アナログシンセやデジタル機器がこんがらがり、壁には『2001年宇宙の旅』や『エイリアン』の映画ポスター。ニューヨーク(以下NY)、アッパーイーストサイドの一室。

古いSF映画の世界への憧れが煌めくこのベッドルームで、Computer Magicが紡ぐのはバキバキのシンセポップサウンド。「宇宙っぽい音楽を作りたい」という彼女の音を生む、NYの日常と好きな場所。

SF、コンピューター、サブカル。Computer Magicのレトロフューチャーな世界

カタカナで「コンピューター・マジック」と書かれたステッカーにTシャツ。宇宙服を思わせるコスチュームには、日の丸パッチ。『AKIRA』のようなSF&ディストピアンな世界観。日本のカルチャーへの愛がビシビシと伝わってくるアーティスト「Computer Magic」。“Danz”の愛称で知られる、NY出身のアーティストDanielle Johnsonのソロプロジェクトだ。

宅録アーティスト「Computer Magic」のベッドルームより。シティ散歩、チャイナタウンの遊び場、宇宙スポット
Danzの部屋にて。

ニューウェーブからイタロ・ディスコ、70年代ディスコ、クラウトロックまでを網羅するエレクトロニックな音楽性。作詞・作曲・編曲までを、自分のベッドルーム兼プライベートスタジオで1人でこなす。

その楽曲は、キューピーハーフやレクサス、パナソニック・ビューティーのコマーシャルで起用され、精力的に来日公演も行っていることから、Danzは日本でも“NYの宅録ガール”と呼ばれたりして、根強いファンを増やしている(Danzも「日本は住みたいくらい大好き!」)。

宅録アーティスト「Computer Magic」のベッドルームより。シティ散歩、チャイナタウンの遊び場、宇宙スポット

NY州北部の田舎町で、15歳から音楽ブログを始めていた根っからの音楽オタク。18歳で大都会マンハッタンへやってきた。かつてDJとして出没していた頃の音楽ベニューから、深夜のシティ散歩、行きつけのジャパニーズバー、近所の“宇宙スポット”まで、話は自由気ままに浮遊する。Danzの“マイペースな自分の場所”、ベッドルームよりお送りします。

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AL:ジャケットで宇宙服っぽいの着ているの見たし、部屋のポスターもだし。Danzは、宇宙とかSFが好き。

D:そう。SF的なビジュアルを好きになったのは、ちょうどComputer Magicを始めた頃!その時はまだフロリダに住んでいたんだけど、古いSFの映画にハマってて。「こういう映画のサントラになるような、宇宙っぽい音楽を作りたい」って考えるようになったんだ。

AL:へえ〜!Computer Magicには古いSFの映画あり。NYじゃなくて、フロリダで始まったんだね。

D:高校を卒業して、大学進学のためにNYに引っ越して。ただ、NYでDJとして活動するようになって、大学は1年目の1学期でドロップアウト。それでフロリダに行ったの。

AL:フロリダで何してたの? SFの映画見る以外で。

D:超暇してた(笑)。レストランの仕事に応募したんだけど、どこも雇ってくれなくて。NYの忙しすぎるレストランで働いた経験があるのに!しょうがないからAbletonをダウンロードして、曲を作るようになったの。

AL:Computer Magic誕生の瞬間だ。Abletonとかの使い方はどうやって?

D:これは何事にも関する私のフィロソフィーなんだけど、「やり方は何とか自力で理解する。わからない時はビデオとかオンラインの情報を探してどうにかする」。Abletonの使い方は、Googleで検索して、YouTubeのチュートリアルビデオを見て学んだ。

AL:どうやってDanzの存在を知られるようになったんだろう。

D:曲を作って、その音源をネットにあげるようになって。15歳から音楽ブログをやっていたおかげでPRメールの書き方とかを知っていたから、他の音楽ブログとかにPRメールを送るようにしたの。「私はDanz、NY出身の20歳。シンセ使って音楽作ってます!」って。

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AL:全部自分で!

