有名なクラシック曲である「G線上のアリア」と「パッヘルベルのカノン」には、現代の人気曲にも共通する特徴があります。 その共通点の「カノン進行」と呼ばれるコード進行について、音楽家、録音エンジニア、オーディオ評論家の生形三郎さんに解説していただきました。
クラシックと現代のポピュラー音楽、共通の響き
きっと誰もが一度は耳にしたことがあるクラシックの有名曲に、「G線上のアリア」や「パッヘルベルのカノン」があります。 名前だけ聞いてピンとこなくても、恐らく曲を聞けば、あぁあの曲かとご理解いただけると思いますので、以下のリンクから少し聴いてみてください。
この2曲は、クラシックの曲の中でも非常にポピュラーな存在です。 この2つには大きな共通点があるのですが、実はそれはこの2曲だけに限ったことではなく、誰もが知るポップスやロックの名曲にも度々共通する特徴のひとつなのです。
その共通点が、「コード進行」です(厳密には、「コード進行」とはポピュラー音楽分野で用いる言葉ですが、ここでは便宜上こう呼びます)。 これこそがこの2曲が、クラシック音楽でありつつも時代を超えて多くの人に親しまれ続ける理由の一つです。 それを裏付けるのが、先述したように、誰もが知るポップやロックの大ヒット曲にも、この2曲と同じコード進行が使われている事実でしょう。
ヒット曲に使われる「カノン進行」
コード進行とは、コード=和音の進行のことです。
普段我々が耳にする多くの音楽は、専門用語でいうと、和音による伴奏の上にメロディを乗せる「モノフォニー音楽(和声音楽)」と呼ばれるものになっています。 例えばアコースティックギターを弾いて歌っている人は、ギターでコードを弾いて伴奏として、その上にメロディを歌っています。 ピアノの弾き語りも同じです。
このコード進行には、定型となるパターンが無数に存在し、それをそのまま使ったり応用した曲が数多く存在します。 代表的な定型の一つが、「G線上のアリア」や「パッヘルベルのカノン」に使われている「下降型順次進行」あるいは「カノン進行」と呼ばれるものです。 特に日本のヒット曲には山ほど使われており、日本人が大好きなコード進行と言ってもよいでしょう。
実際に「カノン進行」が使われている曲を聴いてみよう
ポピュラー音楽で広くこのコード進行が使われるようになった発端と言われているのが、イングランドのロックバンド、プロコル・ハルム(Procol Harum)のデビュー曲「青い影」(1967年)です。 この曲は先ほどのカノン進行をほぼそのまま使用しています。 試しにこの曲を聴きながら、G線上のアリアやパッヘルベルのカノンの主旋律をちょっと口ずさんでみてください。 なんとなく、そのまま違和感なく歌えてしまうかと思います。
他にも、例えば洋楽であればビートルズ(The Beatles)の「Let It Be」もそうですし、ビートルズに大きな影響を受けているオアシス(Oasis)のヒット曲「Don’t Look Back In Anger」もこの進行を応用しています。 他にも、マルーン5(Maroon 5)「Memories」などは、明らかにこの進行やメロディをモティーフとしていることが分かるように作曲している、分かり易い例の一つです。
そして邦楽でも、例えば最近では、あいみょん「マリーゴールド」、時代を遡っていくと、AKB48「恋するフォーチュンクッキー」、一青窈「ハナミズキ」、宇多田ヒカル「First Love」、 X JAPAN「ENDLESS RAIN」、山下達郎「クリスマス・イブ」などなど、時代を問わずおもにポップスのヒット曲には必ずと言っていいほど使われて来ています。
どうしたら聴き分けられる?
最初は少し分かりづらいかも知れませんが、例えばベースという低音を担当する楽器の音程を耳で追っていくと、同じ進行をしていることがよく分かります(ベースは、歌やギターの下で、ボンボンという低い音を出している楽器です)。
作曲方法には、メロディから作ったり、コード進行から作ったり、といった様々な方法がありますが、ヒット曲の中には、明らかにこのコード進行ありきで作っていると、感じられるものも多いように思います。 筆者が音大の作曲科に在学中、ある作曲の先生が冗談交じりにこう言っていました。
「メロディを真似るのはご法度だけど、コード進行ならいくらでも模倣していいんだよ」。
実際、既存曲のメロディをそのまま使って曲を作ってしまうと著作権的に問題になってしまいますが、コード進行を用いること自体は問題になりません。 となると、一見、それなら誰でも簡単にヒット曲が作れそう、と思えるのですが、逆に使い方やメロディのセンスがダイレクトに反映されてしまうので、やはり話はそう単純ではありません。
音楽を耳で観察してみよう
先ほど挙げた使用曲を聴き比べてみると分かりますが、中には巧みに異なるコードを挟んだり、別のコード進行を組み合わせたり、あるいは、コードを刻むリズミが巧みだったりアレンジを工夫したりと、パッと聞いただけではわからないものも多くあります。 そうやって音楽を聞いてみると、作り手のセンスや妙技がわかって面白いですよね。
これは、職業病の記事で書いた、音楽を耳にしたときについつい分析してしまう私のクセの一つです。 しかしながら、そうやって音楽を聴いてみると、その音楽への理解が一層深まって楽しいです。
そして、それをさらに「オーディオ」で聴くと、作曲やアレンジの妙だけではなく、今度はそれらが如何に一つの音源として組み立てられているのか、という音質面での妙味を味わうことが出来ます。
言い換えれば、作曲家やシンガー、アレンジャー、ひいては、録音エンジニア、マスタリングエンジニア、プロデューサーなどなどと、その音楽に関わった人の数だけのこだわりを掘り下げていくことにほかなりません。
まさにオーディオは、音楽から得られる喜びを何倍にも増幅してくれるものなのです。
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Words:Saburo Ubukata