オーディオテクニカの完全ワイヤレスイヤホンのフラッグシップモデル『ATH-TWX9』。 2022年9月に発売された本製品はこれまでにない便利な機能を採用しているが、その多くがスマートフォン専用アプリ「Connect」を利用を想定したものとなっている。 つまり、アプリそのものが、イヤホンの主役に躍り出たとも言えるだろう。
そんなアプリの開発秘話を紐解く連載の4回目は、ATH-TWX9に向けた開発やデザイン背景についてのお話。 今回もConnectのデザインや開発、実装をはじめリリースした後の状況解析などの仕事に携わる担当者の大島克征さんにインタビューしていく。 新しい仕事に挑戦する開発ストーリーは、いつだってビジネスマンの心に響くはずだ。
そもそもイヤホンアプリは購入してから使うため、よくわからないという人も多いだろう。 一言で表すなら、イヤホンの動作状況や電池残量などをスマートフォン上で確認でき、管理・操作できるもの。 さらにConnectアプリは、この3月末に大型アップデートを行い、イヤホンがより楽しくなる進化を遂げている。 すでにオーディオテクニカのアプリ対応イヤホンをお持ちの方は、是非その使い勝手の良さを体験してみてほしい。
2つのノイズキャンセリング
2022年には、フラッグシップとなる完全ワイヤレスイヤホンATH-TWX9が発売されました。 オーディオテクニカイヤホンとして新機能となる、そのほとんどがアプリを使うものになっていましたよね。
ええ。 具体的なものを挙げていくと、個人に最適化するための「パーソナライズノイズキャンセリング」と、環境に最適化するための「オプティマイズノイズキャンセリング」という2つの方法でノイズキャンセリングを最適化するコンセプトが企画担当から上がりました。
どちらも複雑な機能なのでイヤホンの操作だけでは成り立たない。 アプリから設定を行ったり、設定状況を確認したりする必要があります。 そのため、アプリ上でこの2つのノイズキャンセリングと連携できるように、新たに開発を進めていきました。
パーソナライズとオプティマイズはそれぞれ、人と場所に対してノイズ調整を最適化するもの。 つまり、2つのノイズキャンセリングが働いているということですね?
いいえ、少し違います。 パーソナライズは「個人の耳の形やイヤホンの着け方を測定して、適切なノイズキャンセリング効果が得られるように調整する」というもの。 一方、オプティマイズは「周囲の環境を測定して、最適なノイズキャンセリングが適用される」というものです。 いずれのノイズキャンセリングも「ノイズに対するフィルターを調整する」ということには変わらないということになります。
ただ、それぞれアプローチが違うため、アプリでどうやってユーザーに見せるかについて開発チームで詰めていかなければなりません。 この取り組みにあたり、企画担当を中心にファームウェア開発チームとアプリ開発チームで協力して、プロジェクトを進めていこう!ということになりました。
一人ひとりの耳に合わせてノイズキャンセリングを最適化
なるほど。 まずは、パーソナライズからお伺いしますが、どのように進めていきましたか?
パーソナライズは、イヤホンの耳への収まり具合を計測するものです。 計測そのものはイヤホンが行いますが、スタートするトリガーについてはアプリ側で行います。 アプリでスタートを押すと、イヤホンが内蔵マイクを使って耳への収まり具合を計測・判定してノイズフィルターを決め、その結果をアプリに伝えます。 アプリはその結果を持って、ユーザーに計測が完了したことお知らせする、といった流れですね。
今いる環境に応じてノイズキャンセリングを最適化
もうひとつのノイズキャンセリング、オプティマイズの方はどのように進めましたか?
これまでのノイズキャンセリングは、ユーザーが自分で使う環境に合わせて「Airplane」や「Office/Study」などからのフィルターを選ぶことができました。 オプティマイズは、自動的にフィルターを環境に合わせて適用してくれる機能になります。 結果、環境に合わせていることは同じなので、アプリ上では並列な選択肢にしていて、「Optimaized」を選ぶと計測してくれます。 パーソナライズと同様に、イヤホンで計測・判定し、アプリはその状況をユーザーに伝える役割になっています。
製品の機能としては独立しているように見えても、パーソナライズ・オプティマイズともにノイズキャンセリング機能の下の階層に収まるものです。 なので、ノイズキャンセリング画面の構成も検討する必要がありました。 元々はアンビエンスコントロールの設定でノイズキャンセリング・ヒアスルー・オフが選べて、それぞれの項目の間に差し込む形で設定を表示していましたが、増えた複数の設定を出すのは混乱を招きそうでした。
その混乱を防ぐために、画面を上下で分割して各設定を詳しく出せるようにしました。 このようにすることで、ノイズキャンセリングを選んだら下の画面にオプティマイズの最適化も実行できて、さらにパーソナライズの設定も表示できる仕様になりました。 この画面は、私がデザインから担っていますが、画面構成を成立させるのは苦労しました。
デザインも内製化へ
デザインは外部に委託していたこともあったと思うのですが、開発者自身でもデザインをするのですね?
実はそうなんです。 2022年モデルあたりから、ほとんどのデザインを私をはじめとした開発チームで行っています。 要件をまとめてから、外部のデザイナーに出す選択肢もありましたが、製品挙動も複雑なので、議論のたびに私なりの仮デザインでイメージを具体化して話を進めるようになってきて……。 より速い判断を下すためにも、デザインについて勉強しつつ、仮デザインの精度を上げるようにトライアルしているうちに、自他ともに納得できるアウトプットになってきたという感じです。
今説明したパーソナライズ・オプティマイズも、ボタンを押すタイミングなど製品の挙動に依存するものですから、より製品と一体的なデザインにする必要がありました。 また、オプティマイズの実行はホーム画面でも行いたいという要望もあり、その画面での見せ方も悩みました。 どうやったら視覚的に伝わるのか。 初めて使うユーザーでも直感的に理解できて、迷わずに実行できることが重要です。
そういった意味でも、ATH-TWX9の開発にあたってはデザインを内製化する大きなきっかけにもなりましたね。
ATH-TWX9のアプリ開発を経て、さらに進化を続けるアプリ。 そのお話しはまたの機会に。
終わりのない新たな挑戦の連続。 だから開発秘話は面白い
ひとつの製品ができるまでに、さまざまな人やモノ、お金が動いている。 そして、製品が発売された後も課題が生まれる。 1962年に創業したオーディオテクニカは、その長い歴史とともに時代の開発者が試行錯誤を繰り返し、60年以上にわたり音とモノづくりにこだわり続けている。
気になった方は、下記の専用アプリConnect対応モデルを是非チェックしてほしい。
Words & Edit:Yagi The Senior