D:それでネット上で認識されるようになって、そのうちに「ねえ Danz、NYでショーやってくれない?」みたいに声を掛けられるようになって。NYに戻ってからショーをやるようになったんだ。

AL:宇宙のことに戻るけど、ちなみに宇宙のどこにそんなに惹かれたの?

D:“未知”ってところ。宇宙のサイズと比べると私たちの日常の悩みなんて本当にちっぽけな存在。私たちって本当にちっぽけで、宇宙って本当にデッカいからね。あと一番クレイジーだなって思うのは、私たちは今、岩の塊に乗っかって、宇宙空間を旅してるってことかな。

AL:宇宙に関連する、好きな場所とかがあったら教えて。

D:アメリカ自然史博物館は近いから、プラネタリウムによく行く。ブラックホールについて、とか、次の火星探査についてとか、いつも面白いレクチャーをやっててそういうのも面白い。周りの人には、あんまりわかってもらえないんだけど。

アメリカ自然史博物館
American Museum of Natural History

200 Central Park West, New York, NY 10024

セントラルパークに隣接する、米国でも屈指の自然史博物館。 古代文明から宇宙にいたるまでの壮大なテーマの展示がある。見どころは、世界最大の規模といわれている恐竜の化石コレクションや、大広間に吊り下げられた30メートルのシロナガスクジラの模型。映画『ナイトミュージアム』の舞台にもなった。

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ミニ冷蔵庫に、NASAのマグネット栓抜きを発見。

AL:大学時代に少しだけ居たNY生活のこととか、その前のこともせっかくだから聞いちゃおう。遡って、ティーンエイジャー時代はどんな音楽を聴いて育ったの?

D:幼少期なんだけど、お母さんが初めて買ってくれたカセットが映画『グリース』のサントラ。ミートローフのやりすぎなロックンロールの曲が入ってるやつ。もう少し成長してからは、周りが90’sのR&Bを聴くようになって、マライア・キャリー、Sisqó
、Ma$eとか、学校中がそんな音楽を聴いてて。私はというと、スパイス・ガールズとかをよく聴いていたかなぁ 。

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AL:もろ90’sって感じだね。

D:その後、もっとインディーな音楽を聴くようになって。Franz Ferdinand、The Killers、Kaiser Chiefsとか…。海外の雑誌も買うようになったしね。NME Magazine、Mojo Magazineとか。それから、ネットでUKのバンドについていろいろ調べるようになった。UKのバンドのフォーラムがあったり、コンサートとかがあると、お母さんに車でつれて行ってもらうようになったりして。Arctic Monkeysの一番最初のUSツアーのコンサートに行ったりね。彼らがNew Orderなどニューウェーブバンドから影響を受けてることを知って、さらに古いものも聴くようになった。

AL:そして、15歳の時には音楽ブログをスタート。後の活動にも繋がる原点。

D:私が当時好きだった音楽がこのへん。かなりクールな15歳だなぁ。

Danzが当時ブログで紹介していたアーティストの一部

2006
Deerhoof
Sex Pistols
The Magnetic Fields
Cat Power
CSS

2007
Arcade Fire
Beirut
Panda Bear
The Clash
Band of Horses
Keith Richards



AL:学校の友達にはこのブログのこと教えてた?

D:Myspaceとかオンラインの友達にだけ。学校の友達とは聴いてるものが違いすぎて、音楽の話はしなかったから。卒業してシティに引っ越してDJになることを思い描いてたから、卒業するのが待てなかったな。

AL:高校卒業してからのNY。まず、DJ活動。どんなパーティーでDJしていたの?

D:主にロウワーイーストサイドのアングラなパーティー。その時まだ18歳だったから、本当はその場にいちゃいけなかったんだよね、警察が来たら隠れたりして。フェイクIDで忍び込んで来る学生とかもたくさんいて、熱っぽい空間だった。

AL:どんな音楽をかけてたの?

D:UKの音楽。私がブログに書いていたような音楽を、NYに来てからDJとしてかけていたって感じ。音楽聴いて楽しんで、同じ人たちと毎週会って。そんな感じだったね。

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AL:最近DJの活動は、全然?

