情報が詰まっています。 塾ではそこに、学習における情報をインプットしていくのですが、既にいっぱいでなかなか入っていきません。 そこで、「生徒の頭の中にスペースをつくる」ことを優先し、35の取り組みを実践しています。

具体的には頭の中を整理するために「話し聞く」、本人の中で課題や目標を明確化する「コーチング」など、ビジネスの世界でも求められるものばかり。 その中の一つに「BGMを流す」という取り組みがあります。 狙いは、適切な音楽を流すことで「学習効果や集中力」を高めること。 これこそ、20年以上の実績を持つ教育の専門家も、音楽を活用した成果向上を実感していることの証でしょう。

ときに音楽は、集中力を削いで効率を悪くすると捉えられがちです。 しかし、それは時と場所に合った音楽を正しく使えていないからに他なりません。 メリットとデメリットを正しく認識し、上手に利用できれば、音楽がタイパ向上にも生産性アップにも役立つはずです。 ぜひ、あなたの環境や好みにあった音楽を活用して、毎日の生産性を向上させましょう。

Words: Kosuke Kusano

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