D:毎週、というのはもうないかな。でも最近「Schimanski」っていうブルックリンにあるすごくいい感じの場所でDJやったよ。ちょっと前に、MGMTのオープンでも回したし。

Schimanski

54 N 11th St, Brooklyn, NY 11249

4年ほど前にできた、ブルックリン・ウィリアムズバーグ地区にあるライブベニュー。欧米のハウス/テクノDJたちが、明け方4時まで、重音を鳴らす。Schimanskiという聞きなれない名前は、ドイツの犯罪ドラマに登場する刑事が由来だとか。

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AL:ちなみに、当時から今でもお気に入りの場所ってある?

D:大学生の時はチャイナタウンに住んでいて、そのエリアにある「Chinatown Fair」。すごくクールなアーケード(ゲームセンター)で、ずっと昔からあるんだって。

ご飯所だと「Wo Hop」!地下にあるチャイニーズレストランで、24時間オープンかどうかはわからないけど、とにかくいつもかなり遅くまで開いてて、めちゃくちゃグッド。

Chinatown Fair Family Fun Center

8 Mott St, New York, NY 10038

1940年代に開店した、歴史ある昔ながらのゲームセンター。各種ビデオゲームや、パックマンなど、懐かしのゲームを取り揃えている。子どもの誕生日パーティーを開催することも可能。

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Wo Hop

17 Mott St, New York, NY 10013

明け方4時半まで営業している広東料理店。1938年創業。揚げ餃子や揚げ春巻き、スペアリブなどで、メニューや味付けは、本場というより“アメリカナイズされたチャイニーズ”。地上階にもあるが、そこには旅行者などが集まる。本物のNYの地元を味わうならぜひ地下階へ。

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AL:アーケードといえば、Danzはゲーム好きだよね。ゲーム実況もしているほど。

D:ゲーム実況は基本自宅からやるんだけど、「OS NYC」っていうチャイナタウンにあるゲームラウンジからもやってる。PCがずらーーっと並んでいてね。私はそこのパートナーだから、いつでも好きな時にストリーミングルームでゲーム実況していいんだ。

OS NYC

50 Bowery, New York, NY 10013

ゲーマーやゲームコンテンツクリエイター、ゲーム実況者が集まるゲームラウンジ。ゲームで遊べるセクションや、その場でゲーム実況が配信できるブースがある。ゲームトーナメントも定期的に開催。

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AL:へえ〜!

D:あとは、ゲームでいうと近所の「Hex & Company」。ボードゲームで遊べる場所があってそこにもよく行く。

AL:どんな場所なの? Danzはどんなゲームをするんだろ。

D:ここは、マシンの代わりにボードゲームとかがたーくさん置いてあるの!ボーイフレンドが教えてくれたんだけど、すっかりハマっちゃった。最近のブームはカードゲーム。ここに2人で一緒に来て、カードのパック買って、プレイしてる。

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Hex & Company

1462 1st Avenue, New York, NY 10075

アッパーイーストサイド地区にあるボードゲームカフェ。店内にある1,000種類以上のボードゲームやカードゲームを借りて、コーヒーやスイーツ片手に遊ぶことができる。

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今日も、Hex & Companyへ。ボーイフレンドも合流。

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AL:ゲームマシンもボードゲームもカードも操るDanz。楽曲制作に使うマシンについても聞こうかな。初めてのマシンは?

D:「miniKORG」。フロリダにいた頃ね。掲示板で見つけて安く買ったの。

AL:楽曲制作は基本的にはこの部屋にあるマシンを使うんだよね?マシンにこだわるようになったのはいつから?

D:そう、テープマシンでベースの音をレコードする。ペダルも使うし。こだわるようになったのは、音楽制作の技術が上達していくにつれて、「どのマシンがどんな音を出すのか」が気になりだして。数年前に「アナログの方が音いいじゃん」って考えから離れられなくなって、それ以降マシンをどんどんアナログにしていった。

AL:いまはもうほとんどアナログ?

D:ソフトウェアを使うことはほとんどないかな。アナログ+デジタルのハイブリッドのこれ(Prophet 8)も、いまはキーボードとしてしか使っていないし。

AL:Danzがアナログにこだわる理由ってなんでしょう。

D:Giorgio MoroderとかKraftwerkとか、YMOとかもだけど、あの辺のオールドスクールの人たちってアナログマシンを使っていてテープに録音してるんだけど、本当に暖かい音がする。「私の音楽に、あの音が欲しい!」って思うようなって。でも、やってみると難しいね。テープはすごく高いし。あの音を作るために私ができる最善のことは、アナログのハードウェアを使うこと。

AL:最近の制作もアナログ?

D:ちょうど新しいアルバムを作り終わったところ。使ったのは全部アナログマシン。Rolandの「TR-808」(日本ではヤオヤと呼ばれる、歴史的ドラムマシン)をレンタルして使ったりもしたし。

AL:どんなアルバムになるのか気になる。

D:今までで一番エモーショナルな作品になりそう。自分の感情の奥底まで潜っていって曲を書いたんだけど、そのプロセスはすごく難しかった。だからこそ、最高のアルバムになったと思うよ。

AL:リリースが楽しみ。楽曲制作中こそスタジオに篭っていると思うけど、気晴らしとかでいくスポットってある?

D:そうね……。夜遅くにヘッドフォンつけてシティを歩き回ったり、開いている所でビールでも飲んだりしてるかな。地下鉄に乗ってどこかに行ったりもする。

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AL:散歩が好き。

D:歩き回るの大好き。楽しい。セントラルパークを夜歩き回ったりとか。自宅から歩いて7分くらいのメトロポリタン美術館(MET)にもよく行く。ロックンロールのエキシビジョンに最近行ったんだけど、Keith Emerson Moogのシンセが展示されててすごくクールだった。

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AL:これからあったかくなるし、ビールもいいけど冷たい飲み物でパークもいいね。

D:天気が良い時に、「Bluestone Lane」に自転車で行ったりするよ。セントラルパークのバイクパス(自転車道)に行く前にちょっと寄ってなんか買ったりね。

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Bluestone Lane

1085 5th Ave, New York, NY 10128

米国・西海岸から東海岸までに展開するコーヒーショップ。Danzの行きつけは、セントラルパークすぐ横にある、アッパーイーストサイド店。隣接する荘厳な教会「Church of the Heavenly Rest」の建物の一部にあるという、異空間だ。

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AL:好きなメニューは?

D:ハイビスカスティーは結構よかった。あとはフツーに、アイスコーヒーとかね。

AL:日常的によく行く所はどこだろう。

D:近所の24時間開いているボッデガは毎日行く。働いている人とも顔見知りだから。真夜中にチップス買いに行ったりね。

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Y.C Deli Gourmet Market

1576 2nd Ave, New York, NY 10028

NYの“コンビニ”、“よろずや”、“デリ”こと〈ボッデガ〉。食品から生活雑貨品までを売っている(店によっては、ネズミ捕り用の店番のネコがいるボッデガも)。通りを行くごとに無数に散らばるボッデガ。Danzのマイ・ボッデガは、なんの変哲もない(それだからいい)1軒だ。

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AL:やっぱりDanzは夜行性だね。夜中のチップスいいよね。

Danz a.k.a Computer Magic

宅録アーティスト「Computer Magic」のベッドルームより。シティ散歩、チャイナタウンの遊び場、宇宙スポット

NYを拠点にするミュージシャン。各種シンセサイザーなどの楽器を駆使し、宅録で音楽制作をおこなう。NY出身。ミュージシャン活動を本格的に始動する前は、音楽ブロガーやDJとしても活動していた。特徴は、ポップなエレクトロサウンドとレトロフューチャーな世界観。これまでに2枚のスタジオアルバムを発売。日本のポップカルチャーが好きで、自身の楽曲は日本のキューピーハーフやレクサスのCMでも起用された。
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Computer Magic “Dreams of Better Days (Don’t Pass Me By)”

Computer Magic “Dimensions”

Danzのオリジナルプレイリスト

YouTubeから1曲:“Lost Again” by Yello

Photos:Kohei Kawashima
Interview:Kaz Hamaguchi
Text&Edit:HEAPS

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